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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
界渡りの武神

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禁断の法

 大剣を納めて歩いてきたトゥリオが拳を差し出してきたので軽く合わせる。十数名はいた神至会(ジギア・ラナン)の魔法士は彼が全て倒していた。


「ありがとな。お前が引き付けておいてくれたお陰でがっつり暴れられたぜ」

 考えを読まれている。それも当然という長い付き合いだ。

「気は済んだかい?」

「ちっとはな。あとはお前がきっちり落とし前付けさせるんだろ?」

「まあね。さあ、どんな罠を仕掛けて待っているのやら」

 目を細めて先を見る。


「この先の神殿遺構に全員が集結しているようです、お方様」

 正装で臨んでほしいとチャムが願うので、フィノに水魔法で服の血抜きをしてもらっていると、偵察に出していたエルフィンが報告にやってきた。

「神殿? じゃあ、黒き神殿の跡地に集まっているって言うの? こいつら、正気?」

「意味があるのかないのかは行ってみないと分かりませんですぅ」


 暗黒点ヘクセンベルテの黒き神殿といえば、暗黒時代四十()の長きに渡って魔王が座していた場所だ。普通の人間なら長居はしたくないと考えるだろう。

 だからこそ潜伏場所に選んだのだと言われればそれまでだが常識が邪魔をする。元々、選民意識の権化のような連中だ。自分達は大丈夫と考えてもおかしくは無いか?


「一人として逃さないようになさい。完全に包囲」

 チャムは命じる。そのためにエルフィン隊を温存していたと言ってもいい。

「ちょっと面倒だけど、うちの軍でも包囲させるわ。対魔法兵を前に出せば問題無いはず」

魔法散乱(レジスト)メダル保持者を並べれば良いだろうか、カイ殿?」

「それで問題無いと思いますよ」


 アヴィオニスとイグニスも神至会(ジギア・ラナン)包囲に協力を申し出てくれる。場所柄、嫌がる兵士も少なくないだろうが我慢してもらうしかない。


「なあ、森の民(エルフェン)隊が二千もいるんだから、それで制圧出来るんじゃないのか?」

 ケントは出発する緑髪の軍団を眺めながら漏らす。

「そうだよなー。手合わせした事はないが、相当腕利きだって話だろ?」

神至会(ジギア・ラナン)は僕が殲滅します。彼ら自身にもそう伝えてありますので、こうして返り討ちにしてやろうと待ち受けているのですよ」

「殲滅!?」

 物騒な単語に勇者一行は反応した。

「無理だって。奴ら、こいつを完全に怒らせちまった。もう後戻りは出来ねえ」

「承服しかねるとおっしゃるのでしたら、ここで手を引いてくださいね。ご協力には感謝しています」

「いや、所行を思えば、普通に裁いても死罪は免れ得ないでしょうけど……」

 カシジャナンは思案顔。

「わざわざ自ら手を下しますか? 神使の騎士にまでなった方が」

「だからこそ負うべき責だとも考えています」

 固い決意があると伝える。


 騎上での会話を進めているうちに黒き神殿跡地が遠目に確認出来る。先々代勇者一行と随行した各王国軍の手によって完膚なきまでに破壊された神殿は、僅かに基礎の一部を残しているに過ぎない。逆に数百()も風雨に曝されても残っているほどの堅固さとも言える。

 そこには現在、極めて巨大な魔法陣が描かれており、まばらに魔法士が配置されていた。軍の接近を覚っていたであろう彼らは準備万端といった様子だ。

 その周囲をエルフィンによって包囲されても警戒の視線を投げ掛ける程度だった。


「よくぞ参った、魔闘拳士!」


 中央に設えられた台座の近くに立っている首座が、張りのある声音で呼び掛けてきた。老いてもなお盛んと思わせる手振りに加え、その瞳を炯々と輝かせている。

 この極めて大規模な魔法陣は彼女の研究の集大成なのかもしれない。それを試す機会に恵まれ、心身ともに充実した状態なのだろうか?


