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群雄  作者: 元馳 安
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誰も知らない柔道家 3



 日本には二種類の熊がいる。本州にはツキノワグマが生息し、北海道には(ひぐま)が生息している。


 ツキノワグマは頭胴長百十から百三十センチメートルで約八十キログラムの体重であるのに対して、羆は体長二メートル、体重二百キログラムと比べ物にならないほど大きい。


 今回、被害をもたらしたのは羆だった。


 被害に遭った◯市に住む吉野 健三は農業を営んでいた。

 畑作を中心として行っているが、土地を貸しながら稲作も行っていた。


 ある日、寝静まる夜に犬が暴れて吠えていた。やがて「きゃん」と甲高い声で鳴くと大人しくなった。


 何事かと思い外の様子を見に行ったのは健三の息子だった。

 外の様子を見た息子は愕然とした。


 板造りの塀に干していたトウモロコシが食い散らされており、その側に犬の死骸があった。

 息子は健三にすぐさま知らせると、健三は死骸を見てゾッとした。


 何か鋭いもので抉られたような傷痕は恐ろしく大きく、泥濘(ぬかる)む地面にくっきりと残された足跡に健三は「まさか」と懸念を抱いた。


 大きな足跡から推測する熊の体長は二メートルをくだらなかった。


 そして、事件はその翌日に起こった。


 被害に遭ったのは吉野 健三と妻のトミ子、息子の健作の三人だった。


 健三と健作の遺体はぐちゃぐちゃだったという。食べ散らかした跡は凄惨なものだった。

 熊が人を食害する場合の食害部位は身体の筋部や突出部位であると言われ、内臓を食べるのは稀だという。

 

 首元から咬まれて振り回したのか、肩関節も外れ、内臓がなかった。


 健作の遺体は天井まで高く飛んでいた。熊は獲物を咬み千切ろうと振り回す。その力があまりにも強いため人間などは吹き飛ぶ。健作は振り回され天井まで吹き飛ばされたのだ。


 凄惨な現場に妻であるトミ子の遺体はなく、血に染まった服だけが残されていた。羆は獲物を穴に埋める習性がある。トミ子は羆に連れ去られたのだ。


 健三が地元の猟師たちと熊を駆除しようと話し合っていた矢先の出来事であった。


 それから続け様に四件の被害が報告された。

 



 遠くから鈴の音が聞こえる。


「ご苦労さん」

 農作業をする老婆が掛けられたその声に顔を上げた。


 そこには市の職員二人とマタギ三人、森林管理署職員、更に警察官と銃を携帯した地元猟友会の村人十人の総勢三十人という人々が同行していた。

 猟銃に拳銃、熊撃退スプレーを携帯している。そして、総勢三十人全員が鈴を持つとけたたましいほどの騒音が辺りに響いていた。


「おう! その格好は熊か?」

「おう! 熊捕まえに行ぐだ」

「さっきの若いのとは別かい?」

「さっきの若いの? 誰だ?」

「大原とか言う、新人さん」

「新人の大原? んな奴いねぇよ?」

「あれ? 違うんか」


 老婆は不思議そうに男が歩いて行った道を後を辿るように眺めた。

 当然、男の姿はない。




 その頃、男は灌木が地を這い群がるように生えるなだらかな樹林道を歩いていた。


 今の季節はシーズンで山菜採りをする人も見かけるはずだった。

 山の(ふもと)では綺麗な川が流れ、そこで川釣りをする人も珍しくない。

 しかし、今は人一人いない。被害拡大を防ぐためにも入山は禁止されているのだ。


 山は息を潜めたように静かだった。




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