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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
緑の神

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運命の人

 土鍋作りの指導をした()の夕刻にはクオフの遣いの者がやって来て、購買班への同行の許可と案内役として副長の同伴も告げてきた。


「掛かったわね?」

 遣いの狐獣人が帰った後、カイの腕を取り、皆に手招きして男子部屋に入って開口一番チャムが悪戯げにいう。

「そりゃ、引っ掛かるだろうぜ。どうせ思わせぶりな言い方したんだろうからな」

「別に。ただ一緒に行かせてくださいって言っただけだよ?」

「恩を売っておいて、その場で頼み事をすりゃあ、こっちの思惑を読んでくるに決まってんだろうが」

 いやらしい遣り口に思えてトゥリオは口を尖らせる。

「仕方ないじゃない。聞いたって素直に答えてくれないなら、手管だって使うわよ」


 これは最初から狙っていた流れだった。

 購買班への同行は、特に小細工しなくても許可は下りると思っていた。ただ、それでは足りないのだ。

 長議会の設置されているラトギ・クスまで一緒に行って、そこで放り出されるか異邦人の客として遇されるだけで終わる。長議会に踏み込んだりは出来ない。

 それは購買班の誰に働きかけても同じ事だ。彼らには長議会に通じるような伝手は期待出来ないだろう。

 だが、クオフは違う。彼はネーゼド郷の副長である。彼一人を翻意させるだけで長議会への道は拓ける。長に問題が起きれば臨時に郷の首長となる副長であれば、地位や権限は長議員と同等であると考えられる。その位に在る人物の要請を断るのは無理だろう。

 あとはクオフを翻意させる材料を見つければいいだけだ。今は情報が足らないが、道すがらや街に着けば手に入ると思っている。


 まずクオフが同伴するように仕向けなくてはならない。

 その為に彼を前にしている時に話を向ける。本来なら直接長に同行の許しを求めなければならないところを、探りを入れるような素振りを見せる。

 そうすれば、責任感の強い彼は自分が考えるべき案件だと思うだろう。彼らを自由にさせて無茶をされたり、購買班に無理を言ったりさせないように自分で対応しようと考える。

 結果として、同伴を決意するという算段だ。


「そんなに強引な話じゃないですよぅ?」

 フィノも、目的があるならこのくらいの駆け引きは普通だと思っているらしい。

「そうよ。心理戦としては単純なほうでしょう? こっちは場を作って仕掛けただけ。深読みして先回りしようとしたのはあっちのほう」

「余計にエグ…、いや何でもねえ」

 チャムのひと睨みで続きを濁す。このところ鍛錬のしごきが激しくて、身体が反応してしまう。

「心配しなくても、ここまでだよ。門戸だけ開いたら誠実に接するようにするからさ」


 何の理由があって何を隠蔽しようとしているのかはっきりとは分からないが、明らかにしたところで悪意も含意もない。それに問題が無いようであれば手を出す気はないのだ。


(それに、出向いただけで、向こうから動いてくれそうな気もするし、ね)


   ◇      ◇      ◇


 しかして、暴風はいつも意外なところからやってくる。


「トゥリオ-! やっぱり運命の人だったのよー! ほらね!」

 やってきて、赤毛の大男に抱き付いたのは違えようもなくフスチナである。

「げっ! 何だよ! 何だってんだ!」

「何だって決まっているじゃない! ずっと一緒だって言ってるの!」

「いや、ずっとは勘弁しろよ」

 引き剥がそうとするが、狐耳娘はがっしりと抱き付いて離れない。

「やっぱりか! 裏切ったな、トゥリオ!」

「お前! 何つうタイミングの悪さで!」

 指を突き付けて非難してくるスアリテに、トゥリオは悲鳴を上げる。


 彼にしても本気という訳でなく、半笑いである。

 集落の通りを駆け抜けるフスチナを見掛け、その方向に何かを察したスアリテが追ってきただけなのだ。


 朝になって、今度の購買班に冒険者達が同行する旨の噂話が郷内を走った。事実であるそれを聞いて歓喜したのは狐耳娘である。

 多少の危険が伴う購買班は志願制である。フスチナは毎度毎度志願していたが、志願者が少なくない状況では不公平を無くすために毎回選出する訳にはいかない。それでも数回に一回は購買班に参加していた彼女だが、今回は偶然元から選出されていたのである。


