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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
獣人侯爵

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交錯する道

 敵将の戦闘停止の命令に合わせて獣人侯爵イグニスも戦闘を停止させる。先に号令を掛けた敵方が敗戦を認めた形であり、戦闘継続は将にとって鼎の軽重を問われる。


 両軍が戦場から引いた場所まで移動し、青旗を掲げた兵が一隊を率いて駆け回る。青旗は攻撃無用を示しており、続く一隊は衛生部隊の集団である。負傷者の救護を行い、程度に応じて馬車に収容されていく。

 ここで生死の判断も行われる。死亡の判断も大雑把にされるが、まだ息は有っても治癒魔法の甲斐が無さそうな重傷者は苦しまないような措置が取られる。残酷に思われるかもしれないが、それも戦場の理なのであった。


 戦死者と負傷者の収容が早めに終わったベウフスト候軍の元へ、やはり青旗を掲げた使者がやってくる。差し出された皮袋の中には金貨がひしめいていた。

 応じてデュクセラ子爵レイオットの遺体が引き渡される。それは戦死した将や貴族の遺体への身代金と、捕虜の返還礼金、戦後補償金が合算されたものであった。

 これを支払わないと将の遺体は晒し物にされる。無情であれど古式ゆかしい戦の作法。習慣として守られている。


「これで良いか?」

 大胆にも一人留まっていたディムザが責を負う者として問い掛けてくる。どうやらこの青旗使者とともに自軍に帰還するつもりらしい。

「確認しました、殿下。許せとは申しませんが、これも戦場の習いと承服ください」

「気にしなくていい。俺の負けだ」

 畏まるイグニスに第三皇子は鷹揚に応じる。

「頃合いでしたね? んー、大体三千ほどでしょうか」

「来ているか? あー、危ない危ない。危うく討ち取られて潰走させられていたかもしれんな?」

「心にもない事を」


 広域サーチを打ったカイの台詞にディムザが肩を竦める。

 それは進来方向からして西部連合からの救援の軍勢だろうと思われる。それが間に合っていれば、もっと圧倒的な戦いになっていたかもしれない。刃主(ブレードマスター)ともあろう者が容易に討ち取られる事はなかろうが。


「では退散するとしよう」

 さっきまで真剣に戦っていたとは思えない笑顔。

「ああ、またな」

「そのうちにまた道が交差する時もあるだろう。その時は杯を打ち合わせられる状況であって欲しいんだがな」

「そりゃちーっとばかし難しくねえか?」

 拳を合わせたトゥリオは苦笑い。

「それまでに説得しておいてくれって言っているのさ」

「頑張ってみてもいいが、よほどいい酒を準備しておいてくれねえと見合わねえぞ?」

「安いもんさ。精々頑張ってくれ」

 双方が無理だと分かっている約束を交わした。



 手続きが済んだベウフスト候軍は、再び北向きに移動を始める。いくらも進まないうちに進軍中の軍勢の姿が見えてきた。それは救援軍のはず。


「カイ」

 全体に安堵の色が見える中、イグニスが話し掛ける。

「何です?」

 青年は泰然と応じる。


「会ってもらいたいお方がいる」


   ◇      ◇      ◇


 救援軍は戦力を備えてもいたが、物資も大量に運んで来ていた。


 困窮するほどではなかったものの、ずっと苦しい懐事情で遣り繰りしていたベウフスト軍は、ここでやっと自分達が安全圏に到達したのだと自覚する。十分な量の食料を貪りながら込み上げてきたのは勝利の実感だったのだろう。両手を差し上げて吠え声を上げる者が続出し、どんどん連鎖していって凱歌に変わっていった。

 彼らは涙を流して抱き合う。それは失われた者への鎮魂歌でもあった。


 不自由の解消された行軍は順調で、人族を主軸にした救援軍は彼らのスタミナに目を瞠る。とても序盤は敗走に敗走を重ねたとは思えない活気を示している。

 城塞都市インファネスまでの十陽(とうか)の行軍はあっという間に過ぎていった。


 イグニスを始めとした一部の指揮官は城塞内へと誘われる。

 大多数の者は城壁外での待機が命じられたが、更に豊富な物資が支給されて、振る舞い酒も配られれば、あからさまに不平不満を言う者は現れなかった。


 本城前まで進むと、準備は整っていたようで諸侯が迎えてくれる。それを見た獣人侯爵は本当に自分が歓迎されているのだと知れた。これなら配下も不遇を囲う事はないだろうと安堵が湧き上がってくる。


