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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
エピローグ

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時過ぎ去りて(2)

 メルクトゥー王国は中隔三国の経済の中心となっている。

 何より隔絶山脈横断街道の開通が大きな要因であろう。それによって王都ザウバは西方と東方を繋ぐ中継点となったのである。


 それまでは陸路、海路を合わせて三往(三ヶ月半)掛かっていたホルムトからラドゥリウスへの行程が、陸路のみの二往(二ヶ月半)にまで短縮されたのである。海路が省かれた事で安全性も飛躍的に向上しており、今や海運は昔の事とされつつあるのだった。


 王女フィネシアが第二王子チェインを婿に迎え、隣国とも言っていい距離となったホルツレインとの国交も緊密さを増している。法整備も行われ、フィネシアが次期女王として安泰であると国民を喜ばせていた。


 伝統のウルガン、革新のイーサルと並び、中隔三国は安定の歴史を刻んでいる。


   ◇      ◇      ◇


 北の地、誰もその名を知らないタイクラムの森には、今陽(きょう)も弓弦の音が鳴る。


 その音の主が稀に黒髪の青年と談笑しつつ森に入るのも誰も知らない事だ。


   ◇      ◇      ◇


 隔絶山脈横断街道の東の到達点は今もロードナック帝国領である。


 東方動乱終結後、新たに帝位に就いたルレイフィアは二()後に婚儀をあげた。彼女が夫としたのはラルカスタン公国の公子の一人。北洋人(スクルタン)の血を帝室に入れるのは異論があったものの、開かれた帝宮を望むルレイフィアの英断により現実のものとなった。

 楽天的で陽気な公子コリンは人好きのする性質を有しており、広く帝国民に愛された。享楽的な彼が故に後継を危ぶむ声もあったが、産まれた三人の皇子皇女はいずれも愛らしい容姿に明晰な頭脳を持っており、宮廷を安心させる。

 特に第一皇子はゼプルの騎士の薫陶も受け、実直な性格も幸いして皆が玉座に着く()を心待ちにするほどだった。


 国内にも大きな変化がある。


 西は大公に任ぜられたウィクトレイが、ジャンウェン大公として治めていた。しかし、領内が安定の兆しを見せると彼は早々に引退して、ファクトランに大公位を譲ってしまう。猛烈な押しで輝きの聖女を迎えていた彼がジャンウェン大公ファクトランとなり、公妃ラエラルジーネと相成ったのだ。

 領主として修練を重ねていた彼は大公としても過不足無く治めているが、悩みの種も抱えている。妻のラエラルジーネが、時折り訪れる黒髪の青年を捕まえては説教を始めるのである。皇帝ルレイフィアが最も頼みとする青年を、である。彼にしてみれば冷や汗の止まらない時間であった。


 北の広大な領地を治めるのはベウフスト大公イグニスである。ラムレキアやコウトギとも国境を接する重要な地は、双方とも良好な関係を有する彼に任せられていた。

 ラムレキアからの「詣で」の際には必ず大公領を通過する事もあり、交通の要所ともなりつつある。栄える領地と、元々領地を愛する気質が合わさり、非常に領民に親しまれる大公となっていた。


 戦功著しかったジャイキュラ子爵モイルレルにも大公領を与える話もあったのだが、彼女は固辞して皇帝の側近く侍る事を望んだ。代わりに侯爵位と近衛総監の地位を得た彼女は今も帝宮で仕えている。


 皇帝直轄軍に昇格した獣人戦団は、ラドゥリウス近郊に駐屯地を置いている。三人の指揮官は頭将へと取り上げられた。

 情勢が落ち着きを見せた頃から、元から恋心を抱いていたゼルガはロインに求婚している。しかし、ロインは三度に渡る求婚を蹴り、ハモロをつがいの相手とした。さばさばした性格の彼女は熱烈な夫婦関係より、友人の延長のような関係を望んだのだった。

 傷心のゼルガを癒したのは、衛生部隊に所属していたミムルという猫系獣人。彼に憧れていたミムルは親身に接し続け、ついにはゼルガの心を射止めて幸せな家庭を築いていた。


 恋模様とは分からないものである。


   ◇      ◇      ◇


 初老と呼べる歳となっても勇者王ザイードは意気軒昂であった。

 その後、アヴィオニスとの間に更に一男一女を授かった彼は五十になっても聖剣を振り続けている。内政は王妃に任せっきりだが、聡明なる王子ルイーグの成長が彼女を助け、平和な時を享受していた。


 帝国の前体制崩壊後のナギレヘン連邦は、ほとんどの領邦が経済発展の目覚ましいラムレキアに帰服の意を示し、国土も広がっている。唯一ナギレヘン領邦のみが飛び地のように残っているが衰退著しい。時流に乗り遅れた国の成れの果てを見ているようでもの悲しささえ感じられる。


 東方北部も安定感を増してきていた。


   ◇      ◇      ◇


 コウトギ長議国は大きな変化もなく時を刻み続けている。


 ネーゼド(ごう)の知恵者クオフは、一時長議会の相談役を務めていたが退任している。今は新設された『口寄せ』という地位に就いていた。

 これは早く言えば緑の神シトゥランプラナドガイゼストとの連絡役である。ドラゴンの座する山への坑道入口に居を構え、彼の意を汲み取り国民に伝える役目だ。


 要職であるが故に尊ばれるも、世襲制と定められてその地から離れる事を禁じられた。権力から切り離すのが目的で、普段接するのは家族とシトゥラン翁だけという厳しさだが、折に触れ訪う黒髪の青年が彼の憩いでもあった。


 緑竜もその時ばかりは饒舌になり、クオフを交えて盛り上がり上機嫌な時を過ごせる。狐獣人は彼なりに充実した陽々(ひび)を送っていた。


   ◇      ◇      ◇


 赤燐宮から発された、魔闘拳士による魔王討伐の報は大陸中を駆け巡った。

 その結果として勇者一行は役目を解かれた形なのだが、彼らは未だ能力を有したままである。神意は定かではないが、ケント達もそれを善しとして活動していた。


 困り事があれば出向き東奔西走の陽々(ひび)であったが、その困り事も少なくなってきている。いずれは単なる正義の象徴へと変わってしまうのかもしれない。それも時流と、歳経た五人は納得していた。


   ◇      ◇      ◇


 大きな動乱無くとも、小さな争乱は無くならないものだ。そんな情報も赤燐宮には舞い込んでくる。


 遠話器の普及までには至らないが、技法局の開発した廉価版伝文装置は小さな村々へも設置されている。大陸は情報化社会を迎えていたのだ。

 それだけに小さな問題も浮き彫りになってくる。情報局から目に余るものを拾い上げては、出向いたカイが解決に導いていた。


 金の王の住まう山を訪れた彼は、ライゼルバナクトシールより礼として飛翔魔法の秘密を授かる。それを解析した青年は記述化して一本の槍に封じた。

 各地への門を通過したカイはそこから飛翔して現地へと赴く。槍を携え、紫のセネル鳥(せねるちょう)にまたがり、金色の魔法陣の上に乗って空を飛ぶ。


 各地の人々は、魔闘拳士が空を行く様を見ては、今陽(きょう)も平和が保たれていると安心するのだった。

その後の話です。中隔地方と東方の二十年後を描く展開でした。普通に人の営みが続いているようでいて、大陸は纏まりを見せつつあるという内容なのです。

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