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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
策動の都

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合流

 様々な報告が錯綜した一()が終わり夜は明けたのだが、しかし混乱は終わりを見せてくれなかった。


 状況が落ち着いたと見て、報告させるべく伺候を命じていた第二皇子マークナードがいつまで経っても姿を現さない。業を煮やした皇帝レンデベルは、近衛騎士を迎えに送る。目前まで迫った敵に怖れをなし、邸宅から出てきたがらないのかと思ったからだ。

 ところがそこには惨状が繰り広げられていた。


 マークナードは一度そう命じると、最奥の私室に誰も近寄せない。それを破ると厳罰が下り、最悪命が無かったので家人はそれを厳に守っていた。

 それが仇になって発見が遅れた。


 奥に向かう廊下には点々と死体が転がっている。それは彼の配下の諜報部の者だ。さらに進み、近衛騎士は声掛けをしてから私室に踏み込む。そこには大きな血痕だけが残されていた。

 続く血の痕を追って近衛騎士は裏に通じる隠し扉をくぐる。そして彼らは目的の人物を発見した。


 罪人のように土中に埋められた第二皇子の遺体を。



 それを聞いた皇帝は憤怒の表情で、玉座の肘掛けに王笏を叩き付けた。


「許さんぞー! 魔闘拳士ー!」

 私室の壁に残された四本の爪痕が誰の仕業なのかを物語っていた。


 ロードナック帝国が公式に魔闘拳士を敵と見做した瞬間であった。


   ◇      ◇      ◇


 平パンと燻製肉をあぶり、湯通しした野草とお茶という質素な朝食。捜索隊の姿を見る事はなくなったが、一応は警戒を残したままの暮らしだった。

 木漏れ日の降る良い天気でもなかなか心は晴れてくれない。普段なら香りを堪能する筈の燻製肉も味気なく感じる。


(私、こんなに弱い女だったかしら?)

 寂しさがそうさせているのだと自覚出来ているだけに、自分に戸惑う。


 長い長い旅路に数多くの出会いと別れを重ねてきて、そんな感覚など麻痺していると思っていたのに、心はそうと言ってくれない。

 確かに体質(・・)の所為で長くても二、三()という関係が多かったし、それぞれに別れを惜しみもしたが、慣れたつもりでも強がりもあったのだろう。そして、強がらなくていい相手に出会ってしまった。


(恋は女を強くするって言うけど、私には適用されなかったみたい)

 武という意味では数段強くなったと思うが、心は寄り掛かる事に慣れてしまったようだ。

(情けないって思わなきゃいけないんだけど、そんな自分が愛しいなんて馬鹿げてる)

 初めての経験に揺れ動くまま、チャムは長く青い髪で口元を隠して呟く。


「ばか……」


「ちゅ?」

 燻製肉を齧っていた風鼬ウインドフェレットが顔を上げる。

「ち、違うのよ! リドや他の誰かに言ったんじゃないの!」

「ちーるー? ちゅいっち!」

「何言ってんだよ?」

 慌てて弁解するチャムに大男は怪訝な顔を見せる。リドに至ってはチャムのほうを向いていない。

「ちー!」

「キュルキュー!」

 見張りに立っていたブルーが駆け込んでくると、すぐに踵を返す。リドは燻製肉を放り出すとそれに続いて駆け出した。


 皆が森の端まで出てみると、彼方に三人と一羽の白いセネル鳥(せねるちょう)が歩いてくるのが見えた。


「帰ってきやがった!」

 リドがパープルに飛び乗り、四羽ともが駆けていく。

「待たせやがって、この野郎」

 トゥリオは腰に手を当てて、やれやれというように後ろ頭を掻く。その横でチャムは、実に複雑な表情をしていた。


「ただいま戻りましたですぅ」

 セネル鳥に囲まれてやってきたフィノは、最後の半ルステン(6m)ほどを駆け寄る。

「災難だったな。疲れてねえか?」

「んー、ちょっとだけぇ」

「大変だったでしょう?」

 経緯を考えれば緊張感の連続だったように思う。

「それがぁ……、何だか楽しかったんですぅ。変装して町を歩いてぇ、暗殺者みたいな人をみんなでやっつけてぇ、カイさんに抱き上げられて城壁から街にポーンって跳んだらすごく綺麗でうっとりして楽しくなっちゃったんですぅ」

「……そうなの?」

 言葉を重ねるほどにチャムの機嫌が悪くなっていく。


(ずいぶん楽しんだみたいじゃない。私は街壁の外でやきもきしていたっていうのに!)

