表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔闘拳士  作者: 八波草三郎
レンギアの陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/892

チャム誘拐未遂事件

「襲撃された!?」

 カイとトゥリオは腰を浮かせた。

「やっぱり付いていくべきだったんだ。ごめんね、チャム」

「悪ぃ。俺も城門内なら大丈夫だって言っちまった」

「良いのよ。問題無く撃退できたし、この通り傷一つ無いわ。対処できそうになかったら、すぐに呼んでたから、あなたはそんな顔しないの」

 剣呑な気配が少し漏れ出つつあるのをチャムは注意する。もしものために遠話器にはカイのタブが差しっぱなしにもしてある。

「だがよ、城門内かよ…」


 経緯はこうだ。


 この()は客間にメイネシアが来ていた。

 帰宅すると言うのでチャムがスタイナー邸まで送ることになった。その時、カイも行くと言ったのだが、やはり訪問中だったテーセラント公爵家母子、特にミルティリアがリドを離してくれなかったのだ。置いていこうとするとリドが非常に悲し気な声で鳴くので仕方なくカイは残ることにした。

 スタイナー邸は城門内であることもあって、トゥリオもチャム一人で大丈夫だと安請け合いして彼女もそれを了解した。

 彼女でさえ万が一程度の思いでしかなかったし、おしゃべりしながらスタイナー邸まで散歩くらいのつもりだったのだ。だが、その帰途でチャムは襲撃を受けた。


 その時、最も深刻な顔をしたのは他の誰でもなくバルトロだった。

 家族と合流していた彼は、その一件の話を聞いて顔色を変えた。チャムのこととあってカイはそんな変化を見逃さない。

「どういうことです、バルトロさん?」

「い、いや、待ってくれ! 英雄殿!」

「こんな時だけ持ち上げなくても結構ですよ?」

「そういうわけじゃないんだ! その…、とりあえず確認させてくれ。どんな風に襲撃を受けたんだ?」


「騙されそうになったのよ」


   ◇      ◇       ◇


 時は遡る。


 楽しく談笑しながらスタイナー邸までメイネシアを送ったチャムは、帰り道で一人の女性と行き会った。


「あの、もし…」

「何かしら?」


 ブルーの足を止めてチャムはその女性に目を向けた。

 夜気を避けたいのか、その女性はドレスの上にローブを羽織り、フードを下してハッキリと顔を確認できない。長く伸ばした髪が半ば顔を覆っているのも解り難くしている一因だ。


「道に迷ってしまったのですが、モルガイスト伯爵邸をご存じではないでしょうか?」

「ごめんね、私、城門内に明るくないのよ」

「そうですか。南の方だと聞いていたのですけど…」

「南ならあっちのほうよ」

 チャムは指差して教える。城門内だし、さすがに一緒に探してやるほどお人好しでもない。

「そうですか。ありがとうございます」

「ちょっと!」

 そのまま暗がりの細道に入り込もうとする女性を放っておくわけにもいかず、「あっちの通りまでよ」とブルーを連れて続く。

 

 その細道を半ばまで進んだ所にあった僅かな広場に着いた時、一気に気配が迫ってきた。

 襲撃者は四人。剣を抜いて突き付けようとしてくるのを、抜き様に弾く。シールドを取り出し、背後に向けて三射する。押し殺した悲鳴があり、命中したのが解る。ただし、今の弾箱(カートリッジ)木弾もくだんだ。致命傷にはならない。

 二人目の剣をいなし、柄を鳩尾に入れようとするが、三人目が突き込んできたのでバックステップして避ける。その敵に右脇から二射を浴びせてどちらとも命中させるとさすがにうずくまった。

 油断なくシールドを掲げて威嚇してやると、内の一人の男が短く口笛を吹き全員がスッと暗がりに消えていく。反撃を恐れて追うのを躊躇ったチャムは、女性の姿も消えているのに気付き、彼女も共謀者グルだったのだと知る。


 混戦状況に手を出しかねてチャムを守れずに大きく落胆するブルーを宥めて騎乗し、王城に戻った。


   ◇      ◇      ◇


 話を聞いたバルトロは非常に苦々しい顔になった。

「手口も同じだ。間違いないか」

「どういうことだよ、バルトロ!」

「…これは内密にしてほしいんだけど…」

 迷った末に彼は口を開いた。


 実はこれまで城門内で十件もの誘拐事件が起こっているのだそうだ。

 城門内なので、いずれも貴族令嬢が被害に遭っている。当初は身代金目的の誘拐だと思われていたが、どれほど待っても身代金の要求がない。不審に思っている間にも次々と被害女性が増えていく。


