犯罪者 3
何もないはずの菊池はなんとか金を掻き集めて覚醒剤を手に入れようとした。どれだけ相場よりも遥かに高い値段を言われても手に入れようとした。
あいつはどれだけ金額を釣り上げてもシャブを買う。
「シャブ中の菊池」は売人の間で有名になっていた。菊池を太客として扱っていたのは田町組の組員だった。
最初に薬を売った売人が田町組の息のかかったプッシャーであり、田町組は薬を組の大部分の収入源として成り立っていた。
今では夜の繁華街などで簡単に手に入れることが出来るドラッグは、海外でグラム数十円の薬が末端価格で数千円から数万円で売れる。
さらに、薬物依存性ともなれば、どんなに値を吊り上げても手に入れようとする。
菊池の素性を調べ上げた田町組は菊池の財産を薬漬けにして全て奪った。
そして、事件は起こった。
それは些細な出来事だった。
「菊池、「高純度のシャブだ」っつったら0.1グラム五万で買ってきたぜ。中身は混ぜもんとアンナカだぜ?
あいつ、金が底をついたって言ってたの嘘だったんか?」
「マジで? バカだなっ! シャブ中の菊池は施設育ちでバカだから、なんでも言うことを信じるな」
田町組の組員である高橋と宮崎が菊池の陰口を叩いていた。
数時間前に高橋が菊池に薬を売った時のことを自慢気に話していた時だった。
二人はいつも薬を捌く合間に落ち合い休憩を取ることにしている。
時間は菊池が覚醒剤を買いに来る十三時三十分の一時間後と決めており、二人で落ち合っていた。
そのすぐ近くに尾行した菊池の姿があるとは知らずに。
高純度の覚醒剤は医療用麻薬として使われ、中身はセロトニンのような神経に必要な物質であり、中毒にはなりにくい。
一方、大量の不純物と、ブタ用の発情剤であるアンナカが混ざった粗悪なシャブは体に害があり、不純物とアンナカの中毒で廃人になる。
菊池は高額な金額を払うも、粗悪な薬を売りつけられていた。
二人の会話を聞き、真実を知った菊池は激昂した。
田町組の売人二人は組の名前を語って菊池が大人しくなるのを待った。しかし、諍いは口論から暴力にまで発展し、怯まずに菊池は二人に向かっていった。
菊池は殴られても蹴られても、動じなかった。
金を返すか、覚醒剤をもらえれば収まったかもしれない。
しかし、二人は薬物中毒の廃人同然の男の話など聞く耳を持たなかった。
売人の高橋が何かを取り出した。
それは護身用に持っていたスタンガンだった。
それもコンデンサーを繋げて、蓄電量を上げた高圧電流の改造スタンガンである。
菊池の首に当て、「バチバチ」という大きな音を立てて放電すると、一瞬で菊池の体の自由を奪った。
スタンガンの効果には、相手に見せて威嚇する「スパーク」と、相手に当てて電気ショックを与える「感電」がある。
10mAを超える電流では筋肉の随意運動が不能となり、電流による発熱量が多い場合には、それによる組織の損傷も生じる。人体の器官のうち心臓は特に電流に敏感であり、小電流(50mA程度)でも心臓に電流が流れると心室細動、心停止を起こし致死的になることがある。
そもそも、感電の危険性は電圧、電流、周波数によって異なる。
電圧としては、一般に数10V以上が人体に影響を与え、通常の環境条件下では、50Vを超える電圧を危険電圧と見なし、高電圧では直接接触が無くても、空中放電により感電を引き起こすことがある。
スタンガンは、内部電源回路で高電圧を発生させて電極部に相手を接触させることにより、暴漢などの相手の神経網を強烈に刺激し、電流を流した瞬間から体の自由を奪い、その隙に危険から退避する十分な時間を確保することが目的である。
スタンガンは護身用アイテムとして販売している。
殺傷する事が目的ではない。
確実な気絶を保証するようなスタンガンであれば、それは人体にとっては強力過ぎて、死亡の一歩手前と言っても過言ではない。
このような危険なスタンガンを制作、改造することは法律で許されていない。
高電圧により感電した菊池の痺れた体は痙攣を起こして、自由に動かなくなった。
菊池の意識はそこで途切れた。