装備更新
「ちーちー!」
「ちゅいっち!」
馬場の芝生の上をリドが駆けていきルティが続く。
その横を大型犬が周囲を警戒しつつついていく。ルティが転びそうになれば襟首を咥えて止め、すぐに下ろして頭で尻をトンと押してやる。
「ありゃ、親だな」
「親より過保護じゃない?」
今陽はその後をイエローもついて走っている。
(何かあんな童話があったような気がする)
カイはそんなことを考えていた。
「で、なんでリドは征服感を出しているの?」
かなり遠くまで行ってしまった行列は、ルティがオッグに捕まって背に乗せられて終わりを迎えた。小走りに戻ってくるオッグは頭の上にリドも乗せて、そのリドがなぜか自慢げにしているのだ。
そしてイエローは羨ましげにしている。
「仕方ないわねえ」
チャムが今度はイエローにルティを乗せ、自分はブルーに乗って横に付く。オッグの背にリドが移って二羽と一匹で馬場巡りに出ていった。
「君は本当に僕たちと行くんだね? 今ならここに十分居場所はあると思うけど」
「この前も言ったが、俺も世界を見てみたい。自分を試してみたい。迷惑か?」
「いや、構わないよ。ただ君が思っているほど世界は光に満ちていないと思ったほうがいいかもね」
「良いんだ。綺麗なものも汚いものも何もかもひっくるめて世界なんだろ?」
ナーツェンは二人が羨ましくなった。
たとえ自由と一緒に危険を背負わなければならなくても魅惑に満ちている世界を見てみたいと思った。
「君はもっと見なければならないものがあるんじゃないかな?」
感情が顔に表れていたのか、カイが指摘してくる。
「僕には早過ぎますか?」
「違うよ。君が為すべきことと僕たちが為すべきことに差があるだけ」
「立場の違いは理解しているつもりです。でも広い見識は僕にも役立つんじゃないですか?」
筋は通っているように聞こえたが、冒険者の青年はとんでもない言葉を挟んでくる。
「極論すれば僕はレンギアやこの国の人がどうなろうが知ったことではないんだよ?」
「僕にはその全てが見えていないといけないんですね」
「うん、そうじゃないと君の民は大困りだね。でも、同じ視点では世界は見れないでしょ? できると思っているなら、それは驕りだ」
戒めるような目で見られてナーツェンは自分の失敗を悟った。
「解りました。僕は一人一人の顔を見るよう頑張ります」
「そうしてあげて。僕らは呑気に傍観者の目で世界を見てくるから。そして君に伝えるよ」
「楽しみです!」
母親はそんな息子を慈しむように見つめていた。
◇ ◇ ◇
「さて、じゃあ始めようか」
昼食を共にしたテーセラント公爵家母子を見送ってから、カイは作業台を取り出した。
「何するんだ?」
「まずは君の剣を作らなきゃいけない」
「え、そんな気あったのか? 俺はレンギア出る前に一本見繕わにゃならんと思ってたんだが」
カイもチャムも半目で見てくる。解らなかったのかと言わんばかりに。
「僕は振り回しているうちに自分の足を斬っちゃうような人に、斬れる剣を渡すほど無慈悲じゃないよ」
「その台詞のほうが酷ぇよ!」
ハードに突っ込んできた。
「十分に剣筋が立ってきたからね。それなりの物を使わなきゃ」
そう言ってドンと出したのは剣竜の剣状尾部だ。
「君は魔法は使わないから、この魔力伝導性には劣っても硬い合金が良さそうだね。重さも結構あるけど問題無いでしょ?」
「ああ、任せろ」
剣状尾部の肉と融合している部分は切り捨てて、二匹分を融合させる。
カイが手を翳して形成したのは一定幅が剣先まで続く直剣でなく、相当幅広な鍔元から均等に狭まって鋭利な剣先に達する剣身を持っている。
「とりあえず粗型だよ。振ってみて」
「長ェな、おい」
これまで使っていた剣は、幅広ではあったが剣身は50メックだ。
