いきなり最終決戦っぽいのなーんでだ!?
「ところでクソ親父!」
「なんだ? 病弱改めドラ息子よ」
遺跡の奥へと走りつつ息も切らさず会話を続ける二人。
「誰がドラ息子だ! やんちゃした覚えなんてねぇよ!?」
「どうせこれからやんちゃするのだろうから問題ない」
しれっと告げるカロルに、一瞬つまづきかけるも何とかバランスを保ってアルヴァスは叫んだ。
「再会早々にトラブルメーカー認定!?」
「その体に※※※※の魂が合わされば、問題の方から寄ってくるだろうな」
「元アルヴァスさん要素に関しては納得できるが、オレが何をしたっていうんだ!!」
「その胸に聞いてみるといい」
「全く身に覚えがないんですけど!? つーか、むしろ親父たちの方が問題起こしてオレが後始末してたんですけど!?」
「全く身に覚えがないな」
返答までコンマゼロ。カロルは全く悪びれもせず答えた。
「だが、まあ。病弱だったお前が、他人の体とはいえ元気にしている様を見るのは悪くない」
そんな何気なく発せられた言葉に驚いたアルヴァスが、そっとカロルの顔を見てみるとその顔には僅かばかりの笑み。表情筋がなかなか仕事をしない彼にしては大きな変化で……。
「うぐっ……」
そんな表情をされては憎まれ口も叩けやしない。そして途切れる会話。思わぬ方向に転んでしまったせいで聞きそびれてしまったのは、今ここにはいないもう一人の家族の事だったのだがそれは杞憂だった。
かすかに聞こえてきた破壊音。それは奥へ向かうほどに大きくなっていく。最奥では中々に盛大な戦いが繰り広げられているようである。
「……派手にやってんなぁ。頼むから遺跡崩落とかはやめてくれよ」
「あの子とて馬鹿ではない。それ位は考えているだろう……おそらく」
「だといいが、プラティは夢中になると周りが見えなくなるからな……」
「──そうか?」
「だよなぁ! 親父はプラティ側だもんなぁ!! 後片付けするオレの身にもなってほしいなぁ!!」
ヤケになって叫ぶアルヴァス。息子の魂の叫びも虚しく、カロルはどこ吹く風といったふう。
「──アルヴァス、もうすぐそこだ」
「……わかってる」
二人は破壊音がいよいよもって大音量で響く距離まで来ていた。当然、繰り広げられる光景も目に入ってくる。
そこにいたのは軽装鎧に身を包み、剣を構える年端もいかない少女。そして彼女と対峙するヒトガタの闇。
「はぁぁぁぁッ!!」
気合いの入った掛け声と同時に影へと斬りかかる少女だが、影も座して待つわけはなく纏う影を盾へと変化させて、その一撃を受け止める。衝突によって行き場を失った衝撃波が辺りに撒き散らかされて、柱が床が吹き飛んでいく様はさながら──
「…………どこの最終決戦だよ、こりゃ」
「どうだ、プラティは強くなっただろう?」
「親バカか! いや、嬉しいっちゃ嬉しいが!」
二人が少女──プラティの戦いに見とれている間も、激しい攻防は続いていた。プラティの隙を突いて、影もいつの間にか手にしていた黒い剣を振るい彼女へ斬りかかる。激しい連撃が彼女を襲う。受けるので精一杯になっているのが遠目にもわかる。
「だが劣勢のようだ──加勢するぞ」
「おうよ!」
剣を抜き放ち走り出すカロル。魔術師であるアルヴァスは特に用意する物は無いが、気持ちの切り替えは必要だ。一旦目を閉じ使用する魔術の剪定に入る。
「──さて、どうするか。下手な属性使うとプラティに迷惑かかっちまうからなぁ」
属性によっては相手を強化してしまう事もありうる。特に今回の相手は高位の邪神。ただでさえ拮抗している所でそんなヘマをしてしまえば大変なことになる。多属性が使える魔術師はその辺りも考えて術を使わなくてはならないのだ。
「相手は闇の神――となると……まあ火属性か雷属性が妥当か」
闇の神は光とか炎とかに弱いのだ。なので光属性が一番効果てきめんなのだが、アルヴァスには使えない。その間にカロルが人影に斬りかかりプラティから引き剥がしにかかっていた。ちょうどフリーになった彼女の元へと走る。
「プラティ!」
「――うえっ、アルヴァス!?」
「中身はお前のにーちゃんだから安心しろ!」
「えええええ!? おにーちゃんってどゆこと!?」
「話は後だ! 『宿れ。雷の力』!」
