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群雄  作者: 元馳 安
14/41

犯罪者 1



 平成十◯年六月、東京都世田谷区にて殺人事件が起きた。


 殺人現場近くの公園内にある池から切断された体の一部が見つかったことにより、事件が発覚した。


 腐敗の具合から死後五日経過した遺体だった。


 第一発見者は園内の清掃担当者である七十代の男性だった。

 池の中に人間の腕のようなものがあると、慌てて警察に連絡した。


 その後、警察は水中の中に潜り池の中を調べ、公園の池の水を抜いて地中を調べるなど大掛かりな捜査の結果、バラバラに切断された遺体が発見された。


 被害に遭ったのは行方不明となっていた九十歳の女性だった。

 被害女性宅の所持品のDNAから身元が判明したのだ。



 閑静な住宅街にあるこの公園はボートで池の中を遊泳でき、景色が綺麗なことから家族連れやカップルなど、昼間は多くの人が訪れる。

 また、夜はジョギングや散歩をする者が多い。

 昼夜問わず、人通りのあるこの公園での死体遺棄事件はすぐに解決するかに思えた。


 しかし、人目につきやすいはずが、有力な目撃証言は得られなかった。


 被害女性が住んでいたマンションのエントランスやエレベーターなど、各箇所十カ所に防犯カメラが設置されていたが、犯人が映る映像は見つからなかった。


「遺体がバラバラにされていたことから犯人は女性の可能性がある」


「抵抗する力もない年寄りを狙った犯行は人間をバラバラにしたいとう欲求を持った子供が犯人ではないか」


「防犯カメラなどに映らないのはマンションの住人が犯人の可能性があるのではないか」


 様々な憶測が飛び交うこの事件は捜査が難航していた。


 その事件の特異性からワイドショーの格好のネタとなり、記者たちは連日に渡り取材していた。

 近隣住民は一向に捕まる気配のない犯人の存在を怖れた。



「◯日(事件発生の日)から二日前くらい、だったと思うんですけど、四、五十代くらいの男性がドアをガチャガチャしてて、今思えば……怪しいのかなって……」


「若い女性もこの(事件現場)近くで追い掛けられたっていうのも聞きました……そうですよぉ、怖いですよぉ」


「この上(被害者宅)? ◯日(事件当日)? 別に物音とかはしてないけどね」



 連日連夜に渡って取り上げられたこのニュースは週刊誌でも取り上げられた。


 老婆はその面倒見の良い優しい人柄で近隣の人たちからは好かれていた。

 顔見知り程度の中の者でも老婆の死を悼む声があったほどだ。

 


「何で婆ちゃんなんか狙ったんかね? あと二年もすりゃあ、あんな婆ちゃんポックリ逝くだろ」

 不謹慎な発言さえも遠慮しない刑事の山下は難航する捜査に苛立ちを隠せなかった。


 部屋の中も荒らされず、金品も物色された形跡のない殺人事件は動機が全く分からなかった。


「山さん、そんなこと聞かれたらまた叩かれますよ」

 後輩の谷岡は周りの目を気にしてか自然と小声になる。


「変質者だよ」

「おばあちゃんを狙うなんて頭おかしいですよね」

「そうじゃねぇよ。お前、検視の結果知らねぇのかよ。切断された遺体の骨が粉々だったんだよ」

「えっ」


 被害者宅にあった(のこぎり)と包丁を使って遺体は分解された。バラバラにされた遺体の骨はそれが粉々になっていた。

 まるでハンマーで砕かれたかのような、万力で潰されたかのような、何か強烈な圧力がかかり粉々にされたかのような骨だったという。


 骨という物質は硬い。


 病気により骨密度が著しく低下した者でない限りは老齢の骨であっても硬い。

 火葬する際、九十を超える老人の骨でも綺麗にそのままの形で残るさえある。被害者の骨も老人とは思えないほどにしっかりとしたものだった。


 人為的な作用で粉々にすることを考えると、とてつもない労力と時間を要することは想像に難くない。


「近所の公園の池の中に棄てられた遺体は腕と足と腹だったんだよ。その骨が粉々だよ」


「犯人は変態ですね」


 容疑者は唯一の身寄りである一人息子に絞られた。

 マンションを訪れた際に口論になったのが原因ではないかと考えられた。


 殺しの動機は例外的なものを除いて「金銭」、「怨恨」、「痴情」の三通りと言われている。


 被害者の一人息子は無職で当時のアリバイはなく、金銭トラブルの線で捜査が行われていた。

 何故、骨を粉々にしたのかは、死体を遺棄するときに証拠が残りにくいと思い犯行に及んだものと見て捜査関係者は判断した。


 しかし、絞殺遺体は首を手で絞め殺されており、容疑者との手形が合わなかったことで、捜査は振り出しに戻った。


「骨をバラバラにするなんて異常だよ。快楽殺人だとしたら、とんでもなく頭のイカれた奴だよ」


「どうやってやったんですかね」


「機械かハンマーだよ。いくら年寄りの骨だからって、粉々にするのは人間の力ではまず無理だ。罪悪感が無い人間は強いよ。簡単に人を殺しちゃうからね」

 服の上から圧力が掛かり粉砕されたと見られるその骨を覆う皮膚には手形の様な痕が残っていた。


 まさか人の手によるものだと思わなかった。


 真犯人は現在も逃走中である。



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