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群雄  作者: 元馳 安
25/41

川瀬 対 上田





 この日、クラブの中央には四角く、相撲の土俵よりも高さの低い特設リングが設置されていた。


 そのリングにはなんとロープが張られていなかった。


 この試合場で行われる試合は殴り合いだけの時もあれば、寝技だけの試合もある、更に寝技・立ち技有りの総合格闘技ルールもある。

 その試合にこの試合場でしかできないルールが設けられていた。


 「場外に落ちると負け」


 他に類を見ない珍しいルールである。


 格闘ゲームやドラゴ◯ボールの大会ではお馴染みのルールだ。言ってしまえば、現実には難しい、漫画の世界だけのルールだった。

 極め付けに大会名は「天◯一武道会」というふざけたものだった。


 リングが低いのは見易さもあるが、単純に選手の安全も加味されたものだった。


 実際、土俵のように考えられたこのリングで一部相撲のようなルールが追加されると、相撲取りは強かった。

 どんな格闘技にもすぐに起こり得る“場外”は、やはりお約束の上に成り立つものだ。


 それを踏まえた上でも相撲取りが出る試合は人気がある。相撲取りの押し出しの迫力もさることながら、相撲取りの打撃が見られるのだ。


 どんなスポーツや格闘技の試合であれ、重量級同士の戦いは盛り上がるものである。


 『El Dorado』で行われる試合は重量級の試合が多い。



 今まさに目の前で体格の良い大男と上田が闘おうとしている。


 上田の試合を知るスタッフたちは上田の心配などしていなかった。

 『El Dorado』で上田の組まれる試合は全て自分よりも重い相手である。

 

 百七十センチそこそこの身長に八十キロの体重の上田は自分よりも十キロ近く体重の重い相手と試合をしてきた。


 アマレスを辞めた上田が学んだものが打撃である。


 上田が取り分け鍛えたのは打撃の中でも蹴り技だった。


 十キロ近く重い相手と打ち合えるのである。上田の打撃のセンスは際立って優れていた。

 だからこそ、上田は『El Dorado』の用心棒としても雇われているのだ。


 上田はアマレスだけでなく、格闘センスも一流だった。


 だからこそ川瀬が許せないのだ。



 川瀬がリングに上がると上田は上着を脱いだ。川瀬は上衣を着たままだ。


 服は掴まれると厄介である。引き倒されることもされやすくなり、そのまま絞められることも考えられる。

 上衣を脱がない川瀬に対して上田は出来る事と出来ない事を分析し、冷静に判断した。

 まるで余裕を見せるような川瀬の行動に対してもクレバーに対応した。


 自身がアマレス経験者ということもあり、対策は立て易い。


「脱がねぇのか?」

 上田が口を開く。


「このままでいいですよ」

 余裕を見せる川瀬。

 二人の闘いが始まった。



 タックルの間合いは遠い。しかし、タックルの間合いよりも少しだけ上田が近付き、タックルの素振りを見せると、川瀬はその動きに敏感に反応し、腰を落とした。


 上田のフェイントだった。


 屈めた膝を一気に伸ばし、その反動で得た力とタイミングは絶妙だった。


 初撃で放ったのはハイキック(上段蹴り)だった。


 狙い澄ました右ハイキックが川瀬の頭部を襲う。


 バチンっ!


