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蒼のAGAIN  作者: 「S」
第一章 終焉からの幕開け
1/13

プロローグ 『始まりの死』

『蒼のAGAIN(旧作)』のリメイク版です。

4月1日にどちらが面白いかを読者の皆様に選んでいただきたく思います。

皆さん、ヨロシクです。

 透き通った青空。朱色に染まる夕暮れ時。

 ゆっくりと動く雲が、頬を撫でるそよ風をより一層、肌に感じさせる。



 ――13階建てビル屋上。



 柵の無いお気に入りの空間。たくさんの思い出に溢れた地。誰も寄り付かない、静かな場所。

 そこから眺める街の風景は絶景で、何度訪れても飽きることを知らない。



 ――ただ、



 今から取る自分の行動が、この場所を不幸の色に染めてしまう行為だと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 それも仕方がない。

 今まで、いろいろなことがあった。いろいろなモノを失った。


 瞳の奥に映るのは、思い出の数々。

 本当に、何を恨めばよかったのだろう。


 大切なモノがどんどん、手の届かない遠くへと離れていってしまう。

 後悔ばかりが、このぽっかりと空いてしまった胸に溜まっていく。


 息苦しい世界。


 忘れることなんて、できるはずもない。

 忘れようとすれば、『忘れるなよ』と誰かが言っているみたいに夢に出る。


 悪夢じゃない。

 ずっとここにいたいという、居心地のいい夢。


 けれど覚めれば途端に、嫌な現実が喪失感と虚しさを連れてやってくる。

 凄く、質が悪い。


 そして何度も思い知らされる。


 『()(そう)黒竜(くろう)』は、取り戻せない『時』をそこへ置いてきたのだと。


 現実世界でもいいことはあった。

 それを忘れさせるような、上回るほどの感情を齎す幸せが確かにあった。


 夢があった。希望があった。

 才能と言えるようなモノもあった。

 努力をすれば、実を結ぶものもあったかもしれない。


 それでも今、自分がこの世界で見出せる答えはたった一つ。



 ――俺も、そっちへ行きたいよ……。



 弱弱しい本音が、心の中で渦めいている。

 感情を捨て、どれだけ自分を取り繕っても、正直な自分は常に泣きべそをかいている。

 それほど大切なモノだったのだと、そう思わされる。


 今の自分には、何が残っているのだろう。

 きっと、限りなくゼロだ。


 あるモノを数えようとするのに、ないモノばかり頭の中に浮かんでくる。

 寂しさだけが、広がっていく。

 だから、何もかもを捨てて楽になりたいと思ってしまう。


 今の自分に残っているのは、この先に待っているかもしれない未来を手放そうとする後悔だけ。

 そんな曖昧で不鮮明なモノに期待しても意味はない。



 ――だから、



 覚悟を決めて、勢いよく駆け出す。

 風を切って、ふわりと身体が宙を舞う。

 加速し、吸い込まれるように沈んでいく。


 投げやりになったわけでもなく、取り戻すためでもない。

 逃げたというのも違う。諦めたというのも違う。

 この行動をわかるものはいないだろう。


 脳裏に浮かぶは、今までの出来事。

 思い出したわけではない。振り返ったわけでもない。


 流れるは後悔。幸せなモノもあっただろうに。

 こんな時に見せるのも、そのただ一つ。


 気づけばもう、身体は地に着こうとしている。

 抗えばまだ、生ある瞬間を引き延ばすこともできるだろうが、瞳は自然と閉じていた。


 するとすぐさま、強い衝撃が全身を駆け巡る。

 頭には亀裂が入り、視界に入ったのはそこから溢れる自分の血。

 ゆっくりと命が削られていくような感覚に、指一本たりとも動かせない。


 視界がぼやけ、耳も聞こえない。



 意識が、遠のいていく――。



 4月1日、午後5時44分。



 この瞬間、世界から一人の少年の―――、



 命の灯が、消えた――。



 ――少年は後悔を手に、死を迎える。

  終わりの先に、始まりはある――

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