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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
神使の一族

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神使の里

 発現した魔法が凝集魔力に還元され、金色の光の粒が舞い散る。

 カイの左腕だけマルチガントレットが展開され、光盾(レストア)が発生している。これは彼に対して何らかの魔法が使われたという事だ。


「何をしようとしたの、あなたは! 私が……!」

 森の民(エルフェン)の男を叱責しようとしたチャムを青年の腕が遮る。

「ごめん。ちょっと話させて」

「……うん」

 青髪の美貌は不承々々(ふしょうぶしょう)という感じで頷く。

「彼女……、君達の姫様は何らかの理由(わけ)が有って僕を導こうとしています。そして僕はそれに応えたいと思っている。あなた方と正面から向き合いたいのです。承服いただけませんでしょうか?」

「里の場所は極秘です。それだけは守りたい」


 彼が使ったのは幻覚魔法だと推察出来る。

 チャムがカイ達を里に招くと主張する以上、場所や道程を秘密にしようとすればそういった手段を用いなければいけないと考えたのだろう。


「絶対に口外いたしません。信用してくださいとしか言えませんが」

 真摯な光を宿す黒瞳に、髪と同じ緑の瞳は迷うように揺らめき伏せられた。

「どうか失礼をお許しください」

「ありがとうございます」

 和んだ表情を見せた青年は頭を下げた。


 エルフェンの男女は、それぞれアコーガとクララナと名乗った。

 二人も茂みの奥から黄色と薄緑のセネル鳥(せねるちょう)を連れてくる。彼らも世界中を行き来しているのだろう。それを思えば当然の選択かもしれない。

 転移魔法陣が置かれる石室は、暗く狭く圧迫感がある。馬が強いストレスを感じる環境だ。引いて歩くにせよ嫌がる事だろう。

 それに比べてセネル鳥は、夜目が利かないものの、人が騎乗して指示したり後に付いて歩くのであれば全く怖がらない。転移陣を使用しつつ動き回るには必須の騎乗動物だと言えよう。


 そこからは街道を外れての移動になる。何せエルフェンの二人は、半ばおとぎ話の登場人物である。噂話程度の目撃情報は無くもないし、勇者パーティーにとって彼らは神使の一族との橋渡し役となり接する機会は多いのだが、基本的には誰の目にも留まらないように活動している。

 もちろんチャム一人でも案内は出来るのだが、アコーガ達が先導役を勤めたいと申し出たので彼らに合わせて移動する。トゥリオやフィノは隠密行動は苦手だが、ほぼセネル鳥任せの移動であればそれほど苦労はしない。夜営箇所を工夫するだけで、人目に付かないよう彼らは小都市国家群が点在する地域に入る。


 ゼプルの里はその先にあるらしい。

 聞くに、彼らは各国にも政治的影響力を持つパイプを持ち、ロードナック帝国に対しても侵攻を阻止する働き掛けをしているそうだ。それによりゼプルの里の秘密は保たれ続けていると言う。


「なるほどな。帝国ほどの大国でも関与する力はある訳か」

 焚火を前にトゥリオは納得して頷く。

「一族の方々が直接関りを持つ訳ではありません。我々が橋渡し役として接触します」

「貴族の方々となれば、神使の一族との関りを匂わせるだけで、協力を約束してくださる方がほとんどです」

 クララナがアコーガの説明を引き取って続ける。


 協力は金銭等の援助との引き換えでは無いらしい。彼らの自尊心に働きかける形での協力を訴えるだけで成り立っているそうだ。

 利に訴えるよりは、対魔王の正義を押し出した秘密共有意識をくすぐったほうが裏切りの可能性は少ないと説明してくれる。


「表立って口に出来なくても、人類の脅威への対抗勢力に協力しているって意識が自尊心を満足させるよう作用している訳ですねぇ」

 フィノも、人間心理に訴えるような方法に感心している。

「それも或る種の名誉欲だからね。貴族みたいな人種には極めて効果的だと思うよ」

「利に聡い人間でも食指が動いちまうかもな」

「帝国の現状を知るほど、どこまで通用するか疑問符だけど」


 チャムはそう言いつつも、隣のカイの頭や顔を眺めて満足している。

 帝都脱出後に、フィノから話を聞いて見せてもらって以来、彼の頭覆い(ヘッドギア)姿が大のお気に入りである。引き締まった雰囲気が格好良いと言って、昼間は着けていて欲しいと頼み込んだ。

