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群雄  作者: 元馳 安
35/41

兄弟 6




 外は明るかった。



 外に出て一番に確認することは敵の姿である。

 敵を確認し、素早く隠れようとした。しかし、そこには誰もいなかった。

 ソンポンとソムチャーイは「チーム スネーク」としてタクシンの側を離れずに行動したことが九死に一生を得た。


 中では激しい戦闘が繰り広げられている。敵の応援はこれ以上こないのだろうか。


 タクシンは装甲車で待つ仲間に連絡を取り、警察の応援を呼ぼうとした。



 タクシンが無線機のプレストークボタンを押して発信する。

「こちら、「チーム スネーク」、「マーカー」応答せよ」

 『SSC』では装甲車で待機する通信士を「マーカー発振器」から「マーカー」と呼称していた。

 

「リーダー、こちらでも傍受できません」


 他の二人の無線機も繋がらないことが分かると、無線が何らかの妨害を受けていることが分かった。



 突然、「ドンッ!」という地響きがなった。

 あまりの爆発音にタクシンたちは怯んだ。

 音がした方角に目を向けると、建物の後ろから微かに黒煙が上がるのが目に入る。


「車がやられた」

 「チーム スネーク」のメンバーであるソンポンの言葉だった。タクシンも同じことを考えていた。

 装甲車と車に乗っていた運転手と通信士は殺されたのだろうというタクシンたちの考えは当たっていた。


「退路は絶たれた」

 タクシンの言葉に二人は絶望した。倉庫内の仲間の安否ももはや絶望的である。


 仲間の救出に向かわなければならない。しかし、退路が絶たれた今、新たに退路を見つけるのが先決だと考えたソンポンは出口に向かって駆けた。


 その瞬間、銃声が鳴るとタクシンは身を屈め、物陰に隠れた。


 ソンポンは突然、撃たれた。狙撃されたのだ。


 タクシンが建物を注視すると、窓から出るライフルの銃身が目に入った。


 タクシンの近くにいるソムチャーイもタクシンの視線を追い敵の狙撃手を確認できたようだった。


 後は二人の阿吽の呼吸だった。


 窓から銃身を出すスナイパーはいない。まるで自ら自身の位置を知らせるような奇妙な狙撃方法にタクシンは不審に思いながらも、ソンポンを救おうと、軍用小銃を狙撃手に向けて撃った。


