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あっけなく正体判明


 アルヴァスたちが遺跡区画に到着した頃には、それまで晴れ渡っていた空にどんよりと黒い雲が立ち込めていた。まるでこの先に困難が待っているかのように。


「で、ウワサの遺跡区画に来てみたはいいが…………これ完全に封印遺跡ですネ。しかも対邪神仕様」


 入り口を見ただけで看破したアルヴァス。ミーティアやフェール老も入り口を凝視してみたが、女神像や扉に施された複雑な文様など、美術品としての価値が高そうな事くらいしかわからない。


「なぜ見ただけで分かった?」

「そりゃあ、解けちゃいけない封印なら注意書き書いとくのは普通だろ?」


 入り口に古代魔術文字で『闇の神・オプスキュリテを封印しているので何人も触るべからず』と書いてある。と彼は説明した。


「闇の神つーたら邪神の中でも割と高位だから、勇者でも苦戦レベルだろーなぁ……」


 勇者、まだ深部まで到達してないよな? してないとイイナー。と、アルヴァスの表情は暗い。


「お前さん魔術に造詣があるとは知っておったが、その……オプ何たらが封印されとる事は知らなかったのか?」

「闇の神つーても何柱もいるからな。いちいち覚えてらんねーよ」


 じー様はこの世界にカミサマと呼ばれてる存在がどんだけいるか知ってるか?


 そんな問いかけをされたフェール老。だが答える事はできなかった。


「そうさのう……確かに儂らが知っとる神は世にあるモノの一部でしかないじゃろうなぁ」


 長年生きているフェール老ですら実際に恩恵にあずかる神の名は知っていても、それ以外はサッパリである。


「そゆこと。なのでオレが知らなくても当然なのだ!」

「威張るな!」


 ミーティアが調子にのるアルヴァスの頭をぱこんと叩いた。


「痛い!」

「失礼な、ちゃんと加減はしている!」

「……まあ、いいや。とりあえずこの遺跡、見たところ経年劣化で封印が解けかけてるカンジだ」


 むしろ早々に勇者が動いて正解だったかもしれないとアルヴァスは呟いた。


「封印が解けかけている、か。……むしろ現在進行形で解けているから勇者が帰って来ないのではないか?」

「外からは窺い知れんがその可能性はありそうじゃのう……」

「それに関してはオレにも分かんねーよ。中に入ってみない事にはな」


 そう結論づけると、入り口からはなにか邪悪な気配が立ち込めて来ている気がしてくるから不思議なものだ。


「中に勇者がいるっていうんならオレは行くしかないが、二人はどうする?」



「勇者様が危機に瀕している可能性があるのならば私も行くしかないな」

「儂もミーティアに同じじゃ」


 二人の決意は硬そうだった。アルヴァスとしても前衛が増えるのは心強いので是非もない。


「じゃあ、行くか!」





 遺跡の内部は驚くほど静かだった。邪悪な神が封じられているとは信じられないほどの静寂。地下へ地下へと降りて行く道すがら。


「いつもならばそこそこ魔物が出てくるのだが、今日は全く見ないな……」

「あんまいい兆候じゃねーな……」


 アルヴァスの表情に陰りがみえた。


「確か封印遺跡の魔物は、封印されとる存在の力を削いで生み出された産物……じゃったかのう?」


 フェール老の補足にアルヴァスは頷く。それを踏まえると、この場所で魔物が出てこないと言う事実が指し示すのは——


「力を削がれすぎて自然消滅してくれてれば儲けものなんだが、相手は闇の神だからなぁ」

「……そう簡単に消滅しては神を名乗るのが情けないものな」

「そゆこと。封印術式自体は他の神の力を借りてるから強力なんだが、その器はあくまでも人間が作ってるから経年劣化とかいうアレな不具合があるっていう……」

「力を借りていた神が弱体化した可能性もある。……難しいものじゃな、魔術というのは」


 フェール老のつぶやきに、ミーティアはふと思った。魔術師だというアルヴァス、実は彼、結構頭が良いのではないか、と。


「ミーティアサン、なんなのその『お前、実は凄いやつなの?』的視線」

「いや、お前が今まで情けない姿ばかり晒していたものだから、つい」

「ハッキリ断言するのヤメテ!? オレだって好きで情けないんじゃないんだヨ!?」


 お前も一度いきなりやばい形相した人間にマジ斬りされてみろよぉぉ!!


