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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
南部不和

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不和の種

「敵影確認!」


 斥候隊の報告通りに獣人軍が進撃してくる。

 当初は七の刻(8時半)くらいまでには姿を現すと思っていたが、斥候の報告では陣を編成する気配も見えないままに時間が過ぎていく。そして、九の刻(11時前)にもなってようやくの到着である。朝の慌ただしい戦闘準備が全くの無駄になる。デュクセラ領軍は少し焦れていた。


 ところが、獣人軍はやって来ても陣形に展開しない。重打撃戦力部隊を擁した戦隊が正面に位置し、属性セネルで編成されている速攻戦隊が真ん中、近接戦闘を主力とした戦隊が後方に控えたままである。


 デュクセラ領軍は前回終盤に効果を発揮した陣形を整えている。中央の陣の前列に重装兵を置いて押し出し、左右両翼は少し引いた位置取りをしている。

 違うところと言えば、騎馬隊が二隊に分けられ、両翼に分散配置されているところだろうか。この陣形からの変化を円滑にする意図がある。

 側撃や挟撃に移るまでの時間が勝敗を分けると参謀が意見した故の再編である。


 変則両翼陣で待ち構える領軍に対してそのままゆっくりと移動するに至って、初めて獣人軍が縦陣をとっているのだと判明する。

 確かに機動戦力であれば縦陣は用兵を容易にする。兵は前進する前衛の後に続けばいいだけで迷う事はない。

 ただ、この陣は同じ騎馬隊などの機動戦力を相手にする時ぐらいにしか用いられない。互いに交差しつつぶつかり合いながら戦闘を行う陣形であり、大軍に対して少数での策としては愚の骨頂と言える。

 その場合接敵するのは前端だけであり、損耗は計り知れない。一点突破を意図するなら考えられなくもないが、それでも損害は計算しなければいけない無謀な策である。


(何を考えている? まるで素人のやり方だ。こちらが魔法攻撃や機動戦を警戒したと分かれば、損害を無視して分断に出るか?)


 参謀は迷いを捨てられない。魔闘拳士が単独の武威で戦場を席巻する逸話は伝わってきても、作戦指揮を執った話は聞こえてこない。仮に素人だとしても変ではない。

 しかし、昨陽(きのう)の一戦では明らかに戦闘の流れを作られてしまって、常に後手後手に回らざるを得なかった。翻弄されたと言ってもいい。

 それが今陽(きょう)はこれほどに単純な策に出るものかと思う。


(何か仕掛けてくるはずだ。昨陽(きのう)も全て奇策で崩されてから圧倒された。油断すれば罠にはまるぞ)


 指向拡声魔法を起動させた魔法具の拡声筒を手に、いつでも命令を伝えられる態勢を整えてから警戒を続ける。

 だが、大きな変化の無いままに、あと僅かで中央の陣の右端辺りに接敵するところまでやってきた。


「魔法攻撃!」


 そのまま衝突するのはいただけない。少しでも崩しておかねばこちらの損害も無視出来ない。

 魔法士部隊からの攻撃で被害は与えられなくとも、恐怖心を煽るだけでも突進力は弱まる。予想通り、敵魔法士の魔法散乱(レジスト)で魔法は防がれるものの行き足は鈍いまま。


(満足に動けなくさせてやる。断続的に魔法攻撃だ。いや、動いたな?)


 属性セネルがするすると縦陣中央から出てくると、魔法の一斉掃射が始まり魔法士隊はゆとりを持って魔法散乱(レジスト)で対抗する。効果が無いと分かるとすぐに退いていき、続いて後方の陣からも大規模な攻撃魔法が飛んでくる。それも散乱させられ、功を奏さない。


(行き足を抑えられ、魔法で崩しが効かねば攻撃に移れまい? どう動く?)