 爆ぜるような物凄い音が店内に響いた。

 ある者は一瞬、悲鳴のような声を上げた。


 しかし、そのハイキックを川瀬は左腕を上げてガードしていた。


 ガードの上からでも上田のハイキックは衝撃で体が揺さぶられる。

 それほどの威力があるのだ。


 しかし、川瀬はビクともしなかった。川瀬の異常とも言える身体は服に隠されている。

 隠しきれないのはその腕と肩、背中に首である。


 腕を押し出す際に使われる三角筋という筋肉がある。


 肩の筋肉である三角筋には前部、中部、後部とあるが、打撃系格闘家(ストライカー)は前部と中部が発達する。

 後部が発達しているのは、相手を引き寄せる力がある証であり、レスリングをしていた川瀬はそこが常人では考えられないほど発達していた。


 川瀬の肩から腕にかけて、まるで鎧を纏ったかのように太く、強靭だった。



 川瀬の三角筋は異常発達していた。



 それだけではない。


 首に至るまでの僧帽筋や背筋は服の上からでもはっきりと分かるほど異様に盛り上がっている。


 これは組み技だけでなく、打撃技も普通ではないことを表していた。


 川瀬の超人的な身体はTシャツやズボンに隠されていた。

 上田のキックの衝撃を左腕の押し出す力だけで受け止めたのだ。


 上田のハイキックは川瀬には通じなかった。


 上田の背中に嫌な汗が流れる。


 上田はそのまま距離を縮めるとパンチを繰り出した。

 ジャブ、ストレートとワン・ツーを繰り出し、左フックと続ける。


 テンポのいいコンビネーションも川瀬は難なくパーリングで叩き落とす。


 無謀にも更に、上田がコンビネーションを繋げた。

 右、左、上下に打ち分け、更に、ローキックやミドルキックを織り交ぜる。


 川瀬は全てを見切り、避けた。

 パーリングの反応は早く、ダッキングも流れるようにスムーズである。

 ローキックに対するカットは放った上田が足を痛めるほどだった。


「凄ぇ」

 二人の闘いを目にする従業員たちは川瀬の見事な闘いに心を奪われた。


 攻め続ける上田のパンチもキックも全く通じないことが分かると、従業員たちは上田に憐れみさえ覚えた。

 川瀬にもそれは分かっていた。


 いつでもタックルができ、テイクダウンを取れる。自分の力ならば寝技から多少強引に関節技を決められる。

 むしろ、組みにいって投げてもいい。闘う意思がなくなるか、意識を失うまで永遠に投げ続けてもいい。


 しかし、川瀬はしなかった。


 川瀬が動くと上田が下がった。上田に詰め寄る川瀬。


 高校時代にされた川瀬のタックルが想起されるとその時の恐怖まで蘇った。

 川瀬のタックルは(かわ)せない。


 テイクダウンを取られれば、そのまま関節技に持ち込まれる。川瀬の怪力では上田のロックはすぐに外されてしまう。絞め技も手ごと潰されるかもしれない。あの時のように寝かされたまま投げられることも考えられる。


 上田が現役時代の六十キロ台からウェイトを八十キロまで上げたのは川瀬のような大男と渡り合うためだが、実際に川瀬と対峙して分かったことがあった。それは、川瀬に体重など関係ないということだった。

