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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
赤毛の美丈夫

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港町サテマッカ(地図)

 ダッタン村から南西に進むと、やがて海が見えてきた。

 広がる海原と潮の香りは、島国育ちのカイには馴染み深いものだ。何よりももう魚料理に飢えてきてしまっている。『倉庫持ち』のお陰でホルムトにも新鮮な海の幸は出回っていた。

 だが獲れ立ての魚とは何かが違うような気がしていたし、調理法も違い過ぎて魚料理で満足した覚えはほとんど無い。その彼の欲望を満たしてくれるであろう港までもう少しのところまで来ていた。


「やっぱりブルーが居てくれると楽だわぁ」

「キュキュイ!」


 褒められて満足しきりのブルー。期待の眼差しを受けたカイはパープルの首筋を軽く叩き「頼りになるよ」と言ってやり、イエローとブラックにも労いの言葉を送る。


 数陽(すうじつ)彼らと時間を共にして、色々と試していた。

 とりあえずはやはり鞍は必要なようだ。足がぷらんとした状態では乗り手にもセネル鳥にも負担が掛かる。

 手綱に関しては特に必要性は感じない。彼らは放っておいても道なりに歩くし、言えばその通り動いてくれる。だが、それを伝えると彼らは首を振り、手綱も欲しがった。

 どうも誰かに仕えるという彼らの矜持に関わる部分らしい。


 彼らの魔法も見せてもらった。

 四羽とも口から光熱弾を放つことができる炎セネルだった。更にパープルは薄紫色の光束まで放って見せてくれた。溜めは必要だが強力な雷属性ビームのようだ。


「炎雷セネルとはねぇ。複属性セネルなんて乗り手には垂涎の的なのよ」

「へぇ、パープルはすごいんだね?」

「キュイ!」

「ちゅい!」

 なぜかパープルの頭の上でリドも自慢気にする。皆が笑いに包まれた。


 そんな和やかな旅路を送る一行は港町サテマッカに到着する。


   ◇      ◇      ◇


挿絵(By みてみん)


 まずは冒険者ギルドに立ち寄り、ダッタン遺跡の調査上申書の手紙をホルツレイン王宮宛てで依頼しておく。

 こうしておけばギルドからホルツレインに向かう商隊に手紙が託され、相手に届く手順になっている。無論、依頼料は掛かるが、確実性も秘匿性も割と高く、連絡手段としては一般的なものだ。


 手紙には詳しい場所も書いておいたし、現場の木の幹にも印をしておいたので、それほど迷うこともないはずだ。

 あの塔は技術的な宝の山だ。その上、あの資料が解読されれば装置の利用目的も解るかもしれない。どうあれホルツレインには損はないとカイは考えている。


 宿屋を決めて部屋をキープした後に立ち寄ったのは皮製品店だ。

 セネル鳥たちの鞍を購入しなければならない。幸い、サテマッカにも騎鳥で立ち寄る人もそれなりに居るらしく、あまり品揃えはよろしくないものの、最低限な物は手に入った。

 しかし、カイはかなり不満気だ。道具や装備品には拘る彼のこと。


 また何か企んでいるだろうとチャムはにらんでいた。


   ◇      ◇      ◇


 港には船がずらりと並んでいる。この()の漁は大体終わっているらしい。

 主な大型船は帆船で風属性が得意な漁師を一人は乗せて運用されている。魔法士とは言えないまでも必要な時に風くらい吹かせることができる者はまあまあ居るのだ。


 漁法ははえ縄が主流であり、大規模な網漁は行われていない。精々が陸地近くで行う小規模なものに限る。

 これは大きな網の製作が技術的に困難だからである。蜘蛛系魔獣の頑丈な糸を使えないこともなかろうが、入手が困難で普及品とは言えないそれを漁網に用いようとは考えられていないようだ。

 他には雷属性が扱える漁師が雷撃漁なども行っているらしいが、それを魔法具で代用して行うにはコストが見合わないのか一般的ではない。


 カイは一隻の大型漁船に近付くと漁師に声を掛けてみる。

「こんにちは。大きめの魚はもう卸してしまいましたか?」

「ああ、もう市場に行っちまってるぜ。なんだ、坊主、魚が欲しいのか?」

「ええ、大型の回遊魚かなんか手に入ったら嬉しいと思って伺ったんですが」

 青年は希望を伝える。

「居ることは居るんだが、こいつぁ契約してる料理屋に卸す分だから、そっちに売ったほうが儲かるんでな。悪いが、諦めてくれ」

「もし、そっちへの卸値より払えば譲っていただけるなら、それでも良いんですけれど」

「お? おお、それなら考えないことはねえぜ」

「では、魚を見せてもらっても構いませんか?」


 少し値は張ったが、新鮮な大型回遊魚らしき魚を入手できたカイだった。


   ◇      ◇      ◇


 トゥリオが港をぶらついていると、冒険者らしい二人連れを見つけた。

 それは妙な集団で若い男女の冒険者に小動物が一匹、四羽のセネル鳥で構成されている。漁船の船員と何か話していると思ったら、船に乗り込んで自分の身長くらいはありそうな魚を男の冒険者が背負って降りてきた。


「ありがとう。助かりました」

「何言ってんだ、こっちこそ儲かって大助かりってもんだ。はっはっは!」

「いえ、どうしても美味しい新鮮な魚が食べたかったんです」

 快く譲ってくれた漁師に礼を言う。

「いつでも言いな。お前さんは上客だからな」

「またお願いするかもしれませんのでその時はよろしくお願いします」

「ああ、頼むぜ」

 どうやらあの魚を直接交渉して手に入れたらしい。変わったことをする冒険者だ。魚料理なんぞ、その辺の料理屋でいくらでも食べられるのに。


 そう思うとなんだか彼らに興味が湧いてきた。声を掛けてみるかとトゥリオは思う。


   ◇      ◇      ◇


「なあ、それ、どうするんだ?」

「どうするって食べるんですよ。僕はこれを鈍器にして戦ったりはしません」

「そりゃそうだろうな」


 声を掛けてきた男のほうを見る。

 かなり大柄な男で165メック(2m)はあるだろう。大盾を背中に担いでいるが鎧は軽めのもので、装備からして冒険者に見える。カイの冗談にニヤリと笑った顔を見ると、人当たりは良さそうだ。


「そうじゃなくってさ。魚食いたいなら料理屋に行ったほうが早いんじゃねえかと思って」

「僕が食べたい魚料理が料理屋さんにはないんですよ。なら、作るしかないじゃないですか?」

「作るって? お前が?」

 意外な顔をされる。風体は冒険者なので、まともな料理などできないと思ったのだろう。

「それは何でも失礼なんじゃない? あんた、いきなり声掛けといて」

「あ! ああ、すまん。俺はトゥリオっていうんだ。たぶん同じ冒険者だと思うが」

「僕はカイと言います」

 チャムは相手を窺っている。疑っているわけじゃないのだが、胡散臭いとは感じていた。

「…私はチャムよ。あんたの言う通り冒険者」

「悪かったな。普通の冒険者は街中でくだを巻いてるのが精々で、漁港なんかうろつかないもんだから気になっちまってな」

「そうでしたか」

 自分たちの行動が変だったとはカイには思えなかったのだが、自分が普通である自信など彼にも無かったので仕方ないかとも思う。


「では、あなたも来ます?」

魚を買う話です。いや、調理もしたかった。したかったのに出来ず。うん、さすがに解ってきました。思った分の半分くらい入ればいいほうだと。どうかのんびりお付き合いくださいませ。あ、いけない、忘れてた。読みはセネル鳥せねるちょうです。

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