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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
ジャルファンダル動乱

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要塞攻めの話

 帝国討伐軍で行った尋問により、デニツク砦には五千のガッツバイル傭兵団の勢力が常駐し、港湾都市ウィーダスはジャルファンダル陸軍三千にガッツバイル傭兵団二千の五千で占拠していると判明した。戦力分散は各個撃破の危険性を高めるが、この地域の占領を目的にしている以上、拠点防衛は必要不可欠なのだろう。

 実際に、ウィーダスで荷揚げしたマングローブ材を陸路でラムレキアやイーサルに運んで、復路で食料を運んでいるという報告もある。ジャルファンダルは本気で飛び地占領を続けるつもりなのかもしれない。


「でも、半分の五千ずつに分散したのでは落としてくれと言っているように感じますぅ」

 相手は帝国だ。万人規模の討伐軍が送られてくるだろうというのは子供でも分かる。

「いや、そうでもないと思うよ」

「ええ、それは素人考えね」

「はわっ!」

 疑問を投げ掛けたフィノだが、ひと言で切り落とされた。

「まず、デニツク砦防衛五千は余裕を持った数字だと思えるね」


 要塞攻めでは、防衛側に圧倒的優位性が有る。防壁の高さという利点がそれだ。

 相手の攻勢を防げるというのはもちろん、高い位置からの監視で敵勢の動きは丸見え。矢などの投射系の攻撃威力は増すし、魔法攻撃に於いても狙いが付け易い。

 比して、攻勢側の攻撃は効果が薄くなる。物理攻撃は届かないので、登るか城門を破壊するかの二択になる。防壁の高さに拠るが、矢は届かないか、届いても狙いも威力も半減している。魔法攻撃は、防御刻印によって無効化されて意味を為さない。


「一般的には十倍する兵力くらいまでは耐えられると言われているわね。状況次第だけど」

「ふえぇ! そんなにですかぁ!?」

 仰天するフィノ。

 彼女は博識だが、あまり戦史などには興味はないらしい。魔法関係や博物学にはひとかたならぬ関心を抱くようだが。

「そうよ。五千で籠れば五万まで耐えられる計算ね。もっとも食料が保てばの話よ?」

「そうなんですねぇ」

 チャムを尊敬の眼差しで見る。

「実際には、そうもいかないだろうけどね?」

「まあ、そうだな」


 軍の規模が五万ともなれば様々な戦術が可能になる。数さえ居れば攻城兵器の運用も容易になるのだ。

 攻城兵器は木製のものが主になる為、火矢や炎属性魔法などが有効になるが、消火するにも魔法が用いられるので攻略が難しい。複数の攻城兵器を投入されれば防衛は困難だと言えよう。


「でも、攻勢側が一万二千なら五千で防衛するのはそう難しくないと思うよ」

 デニツク砦攻略に当て嵌めて評価するカイ。

「厳しいんですかぁ?」

「無視する訳にもいかねえしな?」

「ダメですぅ?」

 困り顔のフィノに、トゥリオが得意げに語り出したので譲っておく。

「砦に五千、ウィーダスに二千だろ? この辺を荒らし回っているガッツバイルの遊撃部隊はあと三千以上はいるぜ。結構削ったとは思うが千ぐらいは残っていると思ったほうがいいだろう」

「全部撃破は無理ですぅ」

「そうすりゃ、ウィーダスを攻めに掛かった時、後背に六千以上の敵を抱える事になる。挟撃されちゃマズい事になるだろ?」

「確かにその通りですぅ!」

 納得顔で称賛するフィノ。トゥリオはしたり顔である。

「結局、デニツク砦を攻略するしかないんですねぇ」

「そうね。でも、私達にはそんな難しい状況ではないんじゃなくて?」

「はい! あの時より選択肢は増えていますよぉ!」


 彼らは、トレバ皇国の皇都ロアジン攻めを経験している。あの長大な城壁に比べれば、一地方の砦の城壁は規模で劣るだろうと推察出来た。


「今度はどうするんですかぁ?」

 獣人少女はなぜかわくわく顔でカイの様子を窺っている。そこに魔法が絡むのは容易に想像がつくだけに、興味を惹かれているのだろうと思われた。

「どうする気?」

「そうだね」

 思案げな様子を見せていた黒瞳の青年は、チャムにまでせっつかれると苦笑する。

「現物を見てからにしようか? 準備が必要になるほどかどうか分からないし」

「必要以上に手の内を曝すのも避けたいわね?」

「言えてるな」


 休憩の終了を告げる合図と共に、四人は茶器を手に立ち上がった。


   ◇      ◇      ◇


 既にデニツク砦に進路を取っている、彼らを含む討伐大隊三千の進路上に、どちらかと言えば大きめの規模の農村が見えた。

 遠目にも荒らされた雰囲気を見せる農村に進入するとやはりひどい有様であり、誰もが目を覆うような光景が残されている。指揮官マンバス千兵長は生存者の探索の指示を出すと同時に、犠牲者を丁重に弔うよう兵を動かした。