 知らず白皙の頬が膨らんでいった。


「ただいま」

 やっと定位置に収まってご満悦のリドを撫でながらカイが近付いてくる。

「……余裕みたいね? 何だか心配して損しちゃった」

「僕も心配で心配でしようがなかったよ。君と離ればなれになるなんて考えてもみなかった」

「嘘つき。その気になればすぐ出てこれたのに、放っておいたのは……」


 顔を背ける青髪の美貌の腰を引き寄せ、カイは言い募ろうとする唇に軽く自分の唇を重ねる。

 人目のあるところでそんな事するとは思っていなかったチャムは、仰け反って目を瞬かせる。だが、腰に掛かった手は放されず、逃げ出せはしない。揺れる緑眼を覗き込む黒い瞳は逃してくれない。


「僕がどれだけ君に会いたかったと思っているの?」

 引き寄せる手には更に力が込められる。

「君と引き離してくれた男が恨めしくて、完膚なきまでに叩きのめさなくちゃ気が済まなかったくらいだよ? この気持ち、解ってくれないかな? じゃないと悲しくて辛くて堪らないよ」

「解ったわ。 解ったから放して。……恥ずかしいわ」

「本当?」

 何か琴線に触れてしまったらしい。許してくれない。

「本当よ。寂しかったから、我儘を言ってみたかっただけ」

「うん、僕も寂しかった」


「女殺しにゃ」

 灰色猫(ファルマ)が悪戯げに笑いながら見ている。

 フィノも「はわっ!」と声を上げると顔に手を当てて背けるが、横の隙間からしっかりと観察。

「おいおい、ここはまだ帝国内なんだぜ? そういうのは後にしねえか?」

「うるさい、馬鹿! 見るな!」


 取り出された調味料の瓶がトゥリオの顔面を直撃した。


   ◇      ◇      ◇


 眠気を訴えたカイを森に連れて入って休ませる。


 麗人の膝枕を堪能した青年が夕方になって広域サーチを使い、再び大規模な捜索の手が伸びつつあるのを知る。陽が有るうちに出来るだけセネル鳥を走らせて、帝都ラドゥリウスから距離を取ってから夜営にした。


「賑やかな猫ね」

 翌朝、離脱を口にしたファルマが十二分な報酬とモノリコートの箱を手に、ほくほく顔で再会を約しつつ去っていった。

「ずいぶんと助けてもらったよ。彼女には借りばかり作ってる」

「ファルマはそんなの気にしませんよぅ。楽しければそれで良いんだと思いますぅ」

「興味が惹かれる事を探し回ってんだな? あんな人生も面白そうだ」

 手を振りながら見送る。

「そう? 私達も似たようなものじゃない?」

「違いねえ」


 半陽(はんにち)も速駆けをすると明らかに捜索範囲から大きく距離が取れ、少しはゆったりとした足並みになる。


「まだ凝りませんか?」

 カイが街道沿いの木立に向けて声を掛けると、藍色の鉢金の間諜が姿を見せた。

「害意はございません。今はただの遣いです。これを」

 トゥリオから少し離れた位置で手紙を取り出すと「どうぞ」と下に置いて下がる。

「これにて」

 一礼して走り去った。


「何、あれ? 全然気配を感じなかったわよ?」

 チャムは眉間に皺を寄せて言う。

夜の会(ダブマ・ラナン)だよ。ディムザに付いている」

「何を寄越したの? 大丈夫なわけ?」

 手紙に目を通す大男に注意を促す。

「ああ、詫び状だ。今回の件を謝ってきた。あと、カイに礼を伝えてくれとさ」


 第二皇子の遺体を埋めた場所に痕跡を残しておいてくれた事に対する感謝だ。そのお陰で、普通に弔ってやれると言ってきた。


「わざとだろってな?」

「ただの勘繰りだよ」

 言い捨てた黒髪の青年から目を離す。


 トゥリオは空を見上げて「だとよ」と、今は離れつつある奇縁の友人に呼び掛けた。

合流の話です。全てを終えたカイとフィノ、ファルマが帝都から離脱、合流する展開でした。これにてエピソード「策動の都」は終了です。端折り方を迷いましたが、丁度良い読後感を得られる最終話だったと思います。

終了に付き、ちょっとネタバレを。

今回のエピソードは構成上、元からピタッとここに収まっていた話ではありません。準備していた三つの要素を組み合わせて再構成しました。それは、(1)神至会(ジギア・ラナン)についてカイ達が詳しく知る話 (2)ファルマが再登場する話 (3)カイとフィノ、チャムとトゥリオに分断される話 の三つです。三つとも、これはやっておかなきゃいけない、或いはやってみたい話を一遍にやってしまおうと考えて練りました。何せそろそろメインクライマックスに入っていくので遊びを入れる隙間が無くなっていくからです。これで満足したので次のエピソードに入っていけます。

次はエピソード「神使の一族」。導入からずっと引っ張ってきたチャムの謎をすべて明らかにする内容です。

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