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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
緑の神

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連絡員スアリテ

 長ウェルヒの前に座るスアリテは、長議会の議題を報告している。


「帝国は引き続き属国化の為の圧力を掛けてきているようですが、長議会はコウトギの総意として撥ね付けています。の国とて、我々の機嫌を損ねて国内で蜂起されるのは適わないでしょうから、これまで通り圧力を強める事は出来ないでしょう」

 国力に大きな差があれば、やはり帝国との情勢は重要事である。有利な材料は少なくないので差し迫った危機感はないが、常に議題にあるのは仕方ない。

「大勢は変わらんという事か」

「ええ、むしろ困窮しているのは帝国のほうかと? ラムレキアは攻勢を強めていますし、それに連動するように西部はきな臭さを増してきているようです」

「あまりに窮して暴発すれば我が国にも影響はあろうが、こちらから動かねば振り向ける手も有るまいな」

 少し赤っぽい頭を振ってスアリテは首肯する。

「万が一、踏み切るようでしたら後悔する事になるでしょう」


 獣人達にとってコウトギは信奉すべき地となっている。それは『詣で』の習慣からも如実に分かるだろう。

 長議会がひと声発せば、帝国中で獣人が一斉に反旗を翻す。軍に於いても主戦力と言える位置にある彼らが動けば、帝国の受けるダメージは計り知れない。

 余程でない限りは迂闊な事はしないと思っていいだろう。


 そして、そこまで浸透している東方の獣人達のほとんどが長議会の情報源となっている。

 具体的な諜報機関を持たないコウトギ長議国だが、情報収集能力に於いて決して劣ってなどいないのだ。


「ベウフスト閣下のお口利きもあります。今のところは懸念材料はないと思われます」

 帝国内の協力者の名を口にする。

「ふむ。では、ネーゼド郷としては、今後も魔石の輸出には同意すると伝えよ」

「はい…」

 帝国を利する魔石の輸出を進める判断はしたが、それがスアリテを口篭もらせたとは思えない。

「どうした?」

「上がってくる時に人族がいるのを見ました。あれはどういう者達ですのでしょうか?」

「気になったか」


 コウトギに入ってくる人族は、圧倒的に帝国人が多い。しかも黒髪黒瞳の男が混じっているとなれば、疑うべくもないと思っているようだった。


「あれはただの客人だ。クオフが見定めている」

 ウェルヒは鷹揚に構えている。

「警戒は緩めないよう進言いたします。情勢を鑑みるに、帝国は何を仕掛けてくるか不明なので。多少、強引な策略を用いてくるかもしれません」

(ごう)を一つ掌握したところで何が出来る? そこまで愚かではあるまい?」

「人族は姑息な手段も平気で使います。ご注意を」

 長議会は外交に於ける最前線になっている。そこに身を置く事の多いスアリテは、穿ったものの見方をするようになっているようだ。

「お前は気にするな。あれらはクオフに任せている」

「…了解いたしました」


 辞去するスアリテを、長は苦笑いで見送った。


   ◇      ◇      ◇


(郷に籠っていてはどうしても見えないようだな。既に国際情勢は動き始めているのに)

 スアリテの思いは複雑だ。

 長ウェルヒを尊敬はしているが、情報的な弱さを露呈しているように思う。


 集まる情報や長議会の流れは過不足なく伝えているはず。それをどう取捨選択しているかは、彼には窺い知れない。

 ただ、そこから何を読み取っているのかは、長と彼とでは乖離があるように感じる。


(スアリテが目を光らせておいたほうが良いな。連中、臭いぞ)

 そう考えていると、丸太杭堰堤の異物除去作業から戻ってくる一団が見える。件の人族達も確認出来た。

(なあっ!)

 見れば、同じアカメギンギツネ連のフスチナが、赤毛の大男にしなだれかかって歩いている。

 彼女はいつもスアリテの帰還を心待ちにしてくれていた筈だ。そして帰ってくれば、料理をご馳走してくれたり、山を一緒に散策などして、長議会のあるラトギ・クスの様子を聞きたがった。

 いずれ番になったとしたらそこで暮らす事もあるからなどと、将来を匂わせるような言動を聞いたのも一度や二度ではない。

 なのに、そのフスチナが今はよそ者、しかも人族の男なんかに入れ込んでいる様子を見せられれば、平静ではいられない。


(人族なんかに奪われて堪るものか!)