プラティが混乱しているが時間がないので無視しつつ、彼女の剣に雷属性を付加するアルヴァス。カロルも凄腕ではあるのだが、相手は弱っているとはいえ神。それが纏う闇のオーラに体力を削られてしまうのだ。これを無効化できるのは相対する光属性の加護を受けている者だけである。
「これで多少はヤツに攻撃が通るようになった筈だ」
「あれあれっ? この魔力の感じ……ホントにおにーちゃん!?」
「後で説明してやるから今は戦線に戻れ。クソ親父もあんま長く保ちそうにないぞ」
「う、うん!」
戸惑いながらもカロルの元へ助力に向かうプラティ。それを見送ったアルヴァスは次の一手を打つべく辺りを観察し始めた。
「アレを弱らせるモノはねーかなっ――と」
元々ここは闇の神を封印するために作られた建築物である。経年劣化で機能が不全になっているのだとしても、アレを弱らせるヒントくらいにはなる。そうすればプラティ達の負担も多少は減るだろうというのがアルヴァスの見解だ。
「んー……ラディウスの呪法はオレには使えないな、これはパスっと」
ラディウスの呪法は光の神・ラディウスの力を借りるもの。何故か光属性が扱えないアルヴァスには使いたくとも使えない代物だ。
「――お、これは行けるかもしれない」
次に見つけたのは終わりの神・テロスの力を借りる術の媒体である宝玉……の欠片。無属性で属性の縛りのないこの術ならばアルヴァスにも扱える。
「これをこうしてっと――即席デバフ爆弾の完成!」
即興で欠片に術式を刻んでみせるアルヴァス。だが普通はこうはいかない。彼の術者レベルは相当なものなのだ。そして視線を今まさに行われている激闘へ向け、最適な頃合いを見計らう――のだが、カロルとプラティの連携が見事すぎて道具を投げる隙が見当たらない。
「……いや、相手に攻撃の隙を与えない戦い方が出来るのはすげぇよ? でも援護のしがいがないっつーか」
これ、どうしようか?
アルヴァスが所在なさげにアイテムで手遊びを始めた頃合——
「——アルヴァス!」
「ほほーう、相変わらず見事な連携じゃのう」
ミーティアとフェール老が追いついてきた。ミーティアは激戦とアルヴァスを交互に見やってため息をつく。
「お二人の連携に手が出せず手持ち無沙汰と言ったところか……」
「悪かったなぁ! 二人ともレベルアップが早すぎるんだよ!!」
旅立つ前だったらまだ合いの手入れる余地はあった。と、供述するアルヴァスにミーティアは疑いの表情を崩さない。
「元アルヴァスさんはバリッバリの前衛だったかもだけどなぁ、オレの本懐は魔術師なんだよ!」
「ならば魔術師らしい援護をしてみせろ!」
「だから隙がねぇって話なんだっつーの!」
「……ふぅむ。見たところあの邪神、何処ぞから供給を受けておらなんだか?」
フェール老のふとした呟き。ハッと正気に戻ったアルヴァス。
「マジか!? ……って、ここ最奥じゃねぇのかよ!!」
よくよく見てみれば最奥だとばかり思っていた遺跡には続きがあった。壁に一筋の亀裂が走り、そこから黒い霧の様な瘴気が漏れ出ている。壁のように見えていたそれは巨大な扉だったのだ。
「——よし、邪神の意識が親父たちに向いてる間にあの瘴気を駆逐すっぞ」
言うが早いか、アルヴァスはアイテムを量産しつつ扉へと忍び寄っていった。ミーティアたちもそれに続く。
「とりあえず二人には、ひたすらコレを扉の向こう側に叩きつけ続けてもらう」
量産したアイテムを片手でミーティアたちに渡しつつも、もう片方で量産を続けつつアルヴァス。
「ひたすら……か?」
「そう、ひたっすらに、だ」
何せ相手は腐っても神。有効な術式とは言えヒトごときの小技でチョイと突いたくらいでは、ビクともしないだろう。だからこその物量作戦。
「オレはテロスの術式組込に集中するから、あとは頼む」
「あ、ああ……」
返事を聞く時間すら惜しんで魔術の構築に取り掛かるアルヴァス。一方で役に立てる事があったものの、その作業の地味さになんとも言えないミーティアがポツンと取り残される。
「……ミーティアや。アルヴァスの作戦は地味かもしれんが、これも立派な援護じゃぞ?」
少なくとも何も出来ないよりはマシだと、せっせと指示に従うフェール老だった。