表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔闘拳士  作者: 八波草三郎
神使の一族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

708/892

火の恵み

 道行きに目に映るのは風光明媚な山景。彼らと同じ旅人も足を留めてひと息吐きつつ景色に酔う姿も見られた。


 観光地だけに街道もしっかりと整備されており、移動はし易く治安もそれほど悪くない。並ぶ旅宿も綺麗で清潔に保たれており、大概の者が満足するだろうと思われる。


 ただ、食事に関しては飛び抜けて良い点が見られず、どこでも食べられそうなものしか出てこない。不満と言えばそこが不満な点と言えよう。

 それも致し方ない事。この辺りでの農耕はかなりの困難を伴い、名産品と言える産物がほとんど無い。メニューに特色を出すのは難しいのだろう。


 なにしろ、景色の中にはもくもくと煙を吐く火の山が聳え立っていた。


   ◇      ◇      ◇


 ここはラルカスタン公国の西。帝国領内から南に抜け、沿岸部を西進して辿り着いた場所である。


 東方の中では異色な国と言えるだろう。公王を含めた公家こうけの血筋を始めとして、獣人を除いたほとんどの国民が北洋人(スクルタン)なのである。

 ラムレキアの北のロカニスタン島のように全てが北洋人(スクルタン)という訳ではないが、その街並みの風景は異彩を放っていた。


 別の大陸から渡ってきた北洋人(スクルタン)がロカニスタン島に定住すると同時に、東方にも上陸した一部の者が建てた国だという説もある。それなら、なぜ北と南に大きく離れているのかと問われれば答えられる人類学者は居ない。

 神使の一族の存在と同様、東方の謎の一つに数えられている。


 反帝国を標榜するラルカスタン公国は、経済・外交上の圧力を受け続けているものの、屈する事無く独立を保っている。それが可能なのは明確な武力侵攻を受けていない所為もあるだろう。

 この国に対して帝国皇帝と言えど軽々に侵攻の命は出せない。なぜなら国教のジギリスタ教が認定した現勇者ケントが、公女の一人ララミードを仲間としたからである。

 帝国にしても、現勇者を輩出したというのは外交上の大きな軸の一つとなる。勇者ケント(ほんにん)がそう意識せずとも、その事実は彼の意向となってしまう。帝国と勇者の繋がりを宣伝材料とするならば、彼の仲間、しかも為政者の血族である彼女の祖国を了然と攻めるのはあまりに聞こえが悪い。

 悩ましいところではあろうが、攻めあぐねているのが事実と思われた。


 離れ小島のような状況で、帝国の圧力に耐え続けるのは難渋だと思えるが、街の人々は至って陽気であった。

 北洋人(スクルタン)の特色を示す、深い色の髪や目、肌や、全体に部品が大きめの容姿、身長の割に長い手足などが相まって異国情緒を感じさせる。そんな中で溢れる笑顔や屈託の無い言葉に触れていると、心が和んでいくように感じられる。

 そこに彼らが関わるべき問題はあるようには思えず、ゆったりとした旅路を歩んできた。


 それでも帝都での一件は、カイ達一行の身体や心に疲れを覚えさせている。養生の必要性は皆が感じており、その結果公国内の観光地を目指すとの意見の一致を見たのである。


 それで訪れたのがこの公国西部。ここには観光の目玉が有った。


   ◇      ◇      ◇


「ふぅ……」

 あまりの心地良さに艶っぽい吐息が漏れる。


「蕩けちゃいそうですぅー……」

 そう言いながらも、既に犬系獣人の娘は弛緩し切っている。


 そう。ここは火山の近くの観光地。その売りは間違いなく温泉である。

 それを堪能しない手はない。


 なぜか少し青く感じられる湯を割って差し上げられた腕は、輝きを増したようにツルツルとして二人の女性を心から満足させる。手で触れると、指に貼り付くほど弾力と張りが増しているのではないかと思える。

 入浴してすぐはそんな感想を交わしていた二人も、今は湯の快楽が身体の奥まで染み込んだように黙って目を瞑り微笑みを浮かべていた。



 腰まである長い髪を丸めて布に包んで結んだチャムは浴槽の縁にそれを置き、白い裸身を伸ばしていた。

 目に掛かるくらいの前髪は形の良い額に貼り付き、濡れて深みを増した青が白い肌を際立たせる。太くも細くもない程よい青い眉が更にそれを彩る。

 見事に整った流線形を描く目は僅かに吊り気味で怜悧な印象を与えるが、それは魅力の一つとして数えられる。薄く開けた目から垣間見える瞳は内から光を放つような鮮やかな緑で、白皙と相まって神秘性を演出していた。