 スアリテは彼らの前に立ち塞がった。


   ◇      ◇      ◇


「フスチナ!」

 トゥリオの前に立ち塞がったのは、先に見掛けた連絡員の男であった。

「あら、スアリテ、お帰りなさい。お勤め、ご苦労さま」

「ああ、帰って来たさ。君に会いたい気持ちも堪えて、頑張って務めを果たしているつもりだ。なのに、なぜ君は人族の男の腕なんかを取っている?」

 赤毛の美丈夫の左腕に両手を絡ませている狐耳娘を指して吠え立てる。

「えー、だって、この人強いのよ。クバラやナッシフ、アグラルまで倒しちゃったの。フスチナも獣人の女の子なんだから、強い男に惹かれるのは当たり前じゃない?」

「ぐっ! だが、そいつはただの客だろ? 流れ者の、しかも人族だ。まさか惚れたとか言うんじゃないだろうな?」

「んー、好きかも。彼なら強い子が産めそう」


 驚いて身体を震わせたトゥリオが「おい! 待て!」と抗議するが、二人は聞く耳を持っていない。

 フィノのこめかみにも青筋が立っている。だが、ロッドを展開するのは自制しているようだ。


(うはぁ、修羅場? これは修羅場だよね?)

 隣のチャムに、黒髪の青年は囁く。

(こらこら、仲間の不幸を喜ばないの!)

(でも、デレデレしてたんだから、あながち不幸でもないんじゃない?)

(それは認めるわ。それでもあいつの肩くらい持ってあげなさいよ?)

 肘で突かれるが、カイは渋い顔をする。

(たまには第三者として観戦してちゃダメかな?)

(ダメに決まってるでしょ! ほら、フィノが怒るか泣くかする前に助け舟を出してあげないと握り麦はお預けよ?)

(むー…。仕方ないなぁ)


「分かった。良いさ、勝負だ。そいつが負けたらさっさと手を切るんだぞ、フスチナ」

 精悍な容貌に歪みが見える。瞳には嫉妬の炎が燃えていた。

「いやいや、待ってくれ! 俺はお前とこの女を取り合う気なんかねえ! 勝負なんてしたって意味はねえんだぜ?」

「逃げるのか? 男なら彼女の気持ちに応えてやる度量を見せろ」

「だから、気持ちに応える気なんかねえっつってんだろ!?」

 フスチナは頬を膨らませ、フィノは剣呑な空気を醸し出し始めている。

「ちょっと待ってくださいね?」

「何だお前は!」

 分け入った青年に狐耳男は喧嘩腰で応じる。

「貴方はスアリテさんでしたね? 長議会から戻ったばかりなのでしょう? 旅の疲れもある状態で試合っていうのは不公平だと思いませんか?」

「問題無い。今すぐ叩きのめしてやる!」

「連絡員をやっていらっしゃる貴殿の事です。それも可能でしょうが、万が一って事もあるでしょう? ここは一晩英気を養ってから、明陽(あす)の朝にでも改めての試合にしませんか? そうすれば禍根を残すような結果にはならないんじゃないかと愚考しますが?」

 カイのへりくだった物言いに、鼻白んだ様子を見せ始めるスアリテ。

「まあ、それはそうだろうが…」

「ね? フスチナさんも公正な結果を望んでいらっしゃるでしょう? 今夜は自重して、明陽(あす)の試合の結果を見てからでも遅くはないんじゃないですか?」

「まあ、そうね。トゥリオは強いけど、スアリテだって腕を上げているわよね。うん、カイの言う通りにしようかな?」

 何とかこの場は収まりそうだった。


(よし! これでチャムの握り麦はいただき!)

 麗人に、グッと親指を立てて見せる。

 今は彼女の握り麦以外に興味が無いらしい。


 先送りの結論を誇るカイに、青髪の美貌は苦笑を漏らした。

恋の鞘当て第二弾の話です。フスチナを取られたと思ったスアリテが、トゥリオに食って掛かる展開でした。フィノをトゥリオが、トゥリオをフスチナが、フスチナをスアリテが追い掛ける構図です面倒臭い。これでフィノがスアリテになびいたら見事に円環が出来上がるのですが、それでは収拾がつきません面倒臭い。次話に続きます。

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