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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
神使の一族

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神使の一族(ゼプル)を巡る状況は見ての通りですよ」

 カイと話しているのは、改めて訪問している北辺爵レレムである。

「あの場では圧倒されておりましたわ」

「致し方ないでしょう」


 砂金の山に群がるように、先を争って手を伸ばす者達。口々に巧言を上らせ歓心を買う事に躍起になり、他者を押し退けてぐいぐいと前に出てくる浅ましさ。

 それでいて大きな力を前にすれば委縮する。誰かが見出した流れに乗って手の平を翻し、調和の輪に入ろうという思惑。平和や協調が第一とする最後の一線は守ろうとする姿勢。

 人族社会の闇も光も全てを押し込んだような会議室では、この白猫が身動き取れなくなるのは自明の理だろう。


「あれが現実です。だから彼らは隠れなくてはならなかった」

 膝の上の黒猫(エルミ)が切り分けた果実に興味を示しているので、ひと欠け渡す。

「レレムに守れるでしょうか?」

「防衛力は必要ではないのです。寄り添う姿勢を見せてくれればそれで良い。意識が孤立するのだけ防げれば、きっと希望は捨てないで済むはずですから」

 戦闘力は森の民(エルフィン)が持っている。武技、魔法、連携、どれをとっても比類の力が認められる。

「ああ、だからレレムに外側に居て欲しいと言ったのですね? かしずくのでは無くて隣人として寄り添って欲しいと」

「物心両面での援助をお願いするのは心苦しいのですが、頼らせてもらっても良いですか?」

「お任せください。あなたが後顧の憂い無く動き回れるよう頑張ってみます」

 意気込む彼女を青年は制する。


 言うほど難しい事ではないはずである。

 レレムは力がものを言う社会で、諍いが起こらないよう、弱き者が疎まれる事の無いよう、心を配り皆に寄り添って治めてきた。

 その気配りを少しだけ振り向けてくれるだけで心配ないとカイは思っている。だからエレイン(ごう)の近くに好立地を見出した時に内心喝采を上げたのだ。


「まあ、気負わず普通に接してみてください。多少偏屈なところも有るかもしれませんが、大らかな人も道理の分かる人もいますので」

 リドが差し出すクッキーを受け取りつつ白猫は答える。

「ですわよね。この国の方々も巷で騒がれるような神に近い人などではなく、普通の人なんですものね?」

「ええ、同じです。見た目も能力も生き方も違いますが、心の動き方は一緒だと思うんですよ」

 親身になれば心を開いてくれるだろうと促す。


「お呼びだてして申し訳ございません」

 ノックの後に扉を開けて入ってきたのはムルダレシエン。今後の事の詰めの為に招いたのは彼である。

「幾つかご相談したい事がありまして、どうかお付き合い願います」

「はい、お伺いしましょう」

 丁重な扱いを受けた北辺爵は美しい笑顔で応じる。


 カイは退室の挨拶をして二人にする。これからは増える状況の筈なのだ。


   ◇      ◇      ◇


 この()、ゼプル女王国にやって来ているのはエレイン北辺爵だけではない。

 彼女の息子のアムレとその友達も一緒に訪れている。その友達は、同じ年頃の獣人少年少女に加え、人族の少年少女もいる。


 彼らはエレイン郷にある北辺府に修行がてら赴任している政務官の子供達である。北辺府には無料の学問所が設けられており、既婚の政務官達は家族を連れて任地に来る場合が多い。

 その学問所には常任の教師の他に、王都の各学究院からも新進気鋭の若手学究員も派遣されて指導を行っている。更にルドウ基金から派遣された教師職員も非常に人気のある教師陣の一画を担っている。下手な家庭教師を雇うよりも恵まれた学習環境があるのなら利用しない手は無いので、北辺府には人族の子供も多いのだった。


 トゥリオ達と合流したカイは、敷地内で遊んでいた子供達を誘って、外れにある泉に向かう。そこへ打ち合わせを終えたところで連絡を受けたチャムがゼプルの子供達五人を伴って追い付いてきた。


