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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
界渡りの武神

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行く手を阻む者

 先頭に位置していた年若い紫髪金眼の男は背負った長大な剣を重さを感じさせないような仕草で音もなく抜く。

 名乗りを受けてその五人を通してしまったラムレキア騎士は困惑の表情を隠せない。彼とてこんな展開になるとは露ほども思っていなかっただろうから。


「カイ・ルドウ! 戦乱の責、ここで取ってもらおう! 命惜しくば投降し、西方への送還に従え! 抗うならば命は保証しない!」

 さすがにカイも呆気に取られているようだ。ひどく空虚な瞳をしている。

「またですか? 何度同じ事すれば気が済むんです、勇者ケント」

「抗弁があるなら聞こう。戦うなら我が聖剣フェルナル・ギルゼの前に散れ。お前は既に一度敗れている」

「はぁ……」

 青年は大きな溜息を吐いた。


 彼らを阻もうとしているのは間違いなくホルムトで相まみえた勇者パーティー一行である。

 少し風格を身に着けたように感じる勇者ケントは、全く曇りもない真剣な面持ちでカイを睨みつける。何をどう勘違いしているのかは窺い知れないが、自分の行動を寸分も疑っていないのは確かだ。

 隣の煌びやかな美女は、南のラルカスタン公国の公女で勇者の仲間。長い黒髪に茶色の大きな瞳の彼女ララミードは、ケントとともに青年を睨み付け、腰の細剣(レイピア)の柄に手を掛けている。

 反対側の魔法士は眉根を寄せて難しい表情を見せているが、ロッドを手にもしていない。黒い蓬髪に赤い瞳が印象的な男はカシジャナン。冷静沈着な筈の彼も狼狽の色が漏れている。

 ララミードの後ろの大柄な黒瞳の美女はミュルカ。大剣を腰の後ろに下げているが抜く気配もない。それどころか、やってしまったとばかりに顔に手を当て、盛大に黒髪を揺らして天を仰いでいる。

 隣で大盾を担ぐ筋肉質の盾士(シールダー)は成り行きを面白そうに青い瞳で眺めている。その実、黒髪の中身では何も考えていないのだろう。なるようになれと思っているのはティルト。ただ、いざ戦闘となれば彼は前面に出てくる筈だ。