 建物の窓から出る銃身が退()かれると、タクシンとソムチャーイはソンポンを救出した。

 二人がソンポンを支えながら、目指した建物は倉庫裏すぐの平屋ではなく、マリアーノがいると言われた三階建ての建物だった。


 敵に遭遇する恐れが高い建物を危機的状況にも関わらず、何故選んだのか。


 監視カメラの映像を見る者はタクシンのその行動に驚きを隠せなかったが、マリアーノだけは密かに笑みを漏らした。


 近くの平屋に逃げ込んで更に追い込まれるのであれば、危険であろうと最後まで攻めることを貫いてマリアーノのもとまで辿り着きたい。


 タクシンの命を懸けたその行動にマリアーノは心が打ち震えた。


 全てが読み通りだった。



 三階建ての建物にタクシンたちが侵入するとマリアーノがマイクを使って仲間に連絡を入れる。


「敵が屋内に侵入、場所は一階東側の奥の部屋だ。全員、武器を持って向かえ」

 実の兄を殺そうとする弟の姿はセーンには狂った人間にしか見えなかった。

 淡々と指示を出すマリアーノがどこか嬉しそうにしていることが信じられなかった。




 タクシンたちが入ったのは机と椅子、掃除用具があるだけの何もない簡素な部屋だった。

 ソンポンはようやくそこで腰を下ろした。


 タクシンたちが建物に入る前も入ってからも、マフィアの姿は見えなかった。

 敵が襲ってこないこの僅かの時間が救いだった。


「足を撃たれた」

 ソンポンは歩くことが困難な状態だった。

 この状況ではマリアーノのいる三階を目指すのは難しい。


 しかし、部屋に立て籠もるのも敵がいつ襲い来るか分からないこの場面でする手ではない。


 ソンポンの足の止血をし、強度のある杖を探すと部屋を出ようとした。デッキブラシが杖の代わりだった。


 その時だった、廊下から数人が近付く足音が聞こえると、タクシンたちに緊張が走った。


 木製の扉をじっと見つめるタクシンとソンポン、ソムチャーイ。


 部屋の中は安全ではない。

 扉が開かれないことを祈るようなことはしない。扉が開かれた時のことを考えるのだ。

 扉が開かれた瞬間、三人で敵を倒さなければならない。


 扉は安全を保つための(らち)だった。


 扉が開く瞬間では遅い、ドアノブが動いた瞬間に撃とうとソンポンもソムチャーイも銃を構える。


 しかし、タクシンは違った。


 タクシンたちが使用するM4カービンの銃弾は弾頭の重量もあり、遠距離でも貫通能力のある弾を使用している。


 当たり所によっては弾丸が貫通してしまい、致命傷にならない場合がある欠点があるが、破壊力は抜群である。


 足音が部屋の前で止む。


 扉の向こうでは五人のマフィアがいた。五人のうち一人はAK自動小銃、一人はPKM機関銃を持っている。


 扉越しで相手がどの様な武器を持っているかなど分かるはずもない。

 しかし、タクシンたちには関係なかった。


 およそ作戦と呼べるものではない。


 タクシンは扉が動く前に撃った。


 扉越し五メートルの距離でタクシンに続き遅れて二人も銃を発射した。


 情け容赦なく乱射したのだ。


 反撃もあったが、タクシンたちは構わずに乱射を続けた。


 タクシンたちのM4カービンにより無事に敵を掃討することができた。


 弾はどんどん無くなっていった。


 そして、無傷ではなかった。ソムチャーイが撃たれて瀕死の状態になったのだ。


「ソムチャーイ、死ぬな」

 首を撃ち抜かれたソムチャーイは苦しそうに口をパクパクさせて、そのまま息を引き取った。


 足を打たれて動けないソンポンにタクシンだけとなる。

 倉庫に取り残された仲間たちも殺されているだろうと思った。


 破壊された扉の先には五人の死体があった。

 タクシンは敵の持つ機関銃や自動小銃を回収した。


 外からは敵の声が聞こえる。もう敵の襲撃を防ぐことはできない。



「行くしかない」

 ソムチャーイを残して部屋を出るタクシンにソンポンは無言でついて行った。


 タクシンたちは二階に上がった。

 階段に上がると銃を持った敵がいた。


 ソンポンからの援護は望めない。むしろ、ソンポンを守りながら抗戦するタクシンは一人で闘わなければならなかった。

 後ろから迫り来る敵から逃れるために素早く安全の確保をする。


 二階の敵を撃破したタクシンは階段から近い部屋に入った。


 敵の襲撃に抗戦する。

 敵から奪った銃が使えなくなり、ライフルの弾が底をつき、ハンドガンも使えなくなるといよいよ万策尽きた。


 もう、数十人は殺しているはずである。しかし、先が見えなかった。


 とうとう銃弾が底をついた。



「タクシン、俺を置いて逃げろ」

 ソンポンは死ぬ気だった。


「嫌だ、せめてソンポンだけでも助ける」

 ステファンたちの安否は分からないが、希望は持てない。




 タクシンとソンポンがいる部屋の様子もモニタールームにいるマリアーノたちには筒抜けだった。

 仲間が一人減ったことも、もう一人の仲間が怪我を負っていることも、銃の弾が尽きたことも知られていた。


 マイクを手に取るマリアーノ。

 マリアーノはここで新しい指示を部下に出した。




 不思議と屋敷内の喧騒は静まりつつあった。

 敵の数が把握できていないタクシンたちは思い違いを僅かな希望と考えて足を前に出すことにした。


「このままマリアーノの所まで行こう」


 タクシンの並々ならぬ決意だった。愚直な信念に素直にソンポンは頷いた。



 部屋を出たタクシンが不思議に思ったのは外から敵が襲ってくる様子がないことだった。

 ステファンたちはどうしたのか。


 仲間の安否を心配したのも束の間、三階に上ったタクシンの前に鉈を持った男が現れた。




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