魔族の宝石、闇の声
「リーク、探したわ。どうしてレイチェル様といらっしゃるの。」
ティアは、悲しげに顔をくしゃっと歪める。
物凄く、儚げに、寂しそうに、男性の心をわし掴みする動作。
あざとい、あざとすぎる、ティアの行動に呆れる。
「今日は私が焼いたマドレーヌを一緒に頂く、約束でしたのに。」
レイチェルを視界にも入れず、リークの元に駆け寄り、にっこりと微笑む。
リークは、いつものリークに戻り。
レイチェルに「失礼する」と目もくれず「行こう」とティアの手をとり、歩きだす。
ティアは目で私にアピールしてきた。
「ざまぁ見ろ」と、
「あんたなんかに、リークは渡さない。」と言わんばかりに。
「行ってしまったわ」
私は、殿下が居なくなり、寂しさが募る。
その時
「レーチェ」とディーネが声をかける。
私はディーネに向きなをる。
「どうかしたの?ディーネ。」
うーんと言いながら「あのティアって子、前より魔力が上がってるんだけど」
どうしてかしら、「うーん」と首を捻っている。
「魔力が上がるって、どういうこと。」
「あの、赤い宝石ね。凄い魔力が秘められているわ」
「私には、感じられなかったわ。」
あのね、レイチェルと呆れたように
「私は、上位精霊のウインディーネよ。それぐらい感じ取れなくてどうするのよ。それに、力は人間に分からないように、わざと封じているわ。」
バカにしないで。と、ディーネは、プンプンと怒っている。
「赤い宝石が、なぜティアに渡るように仕向けられたのかしら、あんな所にあるなんて」
確か赤の宝石は、「魔族が使う、宝石魔法」と魔法書に書かれていた。
人間を思いのままに操れ、その者の力に答えて、魔力をあげる。
その見返りに、「持ち主の心臓を喰らい尽くす」とあった。
まさか、魔族がティアの心臓を欲しがっているなんて。
信じられないが、あり得る事だ。
現実に「赤い宝石」があるのだから。
ティアが、このまま持っていたら大変なことになるわ。
「能力が、メキメキとわいてくるのが分かるわ。」
「今の私ならどんな魔法も使いこなせそうよ。」
ティアは赤い宝石を身に付けてから、能力を上げて学年首位に上り詰めた。
ティアは、学園での権力も上げ。子爵家も隣国との貿易で在位を上げ、陛下の信頼も着々と上げていき、今では伯爵の地位に格上げしている。
急速に変化する状況に追い付かない私は、ティアに魅了されているリクイド殿下を奪還するため、アレクセイに相談しようと考えている。
数日後私は、アレクセイに話すべく声を掛けた。
「アレクセイ様。お話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
深刻な顔の私に、アレクセイ様も読み取ったように、「改まって、どうしたの?」
私は、思いきって伝える。
「最近のティア様とリクイド殿下についてです。」
アレクセイ様も神妙な顔つきになる、
「うん。言いたい事、何となく分かるよ。」
私は、簡単に説明した
「信じて貰えないかと思いますが。ティアの実力が、急激に上がっているのです。」
それは、赤い宝石を手にしてからだと言うこと。
ティアは魅了の持ち主であること。
その魅了でリクイド殿下を操っていること。
「信じて頂けないとと思いますが、事実なのです。」
私は、ディーネにお願いをする。
「ディーネ。今までの記録を、アレクセイ様に見せてあげて。」
ディーネは水の精霊の姿を表し、
記録していた今での出来事を見せる。
「これは確かに魅了魔法だ、ティアは魅了魔法を得意としていたのか。」
「リークを惑わしていたんだね」と納得された。
あの、「赤い宝石」はなぜティアの手に渡ったたのか。
それに、赤い宝石の正体が判らない。
「あれだけの魔力だ、闇の宝石だろうね。」
「アレクセイ様もそう思いますか。」
アレクセイ様は私と同じように、魔法書を読んだようだ。
この世界では、「赤い宝石は禁忌」だ。
ティアは知らないのか。それとも、自ら取り入れたのか分からない。
アレクセイ様は「先ずは、リークを魅了魔法から解かないとね。」とおっしゃい。
私は「はい」とうなずいた。
アレクセイに話して良かった。
信じて貰えて良かった。
アレクセイ様と一緒に、リクイド殿下を元に戻そう。希望が見えて来たわ。
ああっ…。
面倒な事になった、早急に事を進めないと。
これからは、ティアにはもっと働いて貰わないとね。
闇に囁く声に、レイチェルは気が付かなかった。