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名前から(仮)が外れました。



「ところでお前さんこれからどうするつもりなんじゃ?」


 フェール老に問われたアルヴァス(仮)は答えに詰まった。何をすれば良いのかわからない。うっすらと何かしなくてはならないことがあったような気はしていたが、記憶喪失の魔の手がこんなところまで及んでいた。


「なんかしないといけない気はするんだが、何をすればいいのかサッパリだ……っ!」

「貴様のことだ、どうせロクでもない企みに違いないだろうがな」

「元アルヴァスさんを引き摺んな! オレは別人だっつってるだろーが」

「……む。すまない、お前の姿を見ているとつい」


 シュンとしおらしくなったミーティア。その様子を見てアルヴァス(仮)は『アルヴァス』という人間がどんな人間だったのかなんとなく察した。


「それにしても元アルヴァスさんはいったいどんだけ悪逆の限りを尽くしてたんだよ……なんか手枷とかついてるし」

「本当に覚えていないのか……」

「まだ疑ってるのか?」

「いや、そうではなく。この国に住んでいるのならばアルヴァスの名を知らぬ者はいないはずなのだが……」


 記憶喪失というのは本当なのだな、とミーティアが納得したようにうなづく。


「いや、なんか聞き覚えはあるんだよなー。ただ、それに付随する知識が浮かばないだけだ」

「自然の摂理を曲げとる影響かもしれんのぅ……まあ、馴染めば記憶も戻るじゃろうて」

「……なあじー様や。そもそも俺の記憶って戻っても良いものなん?」


 記憶戻ったら元アルヴァスさん返り咲いたりしない? そんな素朴な疑問を提示されたフェール老の答えは、というと。


「その時はふん縛って、牢屋にもう一度放り込むだけじゃのう」

「まじアクティブなじー様だなぁ」

「なーにドワーフ族は長命じゃからな。儂もまだまだ現役じゃぞい」


 ふんぬっと二の腕に力こぶを作るフェール老。老人とは思えない力強さだ。頼もしすぎて冷や汗が出てきたアルヴァス(仮)。いざという時はこれが自分に牙を剥くのだと思うと、末恐ろしい。


「……じゃ、じゃあ。元アルヴァスさんが返り咲くまではヨロシクお願いしまっす!」


 そうして、新生アルヴァスの新たな生活は始まったのだった。





 数刻後。アルヴァスとミーティアは資料室に来ていた。アルヴァスの希望である。


「祖国売り払った挙句に、総領主になって圧政。村焼き上等。……あげく血税を用途不明な分野に浪費。んで、反逆者は容赦なく処刑って……元アルヴァスさんまじやべえ」

「出会い頭での私の怒り、理解してもらえただろうか?」

「うん、とても」


 アルヴァスが読んでいたのは、名も知れぬ反逆者——元アルヴァスを正攻法で罰しようと試みた者が残した手記の写しだ。残念ながらもみ消され当人も行方知れずになってしまったらしいが。


 ミーティアも被害者の一人なのだろう。あれだけの剣幕で斬り掛ってきたのだから。


「俺の実感が薄いのは、もしかしたら被害が少ない地域にでも住んでたとか、そーいう事なのかもなぁ……」

「そんなの辺境も辺境。勇者の故郷があるというエレミアぐらいしか思い浮かばないが」


 ——勇者。


 その単語を耳にした途端、アルヴァスの頭に電流のような痛みが走った。


「うぐっ」

「どうした、アルヴァス!?」

「ゆう、しゃ……そうだ、おれは——ゆうしゃにあわないと……!」

「もしや記憶が戻ったのか?」

「……ちょっとだけ」


 ふらつきながらも今度はしっかりした口調で答えるアルヴァス。ただ、その内容にミーティアは素直に賛同することができなかった。

 勇者といえば、反逆軍の要。元アルヴァスを失脚させることが出来たのも、その存在によるところが大きい。今のアルヴァスを彼の人に会わせても良いものなのか……。それを確かめるためにも彼女は聞かねばならなかった。


「勇者に会ってどうするつもりだ?」

「——助ける」

「は?」


 即答だった。そしてその内容がぶっ飛んでいて、思わず聞き返してしまった。


 助ける? 誰を? あの勇者を?