 黒髪と白い頭覆い(ヘッドギア)との対比(コントラスト)も好みだと言って、この時も脇に置いた頭防具を被せ直して笑顔になっていた。


「確かにね。神至会(ジギア・ラナン)が力を増すごとに他の勢力は圧殺されていく可能性が有る。僕はもしかしたらそれを助長したかもしれない」

 その様に苦笑いを返しつつ青年が答えると、笑顔が憂いに塗り替えられてしまう。

「それだけが原因じゃないの。きっと私達(ゼプル)は岐路に立っていると私は思っている」

「岐路……」

 何か思うところがあるのだろう。


 森の民(エルフェン)の二人も、その言葉を噛み締めていた。


   ◇      ◇      ◇


 ゼプルの里は、東方南部の半島部の山中に存在した。

 まさに隠れ里という感じで、深い森の奥にひっそりと暮らしているようだ。しかもその里は、遠目にはまず発見されないであろう。


 大樹の多いその森で、樹木に模した高層建築を作り出していた。

 木造建築とすれば、見るからに構造強度が足りないと思わせる縦に長い集合住宅は、何らかの高度技術が用いられていると思われる。それが魔法技術なのか科学技術なのかは窺い知れない。

 その周辺はセネル鳥の繁殖地(コロニー)になっているようで、まず歓迎してくれたのは彼らだった。


「キッキルルキュキルリ」

 パープルに服従の姿勢を取るセネル鳥の群れ。ひと鳴きすると、青い飾り羽を持つ白い個体が出てくる。

「キュキルキュララ。キュルリキュ」

「キュイ」

 何らかの会話が為されたようだ。


「その個体は『王』だったのですね?」

 アコーガの問い掛けは彼らには理解出来ない。

「『王』? 彼らにも階級のようなものがあるのは知っていますが、特別なものなのでしょうか?」

「はい。この個体のように大きな群れの長たる者や、特に秀でて強い個体がそう呼ばれているようなのです。セネル鳥の慣習を理解している訳ではありませんが、観察と意思疎通の結果として解明されている事実の一つです」

 ゼプルはこの利口な鳥達との付き合いも長いらしい。


「ルルル……」

 鞍から降りたカイに対して、青い飾り羽の王が翼を広げて頭を大地近くまで下げて礼を取る。

「参ったな。そんな気は無いんだけど」

「キュ……」

 パープルが彼の背を押す。

 せっつかれて、青年は王の頭に手を置いて頷く。

「丁寧な挨拶をありがとう」

「キュキュイ!」

 頭をもたげた王の首筋を撫でる。

「友達になってくれる?」

「キュッキュキー!」

 王は青い飾り羽をカイの胸に押し付けるようにした。


「こういう人なのよ」

 チャムがエルフェンの男女に言い聞かせる。

「王が服従で歓迎する意味は解るわよね? それを受け入れる度量も。私の判断は誤っている?」

「いえ。我が不明をお詫び申し上げます」

「姫様の仰せのままに」

 彼らも深い礼を取る。


 どこかに見張り台でもあるのか、彼らが里の入っても警戒の色は無かった。

 皆が青い髪に少し尖った耳をしていて一見してゼプルだと分かる。人々は普通に行き交い、カイ達異邦人の顔を見て「おや?」という様子を見せたり、チャムを見付けて会釈を送ったりしている。


「こんな感じなのよ」

 チャムは薄い笑みで指し示すが、その面には懊悩の色が差している。

「え? えーと……、あまり活気は感じませんけどぉ、皆さん若くて素敵な方ばかりですぅ」

「そうだな。なんつーか、美形ばっかじゃねえか?」

 誰もがかなり整った面立ちをしていると感じる。

「違う。これはおかしい。普通の状態じゃない」

「でしょう? ねえ、カイ。私が幾つに見える?」

 麗人は突飛な質問を投げ掛けてきた。


「あなたと出会った時、二百十二歳だったの。あれから六()足らず。私、今、二百十七歳よ」

里の話です。いよいよ神使の里に立ち入る展開でした。ここから今まで置き続けてきたチャムの伏線を回収して回ります。

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