 関節技を極められれば、参ったせざるを得ない。それは何が何でも避けたかった。

 しかし、降参しなければ、そのまま折られてしまう。

 上田の思考は負の連鎖が始まっていた。


 川瀬のタックルは躱せない。

 その考えが上田の動きを鈍らせた。


 川瀬がタックルの素振りを見せると吊られた上田の腰が下がる。上田の意識は下に注がれた。


 そこから川瀬が放ったのは右のハイキックだった。

 屈めた膝を一気に伸ばす。


 人間には伸張反射というものがある。


 筋が受動的に引き伸ばされると,その筋が収縮する神経反射だ。

 簡単に言うと、瞬間的に伸びた筋肉が瞬間的に縮む反射である。


 ジャンプする前にしゃがむという行動が伸張反射に当たる。

 膝を曲げることで、ジャンプに大切な大腿四頭筋が伸ばされ、大腿四頭筋に伸張反射が起こる。

 筋肉を収縮させ、大きな力を出して飛び上がっていく。このように、ジャンプの動作では伸張反射が起こることになる。


 川瀬は常人の倍以上の筋肉がある。


 単純に極太の強力なバネがいくつもついているのだ。

 強大な下半身の筋肉から生まれる力は爆発的で驚異的だった。


 川瀬の伸張反射を利用したハイキックは人間のものとは思えなかった。


 入り口付近にはまだ作業している人々がいる。作業の手を止めて川瀬と上田の闘いに食い入るように見ている殆どの者が入り口付近から動かなかった。


 安全を考慮した川瀬は狙って入り口とは反対側のバーカウンターの方向に上田を蹴り飛ばそうとした。


 インパクトの瞬間、衝撃に(こら)え切れない上田の八十キロの体は車の衝突テストのダミー人形のように意思なく真横に倒れた。


 咄嗟にガードした上田はそのまま押し倒されるような衝撃を受けた。

 

 押し潰されるように地面に激突した。


 その場で堪えていたらひとたまりもなかった。体が飛んだからこそダメージを逃すことができた。

 それでも、蹴られた時の鈍い衝撃音と目の前の光景に周りの人々は絶叫した。

 それほど、ショッキングな映像だった。



「上田さん!」

 店内の騒然とした様子に川瀬は周りを見た。

 一方的過ぎる闘いに従業員は川瀬が怖くなったのだ。


「上田さんがやられる」

 信じられない光景に従業員たちは恐怖が沸き起こった。

 従業員たちは誰一人として川瀬のことなど知らず、上田と立ち会った目的も分からないのだ。


 ある従業員はすぐに店長に連絡した。

 偶然にも、店長の安岡は近くまで来ているとのことだった。


「阿部と安永、俺の部下が二人やられた。二人分のお返しだ。それで、阿部の分はチャラにしてやる。次は安永の分だ」


 川瀬のハイキックをガードした左腕は使い物にならなくなっていた。その上、上田はあまりの衝撃に脳震盪を起こしていた。

 そのまま堪えていたら、ダメージを逃がせずに腕には深刻なダメージを受け、打ち所が悪ければ頭に障害が残るほどのダメージを受けていたかもしれない。


 脳震盪で済んだことが奇跡と言えた。


 しかし、体の自由が利かない上田に対して川瀬は容赦なかった。


 床に伏す上田を無造作に持ち上げる川瀬。二メートル以上の高さまで上田の体が持ち上げられた。


「これでチャラにしてやる」

 そう言うと、川瀬は誰もいないバーカウターの壁に向かって投げた。放り投げるのではなく、まるでボールを投げるように上田を投擲(とうてき)した。


 物凄い速さで壁にぶつかる上田。


 壁に激突した時の音が響くと、周りの人々は絶叫した。

 壁に激突した上田がそのまま地面に落ちると命さえ危ぶまれた。


 従業員たちは上田が動かない様子を見て焦っていたが、恐怖で体が凍り付いていた。


 その場の一人を除く全員が上田の身を案じる中、川瀬は全く別なことを思っていた。


 川瀬は感心していた。そは店の壁だった。

 八十キロの重さのものがスピードをつけて激突しても無事なのだ。川瀬は一人壁の耐久性に関していた。


「これで安永の分もチャラにしてやる」

 川瀬が辺りを見渡すと従業員たちの動きが止まった。

 誰も止められるはずがなかった。


 用が済んだ川瀬が出口に向かって歩き出す。

 誰も川瀬を止めることができない。それどころか、誰も動けずにいた。


 しかし、この場で一人動く影があった。

 バーカウターの後ろでもぞもぞと動く影がある。


「ひっ」

 一人の従業員の視線がバーカウターに向けられ、小さな悲鳴と共にその表情が一変すると川瀬の視線もそこへ向けられた。



 上田が満身創痍の体で立っている。



「てめぇ……ぶっ殺してやる!」

 上田が手にしたのはアイスピックだった。


 切りつけることが出来ないアイスピックだが、刺す能力、貫通力が高いのがアイスピックの特徴である。腹部を刺しても殺傷能力はないが、心臓を刺すか、頭部を狙えばアイスピックは十分な武器となる。