 寸分の狂いもなく通った鼻筋は、これ以上ないくらいに計算され尽くした造形の鼻を形作り、美貌の一翼を担っている。ほんの少し肉厚の唇は艶々と輝き、男の目を魅了して止まない桜色。

 今はほのかに上気した頬を縁取る顎は細く、芸術的とも言える紡錘形を描いており、許可なくそれに触れるのは冒涜であるかのように感じさせる。

 輪郭を彩る青い髪を割って伸びた耳はツンと尖りを見せ、独特の高貴な印象を与える。その向こうに見えるうなじの後れ毛が、男の溜息を誘うような妖艶さを醸し出していた。


 女性的な弧を描いた首から続く肩や二の腕から手に掛けては剣士らしく筋張ったところも見える。皮下脂肪で丸みは失っていないが、弛みなどは欠片も無い。

 同様に鍛えられた胸筋を土台とした膨らみは、一分の隙もない見事な半球形を描き、どんな力も跳ね返すのではないかと思われるくらいの張りを示している。その造形は、発見される芸術遺物もかくやというほどの美麗な曲線を誇っていた。

 形の良い臍の浮かぶ腹筋は、十分な運動量で締まり、まろみを透かして微かに筋を見せている。その下のお尻は理想的な張り出しを見せながらも女性特有の丸みを表す。

 不満と言えば、そこに触れるのを許す唯一の人物に、指が沈むような柔らかさでなく跳ね返すような印象を与えていないかと懸念しているくらいのものだ。


 比べて、横の獣人娘はややぽっちゃりとした感じはするが、さぞ抱き心地は良さそうな身体を持っている。

 太股からお尻に掛けては、瑞々しく張り詰めたような曲線美を示し、しっかりとしたくびれに続く。そこから先に人々が驚嘆を覚える二つの果実が実っていた。

 普段は重量感を感じさせ緩やかに揺れる連山は、今は湯の中でたゆたい、湯を割って出て二つの列島を形作っている。もし、この場に男性が同席していれば、絶対に目の離せない光景だろうと断言出来る。


 それほどの肉感的な身体の持ち主、ソウゲンブチイヌの獣人フィノは、実にあどけない容貌をしている。

 首から続く(おとがい)は、顎のラインが獣人らしくがっしりとしており、逆に顔を丸く感じさせる。その丸さの中心には淡いピンク色の逆三角形の鼻が据わり、そこを中心にいささか突き出している。

 一見して獣のような犬口なのだが、小作りなそれは彼女の可憐さを後押ししている。ひげぶくろから伸びる数本の太めの髭や口元は彼女の感情を豊かに表し、その様が可愛らしさを感じさせるのだ。

 太めの眉の下にはくるくると良く動く碧眼が填まった大きな垂れ目。そういった部品が全体に下寄りになっているのと、肩口で切り揃えられた栗色の緩く波打つ癖っ毛と合わせると、非常に幼い印象を与えてしまうだろう。


 彼女自身は、もう少女を卒業して妙齢と言える年頃なのだが、甘ったるい口調や白地に灰色や茶色のブチのある毛皮に覆われた垂れ耳、喜怒哀楽を如実に表す毛足の長い尻尾の動きが、まるで少女であるかのように見せてしまっている。

 本人も結構気にしていると口にするが、行動がそれを裏切っていると言える。苦しい生い立ちから解放された経験がそうさせているのかもしれない。


 チャムはそんな風に考えていた。

女性陣の容姿の話です。エピソード「神使の一族」開幕の一話は、女性陣の容姿に触れる展開でした。前回の描写からずいぶん話数が嵩んでいるので、メインキャラクターの外見描写からの流れにしたいと思います。定期的に入れる外見描写も不可欠だと思うのですが、ただいざ書くとなると本当に語彙力に挑戦を強いられているような感覚を覚えます。同じ段落に同様の表現を使いたくないので、どうしても苦戦してしまいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