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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
勇者王の国

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興味深い同行者

 基本的に関心はない。

 アヴィオニスがどれだけ誰とぶつかろうが、暴力に訴えない限りは彼女が負ける姿が想像出来ない。今回の相手は武に於いても長けているようだが、それだけにほぼ丸腰のアヴィオニスに剣を抜く事はまず無いだろうと思えた。

 以前は彼女に刃物の扱いの手解きもしていたが、今はそれも稀になっている。腕前のほうは、女にしては使えるという程度に収まっており、自衛と考えるならそれで十分だとザイードは思っていた。


 気になるといえばあの麗しい女剣士が、彼と同じ見事な青髪をしているというところくらいか。


 玉座に在る時は仕方なくメイド達が整えるに任せているが、戦場に在る時はそれもなく背中くらいまで伸びた髪は無造作に流されている。結果、戦場を走る青い蓬髪が目を惹き、兵はそれを目標として続くように動くという。

 子供の頃は美少年と言われる事が少なくはなかった彼は、今は男臭さが目立つ顔付きになってきた。

 藍色に近い太い眉は凛々しく、鋭さばかりが目立つ目に上に座っている。それが金色の瞳と相まって素敵だとメイド達は褒めそやす。

 高い鼻は中央にそびえ立ち、色の薄い厚い唇は一文字に引き結んでいるほうが多いだろう。武張った太い顎が輪郭を引き締め、男前と呼べるくらいなのだそうだ。アヴィオニスがどこに出しても恥ずかしくないと言ってくれるのだから、彼女が心苦しい思いをする事はないだろう。


 剣一筋に打ち込んで鍛え上げた身体なら自慢が出来る。全体に筋張って筋肉の盛り上がりばかりが目に付く。自ら見惚れるような趣味はないが、それはそれで一つの美の形だろうと自分では思っていた。

 しかし、その165メック(2m近く)の鍛えた身体も、140メック(170cm足らず)の体躯に敗れた。彼が魔闘拳士という英雄であるとはいえ、鍛え方が足りないと思うしかないだろう。


 その彼の隣で苦笑いしている美丈夫が魔闘拳士と名乗ったほうがしっくりくるような気がする。

 ザイードと変わらない170メック(2m強)はあろう長躯に、眉目秀麗という形容に相応しいと思える容姿。

 雑に刈り揃えただけに見える頭髪は燃え立つような赤で、だからこそその髪型が勇猛さを際立たせているように見える。手入れしている者の感性の産物だろう。

 錆色の眉は勇ましく弧を描き、傍らの獣人少女を見る切れ長の目の茶色の瞳は猛々しさの中に優しさの光も宿している。少し大きめに見える鼻も、全体の彫りの深さを際立たせているとしか思えないバランスで、悪戯坊主のような笑みを湛えた口元も見る者には魅力と感じられるだろう。

 だと言うのに、所作からそこはかとなく感じられる品格は、彼がその粗暴な口調なりの生まれではないと思わせた。


 そして驚かされたのは獣人魔法士少女の存在だ。

 西方ではどうなのか彼は知らないが、獣人は一様に魔法を不得意としている。たまに、素養としての魔力は十分に備えている者がいても、構成を編むのが下手だったりと、大概は魔法士にはなれないと断じられると聞く。

 それなのに彼女は単騎で、突進するラムレキア軍を怯ませるに足る魔法を放ってきた。対魔法兵が対応に動けば魔法を切り替え、見事に足留めされている。挙句に、結局は魔力量で劣った対魔法兵を完全に押さえ込んでしまった。

 その火力・多彩さで彼に従う軍を一人で相手取る力量を見せたのだ。それに僅かながら内心で怖れてしまったザイードが、魔闘拳士に完敗する一因にもなった。

 ラムレキア軍は彼女に負けたと言っても差し支えないだろう。


 対して見た彼女はただの可憐な獣人に過ぎない。少しおどおどとした感じであるが、魔闘拳士や美丈夫に褒められるとあどけない笑顔を見せる。

 薄茶色で強く波打つふわりとした髪からは白地に模様のある犬耳が生えている。基本的には垂れているようだが、感情次第でぴょこんと立つ様が非常に愛らしい。

 標準的な獣相の丸顔には毛皮が見られず、長めの眉だけが毛皮の雰囲気を醸し出している。ぱっちりとした大きな目には碧眼が踊り、興味に応じてくるくると動く感じが子供のそれを見ているようだ。少し突き出た鼻面の先には桃色の鼻が座り、その下には先割れのひげぶくろ(ウィスカーパッド)が続き猫口を形作っている。小作りなそれがフィノと名乗った彼女の幼さを助長するように感じさせているように思う。