 左腕が使い物にならない上田は刺しやすいようにアイスピックを右手で逆手に持っていた。


 上田の“キレた”様子に従業員たちは畏怖した。


「上田先輩、それは止めた方がいいよ」

 川瀬は至って冷静だった。


「うるせぇ! ぶっ殺してやる!」

 言いながら上田が川瀬に向かって駆け出す。


 アイスピックを振り上げて上田が川瀬に突っ込むと川瀬は狙い澄ましたように蹴り技を放った。

 リーチの長さは川瀬に分があり、冷静な判断ができない上田は川瀬の攻撃に対する防御の意識などなかった。

 「タックルが来たら刺してやる」くらいの浅い考えしか持てなかった。


 だから川瀬は蹴り上げた。

 川瀬が放ったのは三日月蹴りだった。



 三日月蹴りとは前蹴りと回し蹴りの間の軌道を通り、相手の脇腹に当てる空手の蹴り技である。


 右脇にある肝臓、または左脇の脾臓に足の指の付け根(中足・拇指球)を突き刺すように蹴り当てる。

 背足や脛で蹴る廻し蹴り以上にダイレクトにレバーに突き刺さる事から当たればKOに繋がる技である。


 川瀬の三日月蹴りは綺麗だった。

 キックボクシングの蹴りを練習していた川瀬だが、蹴り始めにしっかり膝を曲げ、踵を太ももに引き付けてから、上田の右脇腹に左中足を突き刺した。


 三日月蹴りを知らない川瀬が初めから中足を突き刺すつもりで放った蹴りである。


 蹴りの軌跡が曲線を描き、膝を伸ばしきらずに曲げた状態で当たる形が三日月に似てることから三日月蹴りと言われている。


 空手など習ったことのない川瀬が放った蹴りは綺麗な三日月蹴りだった。


 川瀬の中足が上田の脇腹の肋骨を折り、肝臓に突き刺さる。


「ぐぁあぁ゛ぁぁー!」

 上田が地面に倒れ込み、激痛に悶えた。

 周りの者たちは、ただ店長が来るのを待つしかできなかった。



 『El Dorado』は会員制クラブを仕切っているのはオーナーではなかった。

 オーナーの一条 (まなぶ)は滅多に店に顔を出さない。

 店を切り盛りしているのは店長の安岡という大柄な男だった。



 従業員皆の願いが通じたのか、焦燥感に駆られたような重たい足音が店内に入り込むと従業員は安堵した。


 入り口に現れたのは安岡だった。

 安岡はリング上で悶える上田を見ると、目が点になった。

 やがて、状況を理解したのか、体格の良い大男に目が移る。


「おい! お前、何やってんだ!」

 安岡が心配したのはこの日のイベントのことである。上田の安否など試合がなければどうでも良かった。しかし、この日は大事な試合がある。


「喧嘩を売られたから買っただけだ」

 川瀬は少し興奮していたが、あくまで冷静さを装った。


「売られたから買っただぁ? 上田はうちの商品だぞ! こいつは今日、大事な試合があんだよ! 今日の対戦相手どうすんだ!」

 安岡が川瀬に歩み寄り、舌を(まく)し立てた。


「おいおい、喧嘩を売って来たのはこいつだ。それに俺は凶器を持って襲われたんだぞ」

 川瀬も少し興奮していた。ここは安岡を無視して帰るべきだった。


「知るか! お前そもそも、不法侵入じゃねぇのか? 上田が連れて来たんじゃねぇだろ? それとも何か、お前がやるっていうのか? 試合は今日なんだぞ! 営業妨害で訴えるぞ!」