「ほら、運命でしょ!?」

 チャムに襟首を抓まれて剥がされたフスチナはそんな事を言ってくる。

「お前らの神様、厄介だな! 何て面倒臭い運命を押し付けて来やがるんだよ!」

「こら、そこ! 変な責任転嫁しない! 単なる偶然でしょ?」

「そうだな。って言うか、フスチナ、君は何で今回の購買班に決まっているのを話さなかったんだ? 聞いていれば、護衛に付く話を蹴らなかったのに!」

 責められるが、彼女は意に介さない。

「スアリテは関係ないもーん」

「この我儘娘はー! こうなったらスアリテも購買班の護衛に付くからなー! 邪魔してやるー!」

「えー、酷ーい! 何でそんな事すんの!」

 露骨に頬を膨らませるフスチナ。

「決まってんだろ! お前はスアリテとつがいになるんだよ!」

「ぶー! スアリテのほうが我儘じゃなーい!」

「うるせえ、手前ぇら! 好き勝手抜かすんじゃねえ! 俺は関係ねえからな!」

 自分を挟んで喧嘩を始めた二人にキレるトゥリオ。

「もー、トゥリオが早く『付いて来い』って言ってくれないからじゃない!」

「誰がそんな事言うかー!」


「トゥリオさんの浮気者…」

 ぼそりと声が聞こえた。

「なっ! 何でだー!」


 胃が嫌な痛み方をし始めるトゥリオだった。


   ◇      ◇      ◇


「うん? 太ったか? もしか…、ぐほぁっ!」

 ものの見事にブラックの前蹴りがトゥリオの腹に突き刺さっている。


(『口は禍の元』ってことわざを一晩くらいかけてじっくりと教えてあげないといけないかな?)

 カイは、合図に応えて喜び勇んでやってきたパープルに鞍を載せながら、そんな事を考えていた。


 購買班が郷の広場に集まって、出発の準備をしている。

 スアリテは自分のセネル鳥(せねるちょう)の騎乗準備を整え、他に飼育されている数羽が連れられてきて、装具を取り付けられている。


 それに合わせて冒険者達も、森に放って自由にさせていたセネル鳥達に口笛の合図を送り呼び寄せ、護符アミュレットだけにしていた彼らに鞍と轡を装着させようとした。

 ところが、駆けてきたセネル鳥を見て、トゥリオは余計なひと言を放ったのだった。


「救いようがないわね、まったく。逞しくなったって言えば良いじゃない」

 チャムはブルーに騎乗具を着けながら非難する。

「キュルル!」


(いや、女の子にそれはどうなんだろう?)

 その問題発言もブルーには通じるだろうが、ブラックとイエローは大口を開けてショックを受けている。


「確かにちょっとベルトに位置がいつもと違うけど、これは僕らの旅の為に力を蓄えて来てくれたんだね?」

 ブラックの分も騎乗具を預かっていたカイは、着けさせながらそう声を掛ける。

「キュウゥ…」

「走ったらすぐに戻るよ。むしろいつも申し訳なく思っているんだ。本当は時間が空いた時は自由にしてあげたいんだけどね?」


 彼らを放ったのはコウトギだから出来た事だ。人族の街の近くでは到底無理である。

 護符を着けたままだったとしても、属性セネルを見つけたら、捕獲しようとする者は幾らでも出てくる。今はそれほどまでに高値で取引されているのだ。

 パープル達も無抵抗で捕らえられるような事はない。だが、被害が出ようものなら討伐依頼が出される可能性が高い。逆にそっちのほうが怖い。

 なので、窮屈でも身近に置いておくしかないのだ。


 その彼らも、コウトギの山中を堪能したらしく、体重を上げて帰ってきた。当分は機嫌よく走ってくれる事だろう。


「それでは出発しましょう!」


 クオフの号令で、購買班は郷を後にした。

から騒ぎの話です。ネーゼド郷の騒動も旅立てば収束と思っていたところが、という展開でした。どうやらトゥリオは神様に嫌われているようです。ここでいう神様が誰なのかは分かりませんが(笑)。

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