「約束通り、あなた方を討滅する為に参りました。しかるべき方々に遺言は残してきましたか?」

 カイは彼女へと返す。

「不要であるぞ。なぜなら我らが秘儀によって、今からそなたの力の秘密を貰い受け、神の頂へと昇るのだぞえ? この地は降臨地となる。喜ばしき()に祝福を!」

「相も変わらず大言壮語の過ぎる方ですね? まあ、仕方ありません。僕は有言実行型だと教えて差し上げるまでです」

「大言甚だしいとはそなたのほうぞえ? 世には神屠ると言われる力持っても抗せぬものがあると知れ!」


 首座アメリーナが合図をすると、巨大魔法陣の外輪に当たる部分に位置する魔法士が一斉に魔力の注入を始める。掘った溝に水晶粉末塗料を落としてあるらしい魔法陣は輝きを放ち始め、それが円弧上に繋がっていく。


「何の魔法? え?」

 各所で魔法散乱(レジスト)が使用されたが発現したのは直接的な属性魔法ではないようだ。その異変は空に、正確に言うと上空に現れる。

「あれは何なの!?」

「分からねえ。見えているのに見えねえ」

「そんな! まさか!」

 フィノは何か感じているようだ。この場所が選ばれた事に予感を抱いていたのかもしれない。

「何て事をするんだ。次元壁に穴を」

「やっぱり……」

「次元壁に穴!? じゃあ、あれは!?」

 カイが唸るように言葉を漏らすとチャムはその事実に驚愕する。


 見えているのは高次空間である。それが誰にでも見えるほどはっきりと現れているのを青年は危惧する。

 この穴の先は高次空間の媒質である為、三次元存在である彼らには黒い何かが有るように思えるのに何が見えているのか分からないのである。認識出来ないので、そこだけ空間が欠如しているように感じられてしまうのだ。結果として黒い何かになってしまう。

 上空に浮かぶ得体の知れない物が次元壁の穴だ。


「何だって? 次元壁に穴まで開けちまうような魔法があるのかよ!」

 トゥリオは分からないようだが、チャムは気付いて蒼白になっている。

「違う。あれは結果に過ぎないんだ。この魔法……、いや、禁断の法はもっととんでもない効果をもたらしてしまう」

「禁断の法? 次元壁に穴が開いたら……、待て! まさか!」

「そのまさかをやろうとしている」

 カイは首座を名乗る老婆を睨みつけた。


「気付いたかえ? これを見やれ!」

 アメリーナは中央の台座の布を取り払った。

「その大きさ! 魔王核!」

「それだけはやってはいけない事なのですぅ!」

 台座の上に鎮座しているのは漆黒の石だ。球体に近いが凹凸も多く、全体に歪を感じさせ、それが禍々しさを助長しているように思える。


 その核は魔の眷属が中心核として持っている物であり、そこへ情報体である黒い粒子が凝集する事で形態を獲得する。逆に言えば形態が多少失われようが、核が無事であれば黒い粒子が補充されれば再生する。

 これらの事実から、魔石と同じ組成をしているその魔核に形態情報や記憶情報が記録されているのまでは推察出来る。


 しかし、本来は黒い粒子のほうが記憶情報で、それらが凝集した後に魔核を形成すると緑竜シトゥランプラナドガイゼストとの会談の結果で判明している。つまり、魔核は形態確保のために形成すると同時に、情報が集積されて個の保存の役割を担っているのだと考えられた。

 単なる情報器官ではないと判明してからは、あまりの危険性ゆえに研究用に確保しておいた魔人核さえも全て破壊していた。


 それなのに彼らの前には、おそらく暗黒時代のものと思われる魔王核が存在している。どういう経路で彼らが保持するに至ったのかは分からないが、神至会(ジギア・ラナン)はずっと魔王核を保管していたのである。東方を滅亡へと導きかけた元凶を。


(これを狂気と言わずして何と言おう)

 青年は彼らの正気を疑う。


 それでも現実に魔王核は存在し、次元壁の穴からは大量の黒い粒子が降り注いできたのだった。

魔王核の話です。首座が決して触れてはならない法に手を出す展開でした。その結果は言わずもがなです。いよいよ物語も佳境に入ってきました。

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