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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
タイクラムの森

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神々の領域

 マルチガントレットの上、光条レーザー射出口の前に輝点が二つ生まれた。その輝点は尾を引きつつ円弧を描き、後方に回り込むと突起を描く。卵型の光条レーザー発振器を囲むように鋭角突起を持つCが両腕に輝線で描かれた。


 次に黒髪の青年の顔、鼻梁の両横に輝点が現れると、目の下を掠めるように放物線を描き、頬から顎を縁取るように降りていき、顎の横で喉のほうへ降りていった。顔に表れた単純な文様も輝線で描かれている。


 更に胸。胸装(ブレストアーマー)彼らの紋章(パーティーエンブレム)。左右の上の鋭角突起付きCの先端に輝点が宿ると、そのまま鋭角突起に向けて輝線を走らせる。下の鋭角突起に輝点が移ると添うように動きC型を描いて、彼らの紋章(パーティーエンブレム)を輝線で描き終えた。


 そして、全ての輝線が一瞬その輝度を増すと『神々の領域(ラグナブースター)』が起動した。


   ◇      ◇      ◇


 チャムとフィノ、魔力に敏感な二人はカイが爆発音を発したように感じたと言う。

 それほど爆発的な勢いで彼の身体から余剰魔力が噴出したのだ。その魔力は一気に広がり、魔王の間に充満せんばかりの勢いだった。


「おおおお! その魔力量! 汝は! 汝は……、神だったのか!?」

 声も出ないほど仰天している二人を置いて、魔王が驚愕の声を上げる。余剰魔力でさえそれほどなのだ。その身体に内包される魔力量は想像を絶していた。

「そんな御大層な者じゃありません。ただの人間です」

「しかし、有り得ん! 人の子にそれほどの力は!」

「貴方はその人の子に滅ぼされるのですよ。その程度の存在って事です」

 カイに見据えられた魔王は、身動きが出来なくなっていた。


 魔力で擾乱された空間は感覚的に騒がしく感じられていたが、音声的には静寂に包まれていた。

 カイの横に戻っていたチャムは、彼が何気なく足を踏み出すのをスローモーションのように感じている。その足が黒曜の床を踏む音だけが大きく響いたような気がした。

 その瞬間、カイの姿は掻き消えている。


(え?)


「どこを見ているんです?」

 明らかな脅威となった彼を目で追っていた魔王も、その姿を見失っていた。声が聞こえてきたのは、魔王の右後ろだ。

「がはああぁー!」

 打ち込まれた銀爪がその鎧のような皮膚を割り、手首まで埋まっている。次の瞬間、衝撃波のようなものがその爪を中心に発せられ、三人の周囲も通り過ぎて行ったように感じる。

 すると、再生する筈の魔王の傷口から黒い粒子が放散され始めた。

「ぐおおぉー! なぜだぁ ── !」

「貴方自慢の強固な固有形態形成場を破壊しました。もう再生力は働きませんよ?」

「き、貴様ぁ! この我をぉー!」

「滅ぼすと言ったでしょう? 僕の大切な人の世界には必要ありません」

 魔王は身を捩らせてカイの銀爪から逃れようとし、引き抜く事に成功する。

「まだだ。やられはせんぞ!」

 そう宣った魔王からカイは目を逸らし、指を開いた右手を差し上げた。そして、またあの衝撃波が放たれる。


 何かが割れるような音をチャムは聞いたと思った。

次元壁反響(ディメンションエコー)を使った固有形態形成場再建ですか? させると思います? 言った筈ですよ、僕には『視えている』って」

 カイには視えているのだ、固有形態形成場が。本来、力場を発生させる情報体である固有形態形成場を彼は認識出来る。

「自らの不滅性を維持する為に、そんな仕掛けまで用いているなんて周到ですね。勇者が倒し切れなかったって言うのも頷けます」

 敬意を払うように会釈して見せた。

「でも、お終いです」

 そして仲間達を振り返ると言った。

「さあ、魔王を倒すよ」

 チャムとトゥリオはグッと気を引き締めて、剣を携えて駆け出す。フィノは少し赤くなった目を輝かせてロッドを掲げた。


 固有形態形成場を破壊されても、魔王の鎧のように硬化した皮膚は変化は無い。そこにトゥリオが斬り付けても負わせられるのは掠り傷程度だ。しかし、今はその掠り傷が大きい。その僅かな傷から黒い粒子が拡散して傷口を広げていく。トゥリオは果敢に何度も斬り付けていく。


