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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
緑の神

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神なる存在

 クオフたち獣人達は、緑色のドラゴンの前にまで進み出ると跪く。初見のスアリテは慄いている様子を見せていたが、皆に追随するように慌てて駆け寄ると同様に膝を突いた。


「神よ、此度はお騒がせして誠に申し訳ございませんでした。我々にも想定外の事態でありますれば、ご報告が遅れました事お許し願いたく存じます」

 ドラゴンの頭部までは1ルステン半(18m)。相手の巨大さを考えれば無きに等しき距離である。

「お詫びと申しては何なのですが、こちらをお納めくださり、今後も御守護をお願いいたしたく平にお願いいたします」

「ふむ、気遣いなど要らんかったのにのう」

 代表のガトバ郷の長議員クレスパが、木の盆に山にした魔石を差し出すと声が響く。


 ドラゴンの口は全く動いていない。魔法で空気を震わせて相手の耳に届ける発声法だ。

 獣人達は当然のように受け入れ、スアリテも最初こそびくりと震えたものの何とか耐えている。


「寄越すというのなら受け取っておこう、ガトバの。(ごう)には被害は出なかったのじゃな?」

 ドラゴンの心遣いに歓喜の表情を見せたシマタヌキ連の獣人クレスパは、胸に手を当てその言葉を刻み付けるかのように瞑目する。

「お心遣い感謝いたします、神よ。山は多少荒れましたが、幸いなことに集落には全く被害はありませんでした」

「ただ、山守には犠牲が出た事をご報告申し上げます」

「致し方あるまいの。なに、あれらは強い。すぐに力を取り戻すじゃろうて」

 クオフの報告に惜しむような瞬きを一つすると、楽観的な意見を述べた。同じく山々を守護する存在として思いはあると見える。

「それまでは双方、力を合わせて山が還る時を待つがよいのじゃ」

「仰せのままに」

 彼らは再び頭を垂れた。


「つきましては、お申し付けいただきました通り、の者らをお連れいたしました」

 遠慮をするように無言を貫いていたカイ達を指し示す。

 彼らの行動を見定めるように、クオフが引き締まった顔をしていた。

「ご挨拶を」

「では」

 四人が不躾に進み出る様子にクレスパは渋い顔をするが、口を控えた。

「初めまして、『空を統べるもの』緑の王よ。僕はカイ・ルドウと申します」

 譲るように半歩下がったチャム達に視線を送ると、向き直ったカイが口火を切る。


 クオフが驚きの色に染まっている。

 それもそうだろう。彼ら獣人がひた隠しにしていた存在(かみ)に対して、さも知っている相手であるかのような表現を用いたのだ。言葉の内容までは理解出来ないだろうが、その意味するところは察せられたはずだ。