 チャム達も一応生存者の探索を行っていたが、肝心のサーチ魔法の使い手の姿を見失っていた。

「どこ行ったのかしら?」

 フィノのサーチ魔法で家々を調べているが、見つかる遺体は既に相当の時間を経過していると思えるものばかりだ。生存者は絶望的とも言える状況下で、カイはいつの間にかどこかへ行ってしまっている。

「反応が有ったんですかねぇ?」

「それなら声ぐらい掛けていくだろ?」

「まあ、こんな状況ではあの人でも確信持てないんじゃないかしら?」

 それはつまり反応は有ったという意味であり、チャムの勘は当たっていた。


「こっちこっち」

 ひょっこり現れたカイが手招きしている。

「何が有ったの?」

「生存者じゃないんだけどね…」

 彼の表情は明るいので、深刻な事ではなさそうだ。

チャマが生き残っているみたいなんだ。一緒に捕まえよう」

 そう言うと、カイは家々の裏手に広がっている木立を指差す。

 そこはどうやら果樹園だったらしく、それほど樹高の高くない果樹がひしめき合うように植えられている。この木立の中でチャマの姿を見つけたらしい。


 チャマは広く飼育されている家畜で、肉にされたり玉子を取ったりするのにどんなところでも飼われている鳥だ。農村などでは当たり前に駆け回っているし、都市では専門職の飼育業者が居て、養鳥場を経営している。

 魔獣肉を除けば、人々が最も口にしている肉かもしれない。それ程までに飼育が簡単で普及している。


「ちょ! せっかく生き残っているのに食べちゃう訳?」

 チャムはちょっと意外な台詞を聞いたという面持ちである。

「食べないよー。食べないけど、こんな場所に居たんじゃそのうち飢えちゃうから捕まえようかな、と」

「そうかもしれませんですぅ」

 チャマも長距離は飛べない鳥だし、あまりに家畜として飼われ続けてきただけあって、人の世話無しでは生存も繁殖も難しいほどに変化してしまっている。人類と共にそう進化してきた種なのだ。

「どのくらい居るの?」

「二羽は見えたんだけど、それ以上に反応あるね」

「じゃあ、二手に分かれましょう。私がフィノと組むから、あなた達で組んで捕まえて」

 当然、チャムと組む気になっていたカイの顔は落胆に沈む。

「えー」

「えー、じゃないの! さっさと行きなさい!」

 追い立てられた男性陣はとぼとぼと木立に消えた。


「何でカイさんと組まなかったんですかぁ?」

 彼らの気配が遠ざかるとフィノが問い掛けてくる。その顔がニヤついていてチャムは嫌な予感がした。

「そんなに照れなくて良いんですよぅ。何が有ったのかは知りませんけどぉ、遠慮しないでもっと仲良くしてください」

「別にそんなんじゃないわよ」

 彼女がそういう話題を振ってくると思ったからこそのこの組み合わせなのだ。

「今は彼との仲を深める気は無いの。だからあまり気を遣わないでくれないかしら?」

「…今は、ですね?」

 じっとチャムの顔を見つめていたフィノはそう訊いてきた。

「ええ、そう受け取ってくれて構わないわ」

「はいですぅ!」

 彼女は非常に嬉しそうにチャマ探しに移る。


「…どうしてそうなったの?」

 しばらく後に合流した二人の様を見て、チャムの頭上には疑問符しか浮かんでいない。

「さあ?」


 そこには満面の笑みで、両肩にチャマ、頭にはリド、そして両腕いっぱいに玉子を抱えるカイがいた。

要塞攻略法の話です。後半のチャマの話を中心にするつもりだったのに、なぜか要塞攻めの話に。うん、仕方ない。そういう戦争の常識を知らない方も居るだろうし、この世界での常識も含まれるのだから。

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