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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
新たなる地に向けて

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家を買おう

 四人にも一つ勘案事項がある。

 国賓扱いなのだからどれだけ王宮の客室を占拠しても構わないだろう。だがそれは建前であって、傍目にはあまりよろしくはない。どうしても王宮勤めの方々の手を煩わせるのは確かだし、彼らを邪魔だと考える者たちにはその態度は傲慢に映ると容易に想像できる。何より彼ら自身も、宮廷雀の話題提供の的にされているところがあり、居辛さは感じている。


 ではどうすればいいかというと要は王宮を出るだけの話なのであり、街区の高級宿に長逗留してもいい。それでも宿の使用人には手間を掛けさせることになる。

 対価を払うのだから別に気にする必要は無いように思われるかもしれないが、冒険者暮らしが長い彼らは基本的に自分の面倒は自分で見れるわけで、それを他人に押し付けるのを気に掛けてしまうのである。


 更に、彼らの部屋に入り浸ることも少なくない王孫たちの目が光っていることもあり、転居の相談も難しかった。しかしそれにも限度がある。

 居室内でさえ勝手気ままに振る舞えない不自由さと、四六時中監視されるかのような状態にフィノの心が保ちそうにないと感じられて、ホルムトでの拠点になる家を探すことを決意する。


 それがもう二往(二ヶ月半)前のこと。その間に獣人郷建設に出向いていたりして先延ばしになっていたのだが、決断の時が来たようだ。

 クラッパス商会に依頼して、条件に合う住居探しをしてもらっている。条件はそれほど多くない。部屋数がそれなりにあってゆとりある暮らしができればいい。既設の家屋でも多少なら彼らで手を入れてもいいのだ。それだけの技能が有る。具体的に言えばカイの変形魔法。


 それ以外の条件といえばただ一つ、セネル鳥(せねるちょう)たちが悠々と過ごせる広い庭だ。実はこっちのほうが難航した条件のようだった。

 ホルムトは大都市であり、人口も多い分、狭い街区にギュッと詰め込まれて暮らしている傾向が強い。それでも有力商人などは屋敷を構えているので難しくはないかと思ったのだが、意外とそうでもなかった。

 商人たちは大きな屋敷は求めても、広大な庭を求めることは少ないようで、そういう大邸宅は既設の出物が無かった。新築するにも広い敷地はまず無いとあって、街区での家探しは迷走していたのだ。


 そうこうしているうちに、王孫たちに情報が漏れてしまった。そうなればやってくるのが猛反対なのは自明の理である。

「どうしてお部屋を返す必要がありますの? いつまでもお使いになって構いませんのに。お爺様も咎めたりはなさいませんわ」

「それはそうなんだけどね、王宮ここは人目が多過ぎるんだ。生まれも育ちもお城な君たちは意識もしないのかもしれないけど、一般人には辛いんだよ」

 解らないだろうと言われると反論が難しく、頬を膨らませるセイナ。

「ではお爺様に言って専用のお部屋をご用意していただけばいいんですのね。もちろん使用人の出入りは制限してもらいます」

「それはちょっと問題だらけかな?」

 そんなことをすれば、反魔闘拳士派が勢い込んで批判を集中してくるだろう。

「言っておくけど、王宮の敷地に新築なんてもってのほかだからね?」

「はう……」

 出鼻を挫かれ、きっちり釘を刺されてしまう。

「まあ、もう少しお邪魔することにするよ。こっちも打開策が無くてね」

 それも違えようのない事実である。


 そんな会話があって、セイナとゼインがどうしたかと言えば、父親に泣き付いたのである。自分たちでは無理そうだから説得してほしい、と。大人の知恵を頼ったのだ。

 両方の気持ちが解るだけに名案の無かったクラインは更に別の大人を頼る。王国の知恵袋(グラウド)は相談相手としては最適だったであろう。何を悩んでいるかとばかりに案を出してくる。


