エマという女
おそらくこの地球上で誰からも愛されていないという確固たる自負があった。
それは、無口な性格だからでもなく、せっかくの白い頬にできたそばかすのせいでもなかった。
ひとえに私の過去からくるものであった。
私はエドワルド公爵を父にもつ高貴な血が流れた娘であったが、メイドである母とのあいだにできた隠し子であった。そのため、決して父を父と呼んだことがなかった。
母は私の最低限の生活を支えてくれていたが、一度ドアの外にでると、母の親戚の子供であるということになった。夜な夜な泣きながら刺繍をする母に私は不満などいうことはできなかった。
父は家庭においても仕事においても冷徹な人であった。そのためあんな事件が起こった。父と母の関係を知る唯一の執事が、父の姉であるコーゼルトの尋問により、すべての事情を吐いてしまった。泣きながら謝罪をする執事に父は何も言わずに睨んだ。そして、母のもとに来た父は、一言息も吸わずに告げた。
「この家から出ていってくれ」
これ以上俺の人生の邪魔をしないでくれと目で確かにそういっていた。私は隣の部屋から影のようにただ呆然とその光景を見ていた。
「はい、分かりました。」
母が言ったのもその一言だけであった。そして、私と母は屋敷から楔た道を馬車も用意されずに伸びるように歩いていった。
貧しいながらも母と二人で暮らしていた12の冬に私は人生の苦境に立たされた。母の病である。パルニノウニという皮膚病は貧しいものにとっては治す余地もなかった。
私は、なんとかお金を工面しようとしたが何もできなかった。身をも売ってしまおうとする私に母はやめなさいというように腕を掴んだ。そうして、私の頭を撫でた。
母は雪も積もらない夜のしんしんとした部屋の中で、窓の方を向きながら死んでいた。
それからの私は自分が生きるために生きた。町の中央にあるバーで接客をしながら暮らしていた。ひどく口下手な私は、提供ではなく、歌を歌うショーの方に回された。なぜだか、歌うときは緊張知らずであった。
雨の日の夕方、客も少ないだろうと見込んで、ショーの準備を普段より少人数で遅めに進めているときにその人はやってきた。店に入ってくるなり女をじろじろと見る彼に私はひどく不快に感じた。そうして、彼が一番大きなソファーに座ると、店娘たちは一同に騒いだ。
絵画を壁に飾ろうとしている時、後ろから小さく声が聞こえる。
「彼、、、独裁者マルスコード=モーガフじゃない、、、」
私が振り向く時、彼は確かに私を見つめて笑っていた。