 カイを警戒して動きが鈍っている魔王に駆け寄ると、チャムは剣を振り抜く。掠めただけでもごっそりと削っていく彼女の聖属性魔法剣はより大きなダメージを魔王に与え、黒い粒子を撒き散らしていく。目を爛々と輝かせてチャムは舞うように斬る。


 新しく会得した光の魔法はフィノに自信を与えた。今や水を得た魚のように彼女は光翼刃フォトンブレードシェイパーを操り、魔王の身体を切り刻む。二桁を優に超える数の光の円盤が飛び回れば、魔王も防げるものではない。フィノのロッドの先で、魔王は黒い粒子を全身から霞のように散らしていく。


「おおおおー! 我が身体があぁー!」

 各所から崩壊を始めている身体を魔王は掻きむしる。

「馬鹿なぁ ── !」

 取り戻そうと黒い霞に手を伸ばすが、それは適わない。

 魔王の斜め後ろで立っていたカイがトンと床を蹴ると再びその姿は掻き消える。

「そ……うか、分かった! 分かったぞぉー! 貴様は『ことわりの外側にた……」

 コマ落としのように頭の後ろに現れたカイは、身を捻って回し蹴りを魔王の頭部に放つ。弾けるような音を立てて、その頭部は一瞬で吹き飛ばされた。


 巨体から拡散する粒子は急速にその量を増やし、魔王の身体は崩壊していく。四人の冒険者に囲まれた状態でその黒い粒子を全て散らすと、ゴトリと核石が床に落ちた。直径40メック(48cm)以上は有ろうその核石は、歩み寄ったカイのその足で踏み砕かれた。


「やっ……た?」

 チャムは少し震える手で握った剣を見つめると、胸から溢れてきたような台詞を放った。

「おお ── !! そうだ!! やったぜ!! 俺らは魔王を倒した!!」

「やりました。フィノは生きていますぅ……」

 トゥリオは両腕を突き上げ雄叫びを上げる。フィノも滂沱の涙を流しながら感動に打ち震えていた。チャムはフィノに抱き付いて歓喜を分かち合う。

「やっつけてやったぜー!」

 トゥリオはその二人を纏めて抱き締めて持ち上げた。

「ざまあみろー!」

 叫び声は大きく魔王の間に響き渡る。


 その傍らで、輝線の文様を薄れさせたカイは、静かに前のめりに倒れた。


   ◇      ◇      ◇


「ちょっ! カイっ!」

 チャムが慌てて駆け寄り、他の二人も一歩遅れて駆け寄った。

「どうしたのよ!?」

「魔力残量がヤバいのと、身体中が痛い……」

 仰向けに直された彼は情けない声で泣き言を漏らす。


 それもその筈、誰の目にも認識出来ないほどの速度で動いていたのだ。表面的には分からないが、全身の筋肉はズタズタに裂け、そこら中で内出血が起こっている。

 自分に復元(リペア)を施そうにも、全身を治せるほどの魔力などどこにも残っていない。結果、どうにもならずにその場で倒れたのだ。

 しかし、後悔など欠片も無い。彼はようやくダッタンの塔の主の遺志を成し遂げ、聖弓を継ぐあの一家をくびきから解き放つことが出来た。

 そして、愛しい人の世界から害悪(魔王)を取り払えたのだ。


 カイの右腕から光の粒子が立ち上っている。

「か、カイさん! 消えていきますぅ!」

 それは彼のマルチガントレットから立ち上っているのだった。

「ああ、マルチガントレットの固有形態形成場も吹っ飛ばしちゃったんだね」

「止めませんと!」

「もう無理だよ。止められない」

 魔王と戦う間にマルチガントレットにも細かい傷は無数に付いている。固有形態形成場を失ったマルチガントレットにその傷は命取りだった。

 カイは長輪(ながねん)連れ添った相棒に別れを告げる。


「ごめんね。ありがとう。お疲れ様」

魔王戦完結話です。魔王斬これにて完了でございます。中盤最高潮の盛り上がり箇所に、カイの切り札とシリーズの基幹設定を投入出来ました。以前少し触れましたが、その基幹設定が形態形成場です。これももちろん、色々と説明が必須でしょうから、それは次話から綴っていきますので。

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