 アルヴァスの叫びが響き渡る。


「ほっほっほ。仲のいい事じゃて」

「ふぇ、フェール老!?」

「じー様ぁぁぁぁ! その微笑ましい光景を見たなぁって顔やめろぉぉぉ!」


 と、そんな風にじゃれついていられたのもごく短い時間であった。奥の方から人の声と名状しがたい鳴き声が聞こえてきたのだ。


「誰か戦ってる!?」

「この声は——カロル殿か!」

「……おかしいのう、勇者殿の気配がせんぞ?」

「フェール老、それについては後に。今はカロル殿の助力が先だ!」


 決意を固めてしまえば戦士である二人の行動は早かった。颯爽と声が聞こえる方へと消えていった。その場に残るのはアルヴァスのみ。


「……………………カロル。聞き覚えがあるような思い出したくないような……」


 妙に聞き覚えのある名前にアルヴァスは戸惑う。あと、助力とか要らないのでは? という思いも同様に湧いてくる。


「……まぁ、行けばわかるよな」


 と、決意も新たに二人の後を追ったアルヴァスだったが——追いついた先で、人ほどもあるカエルのような魔物と戦う壮年の男性を見てプチっと理性が吹き飛んだ。そう、プチっと。


「横に避けやがれっ、クソ親父ィィッ!!」


 最大火力でカエルに得意とする創作魔術を叩き込むアルヴァス。虚空から現れた炎を纏った無数のフライパンがカエルに殺到。ジュージューと香ばしい香りが区画に漂う。あとは味付けに塩でもあれば完璧だった。ナニガとは言わないが。


「この魔術は——まさか****か!?」


 男が驚きつつ魔術の発動地点——すなわちアルヴァスのいる方へ視線を向けたのだが……。


「アルヴァス!? なぜ貴様がここにっ、いや何故あの魔術を使える!?」

「カロル殿、落ち着かれよ。そこのアルヴァスは味方じゃ」


 今にも掴みかかりそうな勢いだった男——カロルをフェール老が諌める。


「……それにしても独創的すぎる魔術だな、アルヴァス」

「…………」

「どうした、らしくない表情をして」


 ミーティアの言葉に応えることもなく、アルヴァスは厳しい視線をカロルにむけていた。それは元のアルヴァスが時折浮かべていた怒りの形相にひどく酷似していた。


 共に睨み合う二人の男。


「おい、プラティはどうしたよクソ親父。まさか一人で先に行かせたなんて巫山戯た事ぬかしたりしねーよなぁ?」

「何が起こっているかは分からんが……お前は紛れもなく****本人なのだな」


 カロルは一目でアルヴァスが別人であることを看破した。その正体までも。だが、アルヴァスの方は。


「オレの事はこの際どうでもいい。プラティはどうしたのかって聞いてんだろうが!!」

「私がこの魔物を惹きつけている間に先に行かせた」

「テメェ、ココがどんな場所か知らないで行かせたのか!?」

「どう言う事だ……?」


 カロルが眉を釣り上げる。


「ここ、高位邪神の封印遺跡!!」

「——む。先を急ぐぞ!!」


 サッと踵を返して奥へと走り出すカロル。そしてそれに続くアルヴァス。二人が意気投合(?)して走り去った後に残されたのは、さっぱり事情の掴めないミーティアとフェール老であった。


「……フェール老。カロル殿とアルヴァスは知り合いだったということで良いのでしょうか?」

「勇者殿の名前も知っておったようだし、話を聞くに家族のようじゃな……」

「ただ、アルヴァスの本名らしき名が聞き取れなかったのが気になります」

「恐らく、じゃが……憑依の副作用じゃろうなぁ」


 本当の名を知ることができた時には憑依も解けている可能性が高いというのがフェール老の見解である。

 

「それはそれで寂しいものですね……っと、我々ももうそろそろ行かなくては」

「じゃな。……とはいえ高位の邪神相手に、儂等がどれだけ役に立てるか」

「足手纏いにならなければ問題ありませんよ。それに異国の言葉に『アリの一撃、ゾウをも倒す』とあるではありませんか!」


 自信満々にアリになれば良いのですと胸を張るミーティア。「なんか違う気がするんじゃが」と首をひねるフェール老。二人が去った後に残ったのは、程よい焼け具合のカエルの丸焼きだけだった。



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