 事件の目的解明に大きな影響を与えたのは、一人の被害者の発見からだった。

 その被害女性は城門外の街区の裏路地で死亡した形で発見された。彼女は舌を噛んでの自害が死因で、身体には性的暴行の痕跡があった。


 単に暴行目的ならわざわざ城門内などで犯行を重ねる意味はない。追及の緩い街区で十分だ。

 なのに城門内での犯行に及ぶとすれば、やはり目的は貴族令嬢の誘拐にある。つまり、これは身代金目的では無く、誘拐後の貴族令嬢の人身売買が目的なのだ。

 彼女は売り払われた先で監禁され性的暴行を受けた後に、それを苦に自害したのだ。死体の処理に困った顧客はそれを裏路地に遺棄したのだろう。


 性的嗜好の中には、どれだけ金を積んでもいいから高貴な美しい令嬢を求めるものがある。そういった顧客の需要ニーズに応えるための誘拐組織が城門内で活動しているという結論に至った。


 しかし、犯人の動向は杳として掴めない。警備が厳重な城門内で、更に警邏を強化しても網に掛からない。あまつさえ目撃者さえ居ないのだ。

 その手口は、被害に遭いそうになった一人の貴族令嬢がギリギリ逃げ出せたことで判明した。

 それまでは護衛の人間は皆、斬り殺されて発見されていたが、その令嬢は偶然通り掛かった別の貴族子弟の護衛に保護されて事なきを得た。

 残念ながら彼女の護衛も斬殺されて発見されたが。


 彼女の言によるとその夜、招待された晩餐会の帰り道に一人の女性に声を掛けられたのだそうだ。

 道に迷ったというその一人の女性を、護衛が付いている自分なら無事に案内してあげられると考え、その道行きで襲撃を受けたらしい。



 それは間違いなくチャムが遭遇した状況と一致している。

 その一味はおそらく貴族令嬢誘拐犯だろう。美しい容貌のチャムを見て、貴族令嬢が道楽に剣を下げているのだろうと勘違いして襲撃に及んだのではないかと予想される。


「なぜそこまでの事件を秘密裏に処理しようとしているんですか?」

 カイの虫の居所がかなり悪くなっていると感じ、恐る恐るバルトロは答える。ちなみに事件のことを話し始める前にテーセラント公爵家母子は居室に帰してある。

「あまりに風聞が悪いと騎士団も衛士隊も、協力している軍部を束ねる軍務卿も反発しているのさ。必ず事件は解決するからそれまでは秘密裏に捜査したいと。僕もこの事態は憂慮しているが、大っぴらにしてお膝元の安全さえ確保できないのかと王家に批判が集まるのは避けたい」

「解ってやってくれ。王家っていうのは体面も大事なもんなんだ」

「私のことは気にしなくていいのよ。あのくらいならいつでも撃退できるから」

 明らかにマズい雰囲気を漂わせ始めたカイを二人で宥めに掛かる。

「一度だけですよ」

「ええ、事がこれ以上大きくなるなら、バルトロさんも黙っていられないだろうし、私たちだって関わりにいけるかもしれないでしょ? それまで我慢しない?」

 仕方なく納得したふうのカイにホッと胸を撫で下ろす。だが、今後は単独行動は許してくれないだろうとも思う。


「どのくらいの腕前だったんだ?」

 誘拐犯一味の事が気になるバルトロに代わってトゥリオが訊く。

「そうね、街のゴロツキを引き込んだにしちゃ腕が立つし、軍人みたいな固い剣じゃなかったわ。普段から荒事に慣れた連中って感じ。でも、衛士でも数を揃えれば十分対処できる程度のものよ。そんなもんなんだからカイが出しゃばらなくても大丈夫なのよ?」

「念を押さなくてもいいよ」

 カイは口を尖らせる。

「それにこれは機密中の機密なんだが、捜査線上に囮の女らしき者が上がっている。時間の問題なのさ」

 それなら大丈夫だろうとその話は終わりになった。


 しかし、三陽(みっか)後の深更、ベッドで眠っていたカイはガバッと跳ね起きることになるのだった。

事件の発端の話です。本来はこんな事件が発生してるよ程度の前振りをする予定だったんですけど、ちょっと話を膨らまそうかと色気を出したら一話になっちゃいました。そろそろ分量ってものを把握しなきゃいけない気もしますが、これはプロの方々でも中々に難しいようなので、今の自分じゃ無理かな?開き直っちゃダメなんでしょうけどね。あ、内容がアレになってきたのでキーワードにR15を追加しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