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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
策動の都

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神至会

 予想通りファルマの口から出て来た夜の会(ダブマ・ラナン)の名前にカイは納得する。だが、まだその先は闇の中である。


「それは帝国の諜報組織の一部と思っていい?」

 軽々には動かせない、特殊な組織のようなものなのかと思い至る。

「違うにゃ」

「え? 帝国には関係無いのですかぁ!?」

 つい声が大きくなってしまったと気付いて、フィノは音声遮断魔法を使っておいて心底良かったと思った。

「関係無くはないにゃ。関係有り有りにゃ。でも、皇帝の指揮下じゃないんにゃよ」

「詳しく聞いてもいい?」

「想像通りだったにゃ。全部教えるから感謝するにゃよ?」

 カイはオッドアイの前に小箱をトンと置いた。


 灰色の毛皮に包まれた、細くしなやかな尻尾がピンと立ち、先だけがくねくねと踊る。相当、上機嫌だと思って良いだろう。


「あれは教会の組織なのにゃ」

 ファルマはそう切り出した。

「正確に言うとジギリスタ教会そのものの諜報機関じゃないにゃ。教会内の一派閥の下部組織になるんにゃー」

「一派閥?」


 彼は権力構造上の派閥が頭に浮かぶ。他派閥との情報合戦や抗争に利用していた人員が組織化されたものだろうか?

 その疑問を猫系獣人にぶつけると首を振られた。


「そんな面倒なものじゃないにゃ。信仰理念上の派閥にゃ」

 意外な答えが帰ってきた。

「信仰の理念となると、他の神を認めない排他的なものとか、聖典のようなものに忠実な原理主義的なものとか?」

 カイはこの世界で教義を示す巻物みたいなものは見ても、聖典のような書物は見た事が無かった。一般の目の触れないところには存在するのかもしれないが、本当に必要かと思えば疑問が浮かぶ。

「神はもっと近いものだと思っているんだけど? 教えを詳細に書き記さなくとも、神託という形で意思が示されるじゃないか?」


 この世界で神とは信じ祈るものであって、人の在り方を問うたり日常の行動指針を示すものではない。それを説くのは教会であって、信徒は善悪を示す道徳教師のような接し方をする。

 司教が説く法と、神より託される言葉を比べれば、どちらに重きが置かれるかは自明の理である。ゆえに教義はあっても、神の教えを示す聖典は無いものだと思っていた。


「理念と言っても教義とは離れているにゃ。理想を求める或る種の思想だにゃ」

 青年は顔を顰める。それは信仰の変節であって、或る種の暴走にしか思えない。

「どんな思想なんですかぁ?」

「自らを高めようという思想だにゃ。それだけ聞くと聞こえはいいけど、要するに背伸びにゃ」


 魔法神ジギアを信奉するジギリスタ教は、魔法の扱いに長ける事を理想とする。それは人々の生活を助け、繁栄へと導く為に魔法が有用だとする教義の下に敷かれた思想だが、それを曲解する形で推し進めた一派がいた。