 そう思っているうちに接敵する。大盾の隙間から突き出される槍の列に対して、弾いて逸らしながら固い装備を付けた獣人兵が前進するも、重装兵の列は槍をしごいて隙を作らない。金属の鈍い激突音の合間に時折り苦鳴が混じり、後方に下がる兵が出てきていると分かる。


(当然そうなる。突進力で一気に貫かねば、縦陣など怖くはないぞ)


 愚を悟ったか、一詩(六分)にも満たない激突だけで獣人軍は潮が引くように退いていった。突出した一部が少し粘ったようだが、叱咤の声が飛び後退していった。

 参謀は追い打ちで間断なく魔法を打ち込ませて圧力を掛ける。


(苦しめ苦しめ。用兵とはそんなに甘いものではないぞ)

 彼は作戦変更を余儀なくさせたと考えていた。


 ところが獣人軍は陣形を変えなったのである。


   ◇      ◇      ◇


「何やっていたの! 下がれと言ったら下がりなさい!」


 縦陣の先頭に位置していたのは、チャムが監督するゼルガ戦隊の重打撃戦力である。その隊への随行を志願した暁光立志団は、前列に進み出て攻撃に加わっていた。

 しかし、ゼルガの発した後退命令に対して彼らは従わずに残留しようとし、チャムが前に出て命じなくてはならなかったのである。


「しかし、あの程度の攻撃では何の意味も無いではありませんか!?」

 活躍の場を奪われたように感じたようだ。

「これは作戦行動なの! 全体が指示通りに動かなければ回らないと解りなさい!」

「あんな小競り合いに何の効果があるってんだ……」

 ゼッツァーは不承不承頷いていたが、団員の一人は不平を漏らしている。


 この用兵は中段に居るカイの指示であり、ハンドサインにゼルガが応じてものだが、彼らは納得し難いらしい。作戦の全体像を知らないのだから当然かもしれないが、作戦会議への招きに団長は応じなかったのだ。

 前陽(ぜんじつ)まで物資に困窮していた彼らは休養を優先するとして顔を出さなかった。ならば指揮に従うかと思えばこの有様である。


「ゼルガ、ごめんなさい。私が連中に付くから今まで通りに」

 不安が残るチャムは冒険者集団の後ろに付かないといけないと感じた。

「問題有りません。お任せください」

「お願いね」

 少年のほうは着々と実績を積み上げて自信にしている。


 再び陣形を整えると戦団は進出を始める。同じくゆったりとした前進で魔法を防ぎつつ接触すると、今度は長柄の武器の使い手で長い間合いでの叩き合いを演じる。

 その間に扇を畳むように進出してくる敵右翼に対しては、中段からロイン戦隊が対処に出て属性セネルの魔法攻撃を浴びせる。それも直撃させようとすれば魔法散乱(レジスト)で防御されるところを、少々離れた先に着弾させる事で効果を発揮させていた。

 そのまま進出しても魔法散乱(レジスト)で魔法防御は可能でも、目前の抉り取られたり掘り起こされた大地は馬を躓かせるし、特に凍った大地は著しく転倒の危険を孕んでいる。ロイン戦隊は着弾地点を操作する事で、右翼の機動展開を阻害していた。


「後退!」

 麗人は暁光立志団の背後で声を張り上げた。

 その声に皆がギョッと振り返って見てくるが、厳然として後退を指示する。

「何なんだこれは!」

「黙って従いなさい!」

「馬鹿にしてんのか! 俺らはもっと戦えるぞ!」

 敵を前にして、こちらに突っ掛かって来そうな形相をしている。

「聞こえないの? 後退!」

「チャム様、せめて理由をお聞かせ願いたい」

「あんたも聞き分けられないの?」

 団員の手前、ゼッツァーも問い掛けてくるものの、こんな前列でおいそれと作戦内容を口に出来るものではない。

「下がれと言ったわ」


 団長に気遣ったか、露骨に罵倒してくる者はいなかったが不服そうな視線が青髪の美貌に刺さってくる。

 重装兵の列をプレスガンで牽制しつつ、チャムは殿に付くしかなかった。


「あまり時間が無い。君達は最後尾に回ってもらう。不満なら後方へ下がってくれて構わない」

 チャムが付き添って中段まで下がった暁光立志団に対してカイは申し渡した。

「ちっ! お偉い英雄様は俺達が当てにならねえんだとよ」

「馬鹿らしくなってこない? わたし、下がろっかなー」

 今度は聞こえよがしである。

「少し配慮いただけないか?」

「無理です」


 この位置でさえデュクセラ領軍から丸見えである。こちらに不和の種が潜んでいると知られるのは面白くない。


 指差すカイを睨みながら彼らはハモロ戦隊の後ろ、最後尾に向かった。

第二回戦開始の話です。新たな作戦を実行に入るも、冒険者グループが足を引っ張る展開でした。ここで新たな不和が生まれる内容です。人族と獣人族の不和、そして……、というエピソードなのです。

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