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群雄  作者: 元馳 安
36/41

兄弟 7

残酷な描写がありますので苦手な方はブラウザバックをお勧めします。





 タクシンたちの前から鉈を持つ男が歩いてくる。


 歩を進める男の後ろ、固く閉ざされている奥の部屋にタクシンの目は向けられた。


 奥の部屋にいるマリアーノを守るための壁は高く険しいのだろうと、敵はこの一人だけでなく、息を潜めて何人も待ち構えているのだろうとタクシンは冷静に考えた。


 最初の男がこの男なのだ。


 悠然と歩く男はただのチンピラではなく、武器を使い慣れた様子だった。


 男と対峙するタクシン。


 銃はもう使えない。


 十分な広さがある廊下だからこそタクシン愛用の武器が使えた。


 タクシンが腰元からトンファーを引き抜く。

 相手との距離は三メートルほどだった。


 男が鉈を振り上げる。


「おらぁー!」

 奇声を発して突進する男がタクシンの脳天に向かって鉈を振り下ろす。


 左手に持つトンファーで相手が振り下ろした鉈を受け流すと、相手の右腕の勢いは止まらずに鉈が地面まで振り下ろされた。


 鉈が地面にぶつかると(たがね)の音が響いた。


 左手で()なし、くるりと持ち替えたトンファーを相手の左膝裏に引っ掛けて前に引き落とすと、膝が畳まれた相手は膝が抜けたようにストンと落ちた。思わず地面に手が着く。


 鉈を落とし、地面に手を着くと同時にその手を踏みつけ、顔面に膝蹴りを見舞った。


 そのまま相手は無様に昏倒し倒れた。



 一呼吸の攻撃であり、捌きから攻撃まで繋がっている一連の動作である。


 シラットにはジュルスと呼ばれる型のようなものがある。


 一般的な身構えがいくつかあり、その構えからキャットステップやウォリアーステップなどのさまざまなステップや蹴りへと自由に変化させる。

 シラットの流れるような動きを実践で使えるようにジュルスを鍛錬するが、実践では動きとして使うことが難しいと考えたステファンは一連の流れを分解して技を考えた。


 軍隊格闘術にまで昇華させたウィリアムズ流シラットと言えた。



 一人倒したからと言って油断はできない。慎重に前へ進むタクシン。



 突然、斜め後ろの扉が勢い良く開かれる。


 タクシンは背後から襲われた。


 背後から鉄パイプで殴り掛かる大柄な男、今度は近過ぎたためにトンファーで先ほどのように()なすことは難しかった。


 だから、力の限り受け止めた。


 高密度に固められた乾燥圧縮樫材のトンファーはただの木ではない。

 鉄とトンファーがぶつかった瞬間、金属音が響いた。


 しかし、男が驚いたのはそこではない。


 百七十五センチに七十五キロのタクシン相手に大きな男は押し切ることができなかったのだ。


 タクシンは生半可な鍛え方をしていない。


 着痩せする細身の見た目とは違い、タクシンの体は筋肉の鎧に覆われている。


 大男は全力で振り被ったにも関わらず、最後まで押し込めず、反動で鉄パイプが弾かれた。

 男は思いも寄らないタクシンの力に驚いた。


 タクシンが腰元から右手でナイフを取り出す。


 鉄パイプを(はじ)くと同時に回転させたトンファーを相手の右膝裏に引っ掛けると今度は引き上げた。

 相手の体勢が崩れたのと距離が近いからこそ相手の膝を引き上げることができた。


 相手は左足だけでバランスを保とうと、不安定な体で右足を引こうとした。しかし、フックのように引っかかるトンファーは外れず、逆に倒れそうになった。


「やあぁぁぁー」

 足を持ち上げると同時にその右太腿にダガーナイフを突き立てて足の付け根から膝頭までを引き裂いた。


 ナイフで確実に且つ安全に相手に致命的ダメージを与える闘い方をタクシンはした。


「がぁぁああーー!」

 (つんざ)くような相手の叫びが廊下に響き渡る。大男はもう戦うことも、歩くことさえできなかった。


 大男を倒した瞬間には次の敵が現れていた。


 大男の足を引き裂いた瞬間、次の敵が扉から出てくるのが見えた。


 扉と近い距離にいたタクシンのミスだった。部屋にいるのが一人とは限らない。


 タクシンは敵の急襲にも冷静さを失わなかった。


 武器(エモノ)を振り上げる敵の首にトンファーを引っ掛けるとそのまま前に引いた。

 まるで人形のように前のめりになり、大きく空いた首元にナイフを下から突き刺すと、鮮血が飛び散った。

 一瞬だった。

 