「うむ、『ことわりの外側に佇む者』よ、よくぞ来た。歓迎しよう」

 声の響きには様々なものが混じっていると感じられるが、負の感情はいささかも感じられない。むしろ面白がるような様子が読み取れた。

「こちらへは長くいらっしゃるのですか? ずっと獣人郷を守護しておられる?」

「人の生からすれば長いのう。老いぼれの身にはここは静かで良いのじゃ。これらは儂を追い立てたりもせずに、崇めてくれるからの」

「追い立てるなどと!」

 クレスパやトクマニは慌てふためくが、人族の世ではドラゴンがどう考えられているかを思い直して黙る。

「確かにここなら騒がれたり監視に目に煩わされたりはしないでしょうね。時々、変異魔獣を捕食に出るくらいはお安い御用でしょう」

「皮肉るのう。出向かせた事は詫びておこうかの。ここしばらくは人化するのも面倒で仕方ないのじゃ」

「いえ、謝罪など不要ですよ。押し掛けたのは単に僕の興味からですので」

 誤解させたのを悔いるように頭を掻くカイ。

「最近色々とありまして、出来得るならば竜族の方とお話したいと思っていたので無理を言ってしまいました。お時間をいただけますでしょうか?」

「構わぬぞ。お前さんの事は『金』より聞いておる。その内一度くらいは顔を見ておこうかと思っておったのじゃからの。じゃが、これらには聞かせられまい?」

「…いささか問題有りかと」

 少し考えて青年は答えた。


 緑竜から一時退出を申し渡された獣人達は戸惑いを隠せなかった。

 彼らが自分に危害を加える事はないと言われても容易には信じられない様子だったが、クオフに促されて渋々といった感じで、坑道の途中まで引き返す事になる。


「あなたはドラゴンと交流のある方だったんですね?」

 皆を半ば追い立てるようにしながら、狐獣人は問い掛けてくる。

「金竜殿とご縁が有りまして。少々込み入った話をするだけですので、心配なさらずお待ちください」

「神が申されるのですから」

 内心は穏やかではないだろうが、それは声には表れていなかった。


 それも仕方のない事だろう。

 なにせ冒険者といえば、ドラゴンを狩る事を名誉とし、それを階級クラスとしているような職業だ。それが現実に可能かどうかはともかく、懸念材料と考えて当然だと言える。だが、ここは堪えてもらうしかない。


 安心させるように笑顔で見送ったが、気休めにもならないとカイは苦笑した。


   ◇      ◇      ◇


「では改めまして…」

 カイは仲間を紹介し、同席の承諾を得る。緑竜からは好々爺とした雰囲気が漂ってきている。

「宜しければお名前を伺っても?」

「儂か? シトゥランプラナドガイゼストじゃ。好きに呼ぶが良いぞ?」

 また覚えにくい名前が、と言わんばかりに渋い顔をするトゥリオの後ろ頭をチャムがはたき、それをフィノが笑いを堪えて見ている。

「では、シトゥラン翁、僕の事はどうかカイとお呼びください」

「よかろう、カイ。界渡りであるお前さんであれば面白い話を聞かせてくれるのじゃろうな?」

「そうですね。今回の話はその『界渡り』の事になりますから」

 てっきりドラゴンがなぜコウトギに関与しているのか問い質すつもりだと思っていたチャムは、振り返って訝しげに見る。

「僕の事を界渡りと呼びますが、あなた方も同様ですよね? 逆に言えば、同じ界渡りだからこそ僕をそう呼ぶのです」

「ほほう。無論、根拠があるんじゃろうのう?」

「そうですね。そう考えるようになった端緒は二つ」


 カイはまず緑竜の翼を指す。

 その翼肢の存在が、進化系統からあまりに外れ過ぎていると論ずる。同じ空を生活の場とする鳥は前肢を翼と化している。飛行能力は失っているが、鳥類であるセネル鳥(せねるちょう)達を指しながらそう説明した。

 ところが竜族には前肢が存在する。翼肢とは別に、である。つまり彼らは三対目のあしを持つ生物なのだ。


「竜種が変異体から種を確立したのかとも考えました。ですが、それなら原種が存在せねばなりません。大陸を西から東へと旅しましたが、その原種を発見出来なかったんです」

 滔々と語る黒髪の青年の言葉を聞いていたドラゴンは、可能性を差し挟む。

「陸地はここだけとは限らんぞ? 他の大陸からの移住者とは考えなんだか? 我らは空を飛ぶ」

「考えました。でもあまりに可能性が低い」


 六肢を持つ生態系、それも一対を飛行魔法器官として発達させるには長大な時間を必要とするとともに、その土台となる種の存続と多様性が必要だと主張する。それほど繁栄した種であれば、他の大陸で発生したとしても飛行能力を持つがこそ、この大陸にも生息域を広げていないと辻褄が合わない。


「突然変異として新たなあしを持つ個体が生まれないとは限りません。それが種として確立する可能性も。ですが、ただその一種がドラゴンにまで進化する可能性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ません」

 挙げられた理論は整然としていて否定材料に欠ける。

「なるほどのぅ」


「従って、僕はあなた方を少なくともこの世界の生物ではないと推測しました」

ドラゴンの話です。緑竜との会談が始まる展開でした。まずはカイのほうから切り出していきます。この辺りは、興味本位というのがピッタリですね。

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