「お前! カイが戦争の原因みたいな言い方をしたな!」

 怒ったハモロはもう半ば剣を抜いている。似たようなタイプの彼はカッと来たようだ。

「そうだって言ってるんだ! この男は獣人とラムレキアをそそのかし、東方を戦乱に陥れた!」

「ほう、お前は一国の王であるこの俺が妄言に従っていると言うのだな?」

「う……、勇者王。いや、その……」

 泰然自若としたザイードに現勇者も怯む。

「同じ聖剣を担い手としてそこまで言うのなら、相応の根拠有っての事だろうな?」

「じ、ジギリスタ教会の方々が魔闘拳士の扇動によって東方動乱は起きていると。おそらく西方がその版図を広げる為に混乱をもたらすのが目的ではないかと言ってて」

ラムレキア(うち)に来たときも青臭い少年だと思ったものだけど、全然成長していないのね」

 王妃はあからさまに落胆した様子を見せる。

「止しとけ止しとけ、お前ら。今から討伐に向かうのが、そのジギリスタ教会の派閥組織なんだよ」

「な! 教会と対立しているとか、何やらかしたんだよ!」


 カシジャナンが派手に顔をしかめている。朧げながら気付いたようだ。しかし、少々手遅れだっただろう。青髪の美貌の眉は吊り上がっている。


「私が誰かくらいは知ってて言っているんでしょうね?」

 少し抑えた口調が余計に迫力を増している。

「いえ、そんな、チャムさんがどうとは……」

「御神の御言葉が聞こえないというのなら、すぐにその聖剣を手放しなさい。あなた方も武器を下に置きなさい」

「ですが、託宣でもそいつは『神屠る者』と。教会が神敵とするのも当然では?」

 だんだんと声音は弱くなっていくが、抗弁を試みている。

「それならどうして『触れるべからず』を無視するのかしら? カイのやる事には干渉するなって意味でしょ!」

「げ! 託宣にそんな文言が含まれていたのか、ケント? 初耳だぞ?」

「あ、そう言えばそんな下りも有ったような……?」

 もう完全に自信なさげな風になってきた。

「大事なとこだぞ! 大事な!」

「マジなの? もうやだ」

 ララミードまでもがへたり込んだ。


「ごねんねぇー。うちの馬鹿がまたやらかしたみたいね」

 ケントの後ろ頭を小気味良い音を立てて平手で張ったミュルカが、その頭を押さえ込むと同時に自身も頭を下げる。

「だから止しとけっつったろうが。奴らは神使の一族(ゼプル)を一人殺害してんだぜ?」

「うわ、最悪だ! しっかりしてくれよ、リーダー!」

 トゥリオの言葉にティルトも閉口した様子。

「この人達、どんな辺境をうろついていたんでしょうねぇ? あまりにも情報に疎すぎですぅ」

「カシジャナン! あんたが付いていてこの体たらくは何?」

「申し訳ありません、女王陛下。実は……」


 ホルムトの件からこちら、ケントはすっかり権力中枢にいる人間の言う事に耳を貸さなくなったのだそうだ。挨拶や社交辞令程度のやり取りはするものの、全く信用していないのだと勇者パーティーの頭脳は語る。

 それほど悪い事でもないとカシジャナン自身も思っていたらしい。事実、フリギアに入ってからもルミエール教会は何くれとなく細やかな配慮を見せてくれ、無理に王国に頼らなくとも探索行は順調だったのだと言う。

 そんな調子で西方探索を終え、何の手掛かりも得られずに東方に戻った辺りでダッタンの塔の調査結果に触れる。魔王が現状はいずこかに封印されて活動していない可能性に、探索方法の再検討が必要だとは感じていた。

 模索しつつ再び東方で教会の協力を得ながら各地を巡っているうちに東方動乱が始まり、最近になって魔闘拳士討伐の協力要請を受けたのだと明かした。


「だからさぁ、ケント。まずは会ってからちゃんと問い質すところから始めようって打ち合わせたじゃないか?」

 魔法士にも思うところがあったらしい。

「でも、ジギリスタ教会の人は魔闘拳士の所為でまともに活動出来ないって言ってるし、噂でもあいつがいつも中心にいるって聞くし……」

「一人で走り出すなって言ってんの! ごめんね、カイ。こんな残念馬バカな勇者でも志は本物なんだ。許してくれない?」

 パーティーの世話役的立ち位置のミュルカは心底申し訳無さそうに謝る。

「怒ってなどいませんから大丈夫ですよ。この一件の邪魔さえしなければあなた方の活動に干渉する気は毛頭ありません」

「なあ、勇者様よぅ。悪い事ぁ言わねえからチャムには謝っとけ。一番の被害者だ」

「え? そうなのか?」

 意外そうにケントは目を瞬かせる。

「すみません、チャムさん。俺、知らなくて」

「もう良いわ。余計な事考えずにあんたはあんたの使命を果たしなさい」

「そうする」

 かなり消沈した様子を見せる。


(はぁ……、もう疲れたわ。こんな単純バカの相手なんかしていられない。諸々片付いて落ち着いたら、魔王はカイが倒したって公表してこいつらを解放してしまおう。そうすれば面倒な騒ぎを起こす事もなくなるでしょ。能力のほうをどうするかは御神の御心次第だけど)

 そんな思いを抱きつつファルマを窺い見れば、獣神はにまにまと楽しげである。チャムはちょっと腹が立った。


「それで、お亡くなりになった神使の血族というのは?」

 考え事をしながらだったので、彼女も何の気なしに答えてしまう。

「叔母よ」

「何だって! チャムさんの叔母さんを!? そいつら絶対に許せない!」

「信じられないわ! 神使の方々に手を出しただけでも極めて罪は重いのに、王族の方だったなんて!」

 ケントとララミードは怒りを露わにする。

「俺達も協力します! 成敗してやる!」

「あー……」


 麗人は口を滑らせたのをひどく後悔していた。

勇者の話です。立ち塞がったのは勇者一行という展開でした。終盤も押し迫ってきての再登場です。奇しくも2018年の暮れはポンコツ勇者で幕を閉じます。年明けから激戦、かな? なんか今年もそんな感じだったような気がします。

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