 見た目からはとても大魔法士には見えないのだが、実力的には比類なき火力の持ち主なのは否めない。



 ザイードが魔闘拳士一行を観察しているうちに口喧嘩のほうは一応は決着を見ているようだ。勝敗というよりは双方が疲れて止めただけのようだが。


「どうだ? 気が済んだか?」

 彼が珍しく慮ると、飲み物を入れた皮袋から口を離したアヴィオニスは小声で答える。

「まったく口の減らない…、尻尾を掴ませない感じ。あれだけ挑発したって言うのに、何一つ漏らさないなんて、どっちが探りを入れているんだか分からなくなる。いい? 彼女にはあまり余計な事は教えてはいけない。忘れないで」

「ああ」

 そうは答えたものの、ザイードの目から見るに魔闘拳士のほうが油断ならない。敗れたからではない。彼の目配りのし方が、非常に慣れ親しんだものと全く同様だからだ。

 アヴィオニスのそれ。


 行軍中の部隊に時折り目をやっては統率の良さに感心するように微笑みを浮かべる。話し掛けてくる仲間ににこやかに応対しながらも、王妃や女剣士の仕草に気を付けるのも忘れず、必要以上に興奮していないかを量っている。彼が自分を観察しているのに気付いたのか、口の端を上げて視線を送ってくる。

 完全に全体を俯瞰で見ている者のそれだ。

 そう、おそらく自分達は今、量られているのだと感じられてならない。

 魔闘拳士がどう感じているのか聞きたい衝動に駆られるが、それは彼の役目ではない。こういう相手に不用意に絡めば、いつの間にか余計な事まで喋らされていそうで怖ろしい。アヴィオニスに任せるに限ると考えていた。


   ◇      ◇      ◇


「誰の発案です?」

 そう訊ねられてアヴィオニスは視線を向ける。

「何? 戦闘指揮車のこと?」

「ええ、設計思想は理解出来るのですが、そこへ繋がる切っ掛けにはなかなか辿り着けない気がして」

 カイが戦闘指揮車に興味を向けていたのですぐに分かったし、特に含みも無さそうなので素直に答える事にする。

「あたしよ。小さいほうが小回りが利くし、馬の負担にならないから。いざって時に騎馬軍団に全く追い付けないようでは戦況確認に困ってしまうでしょ?」

「おっしゃる通りです」


 馬車というのは積載道具である。

 人、或いは物品を乗せるのが当たり前の考えだ。そこにある程度以上の旋回性能や速度は普通求めない。それを欲するのなら馬なりセネル鳥(せねるちょう)なりに乗ればいい。

 そこを曲げて最低限の道具だけを乗せて前記の二つを求めた発想の飛躍に興味を持ったのだろうと思った。


「王妃が戦場に出張って来るなってタイプ?」

 軽く睨みを利かせてみる。

「まさか。全軍を掌握しているのは実質的に貴女でしょう? 伝令の動きを見ていればすぐに分かります。戦場にも居場所を作って信頼を得ているなら、それはそこにいる必要のある人です」

「これはその為の道具」

 送る視線に込められたのは自慢か自信か。

「んー? カイ、男に首輪を掛けて鞭で操る女に興味があるの?」

「どういう意味よ? あたしにはそんな嗜虐的な趣味はない!」

「さあ、どうだか?」

 そして今陽(きょう)も口喧嘩が始まる。


 そんな陽々(ひび)を経て、彼らの目にガレンシーの姿が見えてきた。


道すがらの話です。今回はザイードにトゥリオ、フィノと紹介していく展開でした。こういう外見の紹介が必要なのかは読まれる方次第だと思います。描く側としては頭の中にそれぞれのキャラクターがちゃんと映像としてイメージされて動いているのですが、読者がどこまでそれを感じているのかはいつも不安材料なのも事実。挿絵が描ける方にはその不安からは解放されているのでしょうが、描けない人間はそれと戦い続けるしかないのでしょうね?

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