 ミーティアの脳裏を勇者とその共をする人物の顔がよぎる。


「いやいや、あの勇者様なら助けなど要らない気がするのだが……?」

「でも、助けるって約束した」

「誰と?」

「……わからない。でも俺がこんな事になったのは、そのためだと思う」


 やけに確信をもって断言するアルヴァス。その真剣な眼差しにミーティアは彼にアルヴァス以外の人間の面影を見た。だがそんな真剣な表情もすぐに崩れ去り、ふにゃんと力の抜ける表情に戻る。こちらも元のアルヴァスを知っている者からすれば、らしく無い表情ではあるが。


「ちなみに勇者サマは今どこにいるんだ?」

「いつもなら遺跡区画の探索をしている頃合いだが……」

「遺跡? ここってそんなのがあるのか」

「なんでもアルヴァスが発掘に力を入れていたらしい。なんらかの古代兵器が埋蔵しているとか、古の大いなる力が眠っているとも噂されているな」

「……どんだけ『力』に貪欲だったんだよ、元アルヴァスさんはよぉー」

「それだけ権力が魅力的だったのだろうな」


 ミーティアの返事にアルヴァスは「権力を維持するために『力』を欲したんですね、わかりたくないけどわかります」と、棒読みでかえした。


「それにしても大いなる力ってなんぞ?」

「私も詳しくは知らないが、昔この辺りで暴れまわっていた神だとも言われている」


 神って……と、ある程度魔術に造詣の深いアルヴァスには、その無謀さがよくわかる。しかも相手は暴れまわっていた神。


「明神系統ならともかく、邪神系統だったらまじ扱いがむずいんですけど……。まぁ、悪名高いヤツなら金に物言わせて人材くらいは揃えてたろうなぁ」

「そういうものなのか? 奴の配下にそれらしい者は居なかったが……」

「元アルヴァスさんったら一体何考えてたん!? 下手したら世界崩壊の序曲なんですけどぉ!?」

「もしかしたら金を持って逃げたのかもな」

「そんな程度の信頼関係で神を御するとかまじ無謀もいいとこだな……。何考えてたんだろ元アルヴァスさん」

「それがわかれば苦労は無い。まあ見つかる前に阻止できたのは僥倖と言ったところか」


 辺境より勇者が現れ、義勇軍が立ったことで企みは阻止されたのだと語るミーティア。


「んで、元アルヴァスさんの本心を知りたくて遺跡探索?」

「我々で扱えるモノならば喉から手が出るほど欲しい状況だからな」


 内乱でやっと脱アルヴァス政権したばかりだが、ここはいわば属国。こうなっては本国も黙ってはいないだろう。ミーティアたちはそれに立ち向かう力を欲していた。そんな所に転がってきた巨大な『力』の情報。それは彼女たちを遺跡探索に乗り出させるには十分な動機だった。


「ちなみに、オタクらの中にカミサマを御せる魔術師さんはおいでですかー?」

「いいや? いても上級が精々だな」

「お前らも相当無謀だよな!?」


 どうやって制御するつもりだったんだよ!? とのアルヴァスの問いにミーティアはこう答えた。


「勇者様がな、相手を倒して手下にする、と」

「……相手は神だし、勇者は魔物使いじゃねぇんだぞ。何その脳筋な答え」

「ただな、あの勇者様ならばやってのけそうなのも事実なのだ」

「…………たしかに」

「——ん? アルヴァス。お前、まるで勇者様に会った事があるような言いぐさだな?」

「なんとなくそんな気がしただけなんだが……たぶん会ったことある」


 そうか知り合いか、と呟いたミーティアだが、とある事に気が付いた。確か勇者様、元アルヴァスと出会い頭に一騎打ちしてボロッボロにしていたような……。


「……何というか。その外見では再会が台無しになりそうだな」

「勇者も元アルヴァスさんのこと恨んでたの!? おま、辺境であんま被害受けてないってさっき言ってなかったか!?」

「彼の人は正義感が強いから、としか私からは言えない」

「あー、うん。勇者ですもんネ。みんなの味方ダヨネ。オレ、目的達成する以前に死ぬかもネ」


 どこか遠い場所へと視線を向けるアルヴァス。再会までになんとか誤解を解く方法を編み出さねば、問答無用でボコられてしまう。


「ところでミーティア。勇者が帰ってくるのはいつ頃なん?」


 アルヴァスに問われ、ミーティアは日の入り具合で時間を確認する。


「いつもならば、もうそろそろ戻って来てもいい頃合いのはずだが……」


 今日はその気配がないと彼女は言う。


「探索に熱中してて時間を忘れてるってセンは?」

「付き添いの方がしっかりした方だからな。その辺りはキッチリとしている……通常ならば」

「…………トラブル?」


 アルヴァスの問いにミーティアは強張った顔で答えた。


「…………考えたくはないが、恐らくは」

「え、なに、勇者を助けて欲しいってもしかして現在進行形だったん!? ちょ、誰かフェールのじー様呼んできてぇぇ!!」


 アルヴァスの情けない声が資料室に響き渡った。




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