残酷屋 手助け編
「眠い。」
朝、すずめがチュンチュンと鳴く声が聞こえる街の中。その中に建つ4階建てのマンション。
そのマンションの4階の3号室。ベッドの上で寝ぼけた顔で布団の上で1人で呟く男性。
満田道雄。25歳。自動車会社の勤務員。
真面目な性格で、しかも明るく人付き合いの良い社員。
「今日は休みなのに・・・、何故こんなに早く起きてしまったんだろうか・・。はぁ・・。」
ベッドから立ち上がり、パンをトースターに入れる。そんな普通の日。
「今日もいい日になりそう・・だなー。」
伸びをしながら独りで喋る。いつも通りだ。
「ピーンポーン」
こんな朝早くの部屋に響き渡るには少し似合わない音。
「こんな朝早くに誰だよ・・。まだパジャマなのに。」
とたとたとドアの方に早歩きで辿り着き、ゆっくりドアを開ける。
「朝早くにすいません。私、残酷屋店員の、刈田寿之と申します。」
笑顔で残酷屋と名乗る若い男。
「残酷屋?なんだそれは。新しい宗教か?」
からかわれたと思った道雄はからかい返す様に言った。
「宗教ではありません。まず話を聞いて頂きたいのですが・・。」
「部屋は無理だぞ。入らせる気は無い。」
「じゃあ玄関でいいです。」
スマイルを絶やさない刈田。朝っぱらからスーツを着ている。
「話って、なんだ?」
「はい、とりあえず落ち着いて聞いて下さいね。」
突然、刈田の表情が変わり、真剣な顔で話し始めた。
「あなたは今日の午前11時、友人に遊びに誘われる事になっています。この午前11時があなたの人生の『終わり始め』です。」
そう言いながらポケットから1枚の紙を出した。
「これは残酷屋の店主が決めた終わり方です。あなたは乗り物にぶつかって死ぬ。という事になってます。」
考え込んだ顔で話を聞く道雄。
「状況が理解できん。とりあえずもう1度、簡潔にたのむ。」
「はい、あなたは今日、交通事故で死にます。」
「・・・・」
あまりにも信じ難い話に硬直する道雄。
「え、ええと、じゃあ、お前は俺の最期を見送りに来たと?」
動揺しながら問う。
「いえ、私はあなたが生きれるように手助けをしにきました。本当は最期を告知して、見送るのが私達の仕事なのですが、今回限り、あなただけ、チャンスがあります。それは、店主が用意した交通事故の全てから逃げ切ることです。今日の午前11時から正午まで逃げ切れば、あなたの勝ちです。そうすればあなたは死ななくて済みます。」
「・・・・・・・」
道雄の手はガクガクと震えていた。
「い、今は何時だ。」
時計を確認する。10時58分。
「では・・。」
「まもなくスタートってか。」
吹っ切れた道雄は柔軟をし始めた。
玄関には自分の心臓の音と時計の音だけが聞こえる。
「プルルルルル」
電話が鳴った。がちゃりと受話器を取る。
「もしもし。」
「おぅ、道雄。今日さ、ボーリング行かね?」
「うん、解った。今から行く。」
集合場所もしらないのに電話を切った。11時2分。
「マンションに居たらどうなるんだ?」
道雄は問う。
「えーと、マンションに大型バスが突っ込んできます。それが元で火事が起きます。」
「じゃあまずはここから抜け出すか。」
たたたたた。と階段をおりて、駐車場に辿り着いた。
「あ・・・」
大型バスがマンションの方に向かってきた。しかし、そのまま通り過ぎて行く。
「まず1つ目は回避できましたね。」
「おう、じゃあこの駐車場は?」
「はい、えー、ここに居ると、普通の車にひかれます。」
そう聞いた瞬間、道雄は走り出した。駐車場から抜け、スーパーに向かっていった。
その後、1台の車が駐車場に入ってきた。
「2つ目もクリアです。」
道雄に着いていきながら、刈田は言う。
「このスーパーは?」
「車が突っ込んできて、このスーパーの1部が崩壊、それに巻き込まれます。」
チクショウ。といったような顔でスーパーを出て行った。道雄の背後からは、建物の崩れる音と、人の悲鳴が聞こえてきた。
道雄はビルに入った。そして上の方の階に上った。
「こ・・・ここ・・は?」
流石に息切れし始めた道雄。
「ここでは、飛行機が突っ込んできます。」
「それはまたたいそうな。」
上ってきた階段を下りて、いったん止まり、
「この近くに海がある。そこなら助かるか?」
と問う。
「はい。流石に船までは来ませんね。」
そう聞くととたんに道雄は走り出した。 11時50分。
「これなら助かりそうだな。」
道雄は少しだけ笑みを浮かべた。
「よし、着いたぞ!」
喜びながら海の方へ駆けていく。
「やりましたね!」
刈田も微笑んだ。
「ブルルルル。」
車の音。
「たたたたたたた。」
二人の足音。
「ガゴッッ」
鈍い音。
海の目の前。 11時55分。
「クァ、ガハッ、ゲホッ」
血まみれの体に、血まみれの道。
道雄の意識はほとんど無くなっていた。その道雄の小さな視界の中で刈田はニヤニヤと笑っていた。
「覚えてますよね、私は残酷屋です。本当の仕事はあなたを残酷な死に導く事です。」
道雄の耳はかすれていく。刈田の言葉も聞き取りにくい。
「さようなら、お客様。」
刈田は笑顔でそう言った。
初めての短編です。
文才は無いですが、できれば感想お願いします。