 敷地内でありながら、その周囲だけ伐採を免れた泉の周囲は樹々が覆い茂って、憩いの場のようになっていた。

 子供達にとっては、そのシチュエーションは遊び場にしか見えない。ワッと歓声を上げて駆けていく。

 その様子を理解出来ないように見送るゼプルの子供達。彼らは駆け去る背中と、自分達の新しい女王の顔を交互に見ては、どうして良いのか分からなくて迷っているようだった。


「綺麗な水!」

 早速、獣人族や人族の少年少女は水面を覗き込んでいる。

「でも、魚居ないね?」

「つまんない」

「あっ! 見て! あそこに居る!」

 大声を上げて近付いたのだ。魚とて逃げ出しもする。

「居る居る! ちっちゃいけどいっぱい居るー!」

「すごーい!」

「追い掛けろー!」

 元は密林の中にあった泉である。残っているのは小魚ばかりだが、遊び相手には持って来いだ。


 歓声を上げて追い掛け回すが、当然魚達も逃げ回って捕まったりはしない。そして、岸辺を駆け回っていれば当たり前に足を滑らせる子も出てくる。


「わー!」

 切迫した感じはない。それほどの水深はないからだ。

「ウヒムが落ちたー!」

「あははははは!」

 爆笑が起こる。


 そこからはなし崩しになる。

 引き上げようとした子が続いて泉に落ち、更に岸辺から踏み込む子供が出てくると、皆が泉にザブザブと入って遊び始めた。

 生憎と覆い被さるように生える樹々の落ち葉が泉の底に堆積して泥に変わっており、少年少女は泥んこになっていく。留まっているゼプルの子は止めるべきなのか分からずチャムの様子を窺っていた。


「うわあー!」

 それは黒髪の青年が、無謀にも一人の少年を抱え上げて泉の中へ放り込んだので上げられた悲鳴。

 少年少女の真ん中に落ちた彼は呆然と座り込んでいるが、すぐに水を掛けられ始める。

「さあ、君達も行っておいで」

「でも、服を汚したら大人の人達の手を煩わせて、使命の邪魔をしてしまいます」

 促された四人は、抵抗感を示した。

「そんな事は考えなくて良い。大人は絶対に怒ったりしないから」

「…………」

 抵抗感は頑強なようだが背中を押され、獣人の子達に手を引かれて泉の中に入っていった。


 最初はおずおずと真似をするように水の掛け合いに参加していたが、だんだんと表情はほぐれ笑顔に変わっていく。大した時間も要さず、ゼプルの子供達も泥んこになって満面の笑みで水を掛け合い、泥に足を取られ転んで大きな笑い声を上げていた。


「よーし!」

 チャムも水を蹴立てて泉に入り込んで水の掛け合いに参加する。犬耳娘もそれに続いた。

「あははは!」

「きゃははっ!」

 水辺には笑い声だけが響き渡る。


「どうしたの? チャムお姉ちゃん」

 麗人の顔を濡らしているのは、泉の水だけではないのにアムレが気付いた。

「何でもないのよ。これは嬉しいだけ」

「変なの。これは嬉しい(・・・)じゃなくて、楽しい(・・・)だよ!」

「そうね!」


 屈託も無く笑うゼプルの子供達の姿がある。それは彼女が追い求めて止まない光景だった。

 だから嬉しくて仕方がない彼女は自然と涙を流している。それをアムレに指摘をされ、子供達皆の笑いを誘う。感情をほとんど見せなかった五人の子供も指差して破顔していた。

 仕返しするように水を浴びせると、遠慮なくやり返してくる。そこには笑顔しかなかった。


(ゼプルにも未来がある!)

 そんな思いがチャムの胸を去来する。


 数刻後。

 種族の境も無く、泥だらけになった子供達が横並びに手を繋いで、歌をうたいながら元来た道を歩いて戻っていく。


 それはゼプルの将来を暗示するが如き光景だった。

ゼプルの未来の話です。真っ先に影響されるのはやはり子供達から、という展開でした。サブタイトル、何が良いかなー、と考えていたのですが、今回は変に凝らずにシンプルにいったほうが内容に合っているような気がしてこれにしました。正直、我ながら悪くないと思っています。

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