 倒した直ぐ側から敵が襲い掛かる。部屋の中には敵が三人潜んでいた。


 タクシンは不利な状態だった。


 右手に持つナイフは相手の首に刺さった状態で、更に左手のトンファーも首に引っ掛けた両手が使えない状態である。


 タクシンは倒した相手からナイフを抜かなかった。


 トンファーを外してそのまま喉に移動させる。ナイフを抜かずに両手でそのまま持ち上げると、更に喉の奥に刺さり、血が滴り落ちた。


 そのまま前蹴りで上体の上がった敵を吹っ飛ばす。吹っ飛ばしたその反動を利用してナイフを抜く。

 飛び散った鮮血がタクシンを赤く染める。


 部屋から出てきた相手と自分の間にいる倒した敵を盾として使うタクシン。


 マフィアでマフィアを飛ばす。敵は飛んで来た仲間の体に押し倒される形で仰向けに倒れた。

 その上にタクシンが飛び乗るとマフィアは苦しそうに暴れた。


 タクシンは暴れる相手の首元にナイフを突き刺した。

 喉を貫かれた二人のマフィアは動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 一瞬で四人を倒した。



 しかし終わらなかった。



 不意打ちの次は二人同時だった。


 二人の男がタクシンの前に立ちはだかる。


 タンクトップに入れ墨をした長身の男に小柄だが岩のようにゴツゴツした体の男がタクシンに襲い掛かった。


 広い廊下は敵にも有利に働いた。


 前後からだけでなく、一方から二人で攻めることができる十分な広さがある。


 タクシンは前から来る敵二人を相手にしなければならなかった。



 長身の入れ墨男がナイフを手にタクシンに襲い掛かる。長身の男と同時に小柄の男もタクシンに距離を詰めた。


 タクシンから見て左に長身の入れ墨男、右側に小柄の男がいる。

 入れ墨男は仲間に当たらないために切りつけるようにナイフを振らず、一直線にナイフをタクシンに突き刺した。


 同時に反対側からは小柄の男がステップを踏み左のミドルキックをタクシンに見舞う。


 

 長身の入れ墨男のナイフは当たってはいけない、小柄の男の蹴りもナイフで受けようとはしなかった。


 一撃でもくらい、体勢が崩れることを嫌ったのだ。


 タクシンは空手の下段受けのように左腕で弧を描くと、トンファーで左からのナイフでの攻撃を(はじ)き、その反動で腰を回して左腕ごと右へ押しやった。

 トンファーで右から来る蹴りを受け止める。


 小柄な男の蹴りの威力は凄まじかった。


 トンファー越しに強烈な衝撃が走る。


 一方、小柄な男はタクシンの強さに目を見開いた。


 一番威力のあるミドルキックで倒せなくとも、体勢を崩そうしたのだ。

 しかし、タクシンの体は微動だにしなかった。


 タクシンが持つ強靭な肉体は攻撃を防御すると同時に反撃できるほどの運動能力がある。


 タクシンは蹴りを弾くと同時にその足を掴むと小柄の男を振り回した。


 丁度、ナイフを弾かれた長身の男がタクシンに前蹴りを放っている時だった。想像以上の強さを見せるタクシンに長身の男は二対一の優位性を活かそうと、タクシンの体勢を崩すために前蹴りを放っていた。


 長身の男の前蹴りはタクシンには当たらず、小柄の男が振り回されるとカウンターのタイミングで体ごとぶつけられた。


 体勢を立て直される前にタクシンは屈むと同時に地面すれすれの低空の蹴りを放った。小柄な男の両足が刈られて見事に横倒しになる。


 長身の男の反撃の体勢が整わないうちにトンファーで長身の男の右手を撃ち落とすとナイフが手から離れた。

 そのままトンファーで顔面を打ち付けると長身の男は後ろに倒れた。


 倒れた小柄な男が起き上がると、トンファーを持ち変えたタクシンが男の背後に回り込んだ。

 小柄な男が振り返る前にタクシンはトンファーを首に引っ掛けて前のめりにさせた。


 取っ手を首に引っ掛けられた相手は必死に振り解こうとするが、タクシンの技と力の前になす術もなく捕まった。


 タクシンは背面から喉元にナイフを突き立てるとそのまま真横に引いた。


 一気に脱力した小柄な男はストンと体が落ちた。


 身悶える長身の男の顔面を踏み付けると男は意識を失った。


 六人を一人で相手にした。


 タクシンの体力も限界に近付いていた。休み無しで殺し合いを六人としたのだ。体力も精神力も相当削られている。




 モニタールームでタクシンの闘いを見るセーンとナバーロはその強さに言葉を失った。


 どれも勝つのに容易な敵ではない。マフィアの中でも手練れの者たちである。


 信じられないことに手練れを相手にタクシンに外傷はなく殆ど無傷だった。


 しかし、断続的に現れる敵に一人で闘うタクシンに休む時間はなく、もう新たな敵がタクシンの目の前に迫っていた。



 敵の猛攻はまだ続く。


 正面から更に二人が同時にタクシンに襲い掛かっていった。




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