 自分の要望も通っていたようで、警護の兵士が道を作る中を貴人が進み出てきた。

 ただ、その後に起こったのは彼には全く予想外の状況だった。



「やあ、ルル。奇遇だね?」

 イグニスの連れてきた冒険者の男が貴人に声を掛ける。

「お兄ちゃん!」

 制止も利かずに駆け出した貴人、帝国第二皇女ルレイフィア・ロードナックは彼に抱き付いていた。


「で、殿下! それに魔闘拳士! なんでここにいる!? いや、これはどういう事だ!?」


 目を白黒させているのは女性諸侯である。モイルレル・ジャイキュラ子爵。ジャルファンダル動乱で帝国正規軍を率いた翼将軍でもあり、ディムザに逆らって袂を分かち、遠ざけられた貴族であった。


「魔闘拳士? え? お兄ちゃんが?」

 彼女の言葉で今度はルレイフィアが目を白黒させる。

「ええ、その男が稀代の英雄『魔闘拳士』であります、皇女殿下。その……、お知り合いで?」

「その方はエジア湖の別邸を訪って姫様を解き放ってくださったのです」

 ゆっくりと続いてきたのはルレイフィアの家令であるモルキンゼス。彼女の側近中の側近である。

「そうなのでありますか? しかしこれは……」

「待つのだ、モイルレル。それよりも敬わねばならない方がおられる」

「閣下! それは?」


 白いものがかなり混じる豊かな髭をたくわえた、武人の空気を纏った諸侯が進み出てくると膝を折った。その前に立っていたのは青髪の美貌である。


「神使の女王、チャム陛下。お初にお目に掛かりまする。皇帝よりジャンウェン辺境伯を賜っております、ウィクトレイと申します。どうかお見知りおきを」

 その様子にチャムは婉然と微笑んでいる。

「顔をお上げなさい。色々と知っているようね? どこから?」

「このウィクトレイ、老いぼれたとは言え帝室近くに耳を置く力くらいは残っております。お察しを」

「そうなのね。ジャンウェン? あなた、ファクトランの父親?」


 ファクトラン・ジャンウェンは、商都クステンクルカの騒動の時に仲裁に駆け付けてきた男だ。辺境伯の長子だと名乗っていたので、彼の息子だろうと当たりを付けたのだ。


「愚息より話は聞いております。魔闘拳士が守りしお方、神使の一族の姫にして、新たな女王として立たれた高貴なる正義の血の乙女。お言葉をいただけた光栄、末代まで語れましょう」

 心からの感動を示している面持ちである。

「大袈裟ね。ファクトランは元気なのかしら?」

「恥ずかしながら愚息は聖女に骨抜きにされておりまする。こうして立とうとすれば反対する始末でして」

「許しておあげなさい。彼はラエラルジーネにぞっこんだったもの」

 輝きの聖女の名前を挙げた。


「あ、あの、存じ上げず申し訳ございません、女王陛下。わたくし、ルレイフィアと申します。此度はお力添えをくださったとの事、心より感謝いたします」

 慌てたように少女が跪くが、カイは彼女を立たせようとする。

「あまり騒ぎ立てると迷惑が掛かるから止そうか?」

「迷惑?」


 西部連合陣営に神使の女王が加わったと騒ぎ立てる者が出て来かねないと説明すると、彼女はハッとする。


「浅慮をお詫びします、あの、魔闘拳士様」

 チャムは肩に手を置いて諫める。

「お止めなさい。この人はそういうのを嫌うわ」

「そうなのですか? じゃあ、お兄ちゃん?」

「それでいいよ、ルル」


 カイは少女の頭に手を置いた。

別れと再会の話です。ルル登場で、やっとプロローグに繋がる展開でした。やー、既出の人物の再登場や関係者を出すとなると、その説明を地の文や台詞に組み込まなくてはならないから、文字数が冗談のように消費されていきます。覚悟していたとはいえ凄まじい。

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