「上田はここの選手なのか?」


「そうだよ! チャンピオンへの挑戦権があったんだよ!」


「こいつが?」

 上田がどこまで強いのか分からないが、ここのチャンピオンへ挑戦できるということはそれなりに強いのでないかと川瀬は思った。


「上田がプロに行かないのは、用心棒やってて傷害事件のリスクを避けるためだ。

 上田の階級なら、プロに行けば間違いなくトップに手が届く実力がある」

 安岡の言葉を川瀬は黙って聞いていた。


 川瀬にその言葉は刺激が強かった。「強い男」を目指す川瀬にとって、上田ごときの力で手が届く“頂き”は偽物である。散歩がてらにコンビニに向かうようなくだらないものである。


 自分が頂点になれば、誰もが理想となる王者となれば、「一番強い男」は嘘偽りの無い本物の王者となる。


 川瀬は本気で「一番」を目指すことを考えてしまった。


「上田の相手は強いのか?」


「はっ? 当たり前だろ。あの上田でもハンデ戦になる相手だぞ。一番強ぇよ」

 チャンピオンへの挑戦にも関わらず、ハンデ戦なのかと疑問が湧いたが、それよりも一番強い相手と聞いた川瀬は黙っていられなかった。


「俺がやろう」

 内心、安岡はほくそ笑んだ。


「はっ? お前が勝てるわけねぇだろ!」


「勝ったら許してもらえるか?」


「あ? ……あー……」

 男は大袈裟に首を横に振り、溜息をつく。


「まぁ、俺の言い方が悪かった。

 勝てる勝てないは勿論あるが、うちはそもそも勝った負けたじゃねぇんだよ。俺らは客商売してんだよ。

 上田もそこそこ客を沸かせてた。だから、チャンピオンとマッチメイクしたんだ。

 客から金とってナンボのここでお前は何ができる?」


 プライドの高い格闘家にありがちな、根拠のない「勝てる」という言葉に持ち込むことを安岡は避けると同時に自然な流れで試合に出ることを了承させた。しかし、それだけでは終わらせない。


 安岡の敢えての言い回しは別の確約を取るためだった。


 店長である安岡は商売人である。目の前のダイヤの原石を手放す訳にはいかなかった。

 この質問は「お前は金を稼げるか」と同義の質問である。


「レスリング」

 無論、川瀬は質問に単純に答えた。


「上田も上田の相手もオールラウンダーだが、そいつも組み技を使う。ストライカー(打撃系格闘家)対グラップラー(組技系格闘家)の試合だから客が燃えるんだ。寝技同士は玄人好みだから客受けしねぇんだよ!」

 「レスリング」という言葉に川瀬が組み技しかないと、レスリングしかできないと安岡は思った。


「客を沸かせればいいんだな?」


「できんのかよ?」

 安岡の言葉に川瀬が頷く。


「できる」

 安岡はこの話の後に従業員から川瀬の闘い振りを細かく聞いた。

 しかし、この時はまだ何も知らなかった。知らないままに川瀬に試合に出ることを促し、ショーとして盛り上げるように仕向けた。


「相手はここに来てから無敗のチャンピオンだぞ。上田は負けることが予想されていたからハンディ戦だったが、お前とやるなら少しでも盛り上げるためにハンデは無しでルールも過激になるぞ?」


 安岡の言葉に川瀬は微笑を浮かべて頷いた。

 少しでも制限がなくなれば、それだけ強さが問われる。そういう試合を川瀬は望んでいた。

 川瀬の内なる欲望と、安岡の企みは見事に合致した。


 ヘビー級同士の試合は盛り上がる。

 それは技術が伴っていなくとも、「体が大きい」というだけで、客は喜ぶ。


 百九十センチある川瀬は背丈だけでなく、見応えのあるギリシャ彫刻のような十分に試合映えするその体格は技術がなくとも合格であった。

 更に、上田を倒したとなれば実力的には申し分ない。


 安岡は川瀬に試合に出させるために川瀬のプライドを煽るように話を進め、試合の形式も進め方も盛り上げるようにと念を押した。

 「見せ場」など、言葉の意味すら分からない川瀬であるが、客を盛り上げる取り組みを自身に意識付ける確約を得るために言質(げんち)を取った。



 

 試合は夜である。




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