 魔法を極め、より高い効果を表す魔法を求め、それを突き詰めた時に人は神ジギアと同じ階層に至れると考えた者達の集団である。


神至会(ジギア・ラナン)にゃ」

 宗教派閥の名が明かされる。

「魔法を極めて神に至る……、ね。これは暴論に聞こえるけど、至って真面目なんだろうなぁ」

「そうですかぁ? フィノには正気とは思えませんけどぉ」

 その論理で行くと、もしかしたら一番神に近い存在かもしれない犬系獣人は首を捻る。

「視野狭窄を起こしているのかもしれないね。あまりに理想を追い過ぎて、妙なところに迷い込んだような感じ?」

「でもでもぉ、魔法は神様の力の一端にしか過ぎませんよぉ。本当は……」

 そこでフィノは息を飲んだ。灰色猫がにんまりと笑っている。

「さすが『神(ほふ)る者』にゃー」

「ひゃ、ひゃん! 何でもありませんよぅ!」

「誤魔化しても無駄にゃー」

 ファルマはフィノの横にぴったりと身を寄せると、逸らしている顔を覗き込む。

「にゃふふー」

「彼女の言う通り、無駄だよ。僕達が神そのものと対面したのは解っている情報からでも十分推測出来る。ただ、そこで何を話したかまでは全部は教えられないね」

「ケチにゃ」


 青年は、藍色の髪をぽんぽんとすると「続きを教えてくれる?」と柔らかい声で促す。肩を竦めた灰色猫は「仕方ないにゃ」と応じた。


「自分達がそう信じているとしても、そんな大それたこと表立っては言えないにゃ。だから、神至会(ジギア・ラナン)は秘密組織になったのにゃ」

 時折りモノリコートをもぐもぐしながら彼女は続ける。

「最初は本当に地下活動をしていたらしいにゃ。でも、彼らは理想を実現しようと努力する過程で、色んな高威力の魔法を生み出していったにゃー」

「それに皇帝が目を付けた。そんなところかな?」

「正解にゃ。ロードナック帝国を強国に押し上げる為に強力な魔法を欲しがったのにゃ。ジギリスタ教を国教にしたのとは別に帝室は神至会(ジギア・ラナン)との癒着を深めていったにゃ」


 覇道を歩まんとする帝国がそんな選択肢を選ぶのは容易に想像出来る。

 そして帝室が魔法を欲するほどに、神至会(ジギア・ラナン)は権力の中枢へ食い込んでいったのだろう。国策を左右するほどに。


「でも、暗黒時代は一時完全に沈黙していたのにゃ。構成員の多くを失ったのかもしれにゃいし、避難生活では地下活動も難しかったんじゃないかにゃ?」

 お茶で唇を湿しつつ、ファルマの言に頷く。

「その頃は教会内でも少数流派だったのかもね? 関係が露見すれば押し潰されるくらいに」

「真相は分からないにゃ。でも、暗黒時代の終わりにはまた復権してきたにゃ。乱れに乱れていた東方を纏め上げるのに武力と魔法技術は大きく貢献したのにゃ」


 魔法は破壊力だけではない。創造にも多大な効果を発揮する力だ。復興への貢献度も比類なきものだったのだろう。

 そして、その貢献度がまた権力中枢への影響力を押し上げていく。切っても切れない存在になっていったのは想像に難くない。


「それで、帝国の拡大政策の裏側にも神至会(ジギア・ラナン)の影有りって訳だね?」

 カイは皇城の方を親指で差しつつ言う。


 ラムレキアの王妃アヴィオニスとの会話の中でも言及されたが、帝室の強引な政策には首を捻らざるを得ない。何らかの別の思惑が関わっているという結論だった。


「もしかして魔法技術の発掘が目的ですかぁ? 神へ至る為に魔法技術を独占しようと各地を占領しているんですぅ?」

 古代魔法文明の遺産の存在を示唆するフィノ。

「たぶんそうにゃ。大きな力を得るのに、その切っ掛けを拾い集めているにゃ」

「どうやら帝国の乱暴な政策の裏にはそんな構図があるみたいだね?」

「目的と方法論は間違っていなくてもぉ、やり方が無……、っ!」

 批判的な口調だった彼女が固まる。

「まさか……」

「どうしたのかな?」

「その……」

 ずいぶんと口が重い。次のひと言がなかなか出てこない。

「あの……、今回の件ってもしかしてカイさんの『神(ほふ)る者』の力を得ようとしているんじゃ……」

「気付いちゃったかぁ。おそらくそうだと思うよ」

 当事者の筈だが口調は軽い。

「きっと僕とフィノ達を分断して、人質にしようと画策したんだろうね? その上で僕に言う事を聞かせようとした」


 フィノは恐る恐るカイを見ている。彼が怒り出すに足る状況だと思っているんだろう。自分の所為で仲間に手出しされるのは彼が一番嫌うところだ。

 嫌だとは思わないまでも、多少は重荷に感じているのかもしれない。彼女の様子を見て反省すべきだとカイは思った。


「どうするんですかぁ?」

 顎を擦って物思わしげにしていると見せる。

「どうしてやろうかなぁ?」


 青年は意地の悪い笑みを浮かべた。

神至会(ジギア・ラナン)の話です。夜の会(ダブマ・ラナン)の正体から神至会(ジギア・ラナン)に至る展開でした。今回はおさらいと詳細みたいな感じの内容です。視点を変えていますが、以前明かしたのと同じ内容なのです。これからの展開に重要なのでしっかりと認識して欲しいと思って紙幅を費やしました。

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