 冒険者四人は王宮暮らしは窮屈だ。セイナとゼインは気軽に会いに行きたいから街区に転居されては困る。話は簡単、城壁内に転居してもらえばいいだけである。

 それは誰もが最初に除外していた選択肢なのだ。城壁内の土地屋敷は貴族が賜る物であり、一般人が購入できる物ではないのが常識。そんなこと、誰も考えない。

 しかし、グラウド曰く、王宮内に個室を作ったり敷地内に新築したりという無理を通すのに比べれば可愛いものではないかと。発想の転換である。

 納得し難い案ではあるのだが、クラインはその方向でアルバートに打診してみる。


「確かトポロック伯爵の屋敷が空いていたはずであろう?」

 事も無げに言ってきた。


 トポロック伯爵は一()程前、公金横領の罪を犯して改易された貴族だ。景気の急上昇を見て役職上の立場を利用し、私財を蓄えようとした行為が発覚した。これを許せば綱紀が緩むと考えたアルバートは、躊躇いも無く爵位を取り上げた。

 その邸宅は王宮からも程々の距離に在り、かなりの広さの敷地を持ち、周囲に保守派と目される貴族の邸宅も見られない好条件。それを使えということらしい。


「よろしいのでありましょうか? 爵位を持たぬ者に与える前例を作っても」

「与えはせんぞ。せっかくの空き家だ。買わせよ」

 時折り見せるアルバートの悪戯っ気がここで発揮される。


(またお戯れを)

 クラインはついうんざりした顔を見せてしまう。


「なに、頭金だけで構わぬわ。後は魔獣除け魔法陣の使用権料を充てさせればよい」


 そんな経緯があって、冒険者たちは元トポロック伯爵邸の購入を王孫たちに強要される。


   ◇      ◇      ◇


「でっか! たっか!」

 元トポロック伯爵邸の前に連れてこられ、無用に大きな門扉から見える大邸宅と、横から財務政務官が差し出す請求書を見てのカイの悲鳴である。

「こんなん要らない!」

「そうは言っても、セイナ達のこれ以上の譲歩は無いわよ?」

「そうです。あれは嘆願でなく強制の目でしたよぅ」

「迫真ものだったな」

「だからってこれを手に入れてどうすんの? みんな、掃除を手伝ってくれるの?」

 誰一人として視線を合わせない。使用人を雇うしかないということか? それだと意味が無いではないかと思う。

 ここで尻込みするわけにもいかず、仕方なく管理者に案内してもらう。


 邸宅内は言うまでもなく膨大な広さを誇り、住むとすればその一角で十分だろう。数えるのも嫌になるほどの居室に客室、使用人部屋と、彼らには意味も無い空間が広がっている。カイは見て回りながら、上手に断る方法を頭の中で模索する。

 対してパープルたちは上機嫌そのものだった。自由に見て回る許可を得た彼らは広大な庭を駆け回り、色々なところを覗き込んでいる。確かにセネル鳥には楽園かもしれない。


 邸宅内の案内を一応受け、憔悴した顔でパープルたちの様子を見に戻ったカイは裏手で良い物を発見する。程良い大きさの建物があった。管理人曰く、それは使用人用住居として建てられた離れらしい。


「これでいい。これに住もう」

「いえいえ、こちらはただの離れですよ?」

「四人が寝起きして、たまにお客様を迎えるには十分です! それが庶民の暮らし! だからあれだけ売ってください」

「そ、それはご勘弁を」

 政務官の冷や汗が止まらない。

「こらこら、無茶言わないの。本邸は遊ばせればいいだけじゃない。壊すにも無駄にお金掛かるし」

「壊っ! 御冗談を。もったいのうございます」

「むー、仕方ない。本邸はルドウ基金の本部にしよう」

 現状、王宮に間借りしているルドウ基金もこちらに移転させようとカイは考えた。

「事前に話しましたけど、当面はあの額の頭金しか入れられませんからね?」

「それは構いません。返済に関しては陛下から承っておりますゆえ」

 一時はどうなるかと思った財務政務官は、纏まりつつある話を歓迎している。


 こうして冒険者たちの新居は決まった。

新居の話です。家を買うまでの紆余曲折を描く展開。次話は決まってからの事を描きます。何せ住処は使用人離れです。更には、しばらくしたら再び旅立とうという状況。色々とやらねばならない事が有るのです。

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