ところが今度の剣身は75メックはある。実用剣としてはかなり長い部類だろう。剣身の形状で重さは軽減されているが、それだけ扱いは難しい。
「それなら手元重心で腕力で振れるし、盾の影から突き込みやすいし、騎乗してても間合いが取れるでしょ?」
「だが、こいつは腰に下げとくのも一仕事だぜ」
「いや、背負い剣にするよ。ちゃんと抜けるように慣らしてね」
「高い壁だな…」
それでもカイの要求の高さは信用の証だと思ってやってみせるしかない。
トゥリオが試し振りしているうちに鞘も拵えてくれる。それは鞘口が横まで開けていて剣身を半ばまで抜けば振り出せる構造になっていた。
剣を返して鞘の具合を見ていたら、刃にオリハルコンが融合されていく。
「ほら、見てなさい。大盤振る舞いよ」
「え…、これオリハルコンじゃねえか!」
「そうだよ。このほうが斬れるでしょ?」
「ああ、ほんとに足を斬らないよう気ぃ付ける…」
本当に壁が高い。
続けて集中して刃を仕上げたら、形状固定まで掛ける。これで完成だ。
「これ、買ったら幾らぐらいすると思う?」
「庶民の家なら建つんじゃないかしら?」
次に取り出したミスリル塊は少し大きかった。
「お、もしかして」
「当然、盾も作るよ。心配しなくたって」
「悪ぃな。材料代くらいは払うか?」
「あんた、破産する気?」
「撤回します」
薄く広げられたミスリルは高さ125メック幅80メックの大盾に形成される。次に取り出した素材をオリハルコン箔にまで延ばし、押し付けてメッキ状に加工する。後は腕通しや握りを取り付ける段階なのだが、ここでカイが首を捻る。
「何か不満なの?」
「実はこうのっぺりだと強度が落ちるんだ。正面や横からの強い力に弱かったりする。だから窪みのような物を付けるのが順当なんだけど、どうせなら装飾的なデザインにしたいなあって」
「へぇ、じゃ、私のあれも意味あったの」
「そういうこと」
しばらく悩んでいたカイの手が盾に伸び、図形を描いていく。
それはCの字の欠けの反対側に鋭角突起が付いた物。それを左右の上と下に逆三角形に三つ、欠けを外側、鋭角突起を内側に向け合うように配置した図形だった。パッと見た目は三枚花弁の花のように見えるが、イメージ的にはもっと幾何学的な印象だ。
「おー、良いじゃない。あなた、着る者の感性は疑問符なのに、こういうデザインは上手いのよねぇ」
「その前半部はどうしても必要なのでしょうか、チャムさん」
「褒めてる褒めてる」
「そうだぜ。こいつは格好良いじゃねえか」
チャムは思い付きに手を打つ。
「そうそう、そうだわ。これを私たちの紋章にしましょうよ?」
「良いな、それ。決定だな」
「僕のことはスルーなんだね」
後ろからパープルにクチバシで肩をポンポンされ、頭上のリドに撫でられて慰められる。
出来上がった盾に腕通しと握り、背負い鞘のフックに吊るす掛け具を取り付ける。それで背負えば盾が背中に横向きに吊るされる形になる。今までみたいに革バンドで斜に肩掛けしないでいいのだ。
「おー、軽い軽い。いい感じだぜ」
「軽いミスリルだからね」
革造りに金属板を張り付けた前の物より軽い出来になっている。
「どちらかと言うと君よりブラックの心配をしたんだけどね」
「何でもいいぜ。物が良くなりゃ」
そういうとこは男の子なんだな、とチャムは思う。
「ねえ、私の盾もあれがいいの。できないかしら?」
「次はチャムの番だよ。貸して」
いそいそと盾を取り出して作業台の上に置くチャムだった。
トゥリオの装備制作話です。彼らの紋章の描写に関しては、しばらく前からずっと悩んでました。もしかして絵文字みたいにした方が解り易いんじゃないだろうか?いっその事、慣れない絵を描いて挿絵サイトを使ってみようか?でも、書き物をする以上、これくらいは描写できないとこれからやっていけなさそうな気がして文字のままにしました。解り難かったらごめんなさい。




