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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
人族と獣人族と

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252/892

子株取り

 丁度、旧国境辺りに建設された新獣人郷。北部では国境林の整備が困難なため植栽されていない。ただ雑にポツンポツンと杭が打たれていただけである。

 その杭もさっさと取り除かれた大地を走る獣人たち。それに追随する四騎のセネル鳥(せねるちょう)十詩(60分)ほどで密林地帯外縁まで辿り着いた彼らは、噛み兎(バイトラビット)の群れの歓迎を受ける。

 今回は狩りが目的ではないので派手に突っ込み追い散らす獣人たち。強者の集団に、敵わないと感じた噛み兎(バイトラビット)は這う這うの体で逃げ出した。狩った分の獲物は冒険者たちに格納してもらい密林に立ち入っていく彼ら。


 ナーフス群生地探索行は元デデンテ郷とスーチ郷の合同で行われている。ナーフス園の設置が前提である今は、群生地の位置を秘密にする意味は失われており、混成部隊による探索行が実現した。強力な武威を誇るアサルトを中心とした編成は移動中の狩りで確立されていたようで、冒険者の出番は全く無い。いつの間にか狩った獲物の回収班のようになってしまっている。


 カイの予想では西方北東部のこの辺りにも必ずナーフス群生地があるはずだ。気候と土壌、植生が大きく変化していないので自動的にその結論に達する。その予想は覆されること無く、それほど時間を掛けずに群生地の姿に行き当たった。

 予想外だったのはその規模である。確かに見通しは悪い密林地帯。それでも見渡す限りナーフスというのは、さすがに皆を呆然とさせた。

 我に立ち返り、一斉に散っていく若い獣人たち。それほどの大群生地ならば完熟を迎えているナーフスの実も採り放題だった。群生地に潜む魔獣を狩りつつ展開していく混成部隊。大群生地の規模にもよるが、制圧にはそれほどの時間は要さないだろう。


「これはさすがに想定外もいいところだよ」

「全く壮観ねぇ」

 ろくに出番の無い四人は悠長にその様を眺めている。

「こんな凄い大群生地。それもずいぶん浅い場所だなんて信じられませんですぅ」

「下手すりゃ、ナーフス園作らなくても問題ねえくらいじゃねえか?」

 いくらなんでもそれは過言であるが、そう思えるくらいの光景だった。これならこの群生地だけで予想の三倍以上の子株が手に入りそうである。

 適当にその辺の樹からもぎ取った完熟ナーフスを口にしつつそんな風に思っていた。


 アサルトから「大体片付けたぞ」という言葉を受け取ったカイは得意げなアキュアルの頭を撫でながら、子株の集積地を決めるために大群生地の中央辺りを目指す。レレムに渡した反転リング内の引っ越し荷物は既に集落に放出されてきており、それに詰め込んで持ち帰ればいいだけだ。


(これは楽ちんな探索行だったな。もしかしたらスーチ郷分の子株も集まっちゃうかも)


 それでもここから30ルッツ(36km)は東にあるスーチ郷用の集落の側でも、万が一のために群生地の探索は行っておかねばならないだろう。ナーフス園のように単一種で構成された植生では、病害虫が入った時に全滅の危機がある。保険は必要なのだ。

 それでもこんな大群生地の存続を見せつけられれば、この種は相当病害虫に抵抗力を持っているのではないかと思えてくる。


 その答えは程なくやってきた。


   ◇      ◇      ◇


「変なもん、見つけたにゃ!」

 宝物を発見したかのように、鼻高々でマルテが報告してきた。魔獣を掃討しつつ、子株の掘り出しに掛かっている獣人達の警護に巡回していたミルムグループは、少し奥まった所で奇妙なものを見つけたらしい。

「解った。ありがとう。連れていってくれる?」

「来るにゃ」

 アサルトと共に集積地で全体の監視に就いていた冒険者たちは、皆で移動を開始する。こんな状況下では、異常には全力で対処せねば何が起こるか解らない。


 危険な物とは思えないとミルムが口にしたので、それほど警戒せずにその場に向かったカイだったが、その足は完全に止まってしまった。


(いやいやいやいや、有り得ない! そんなバカな!)


 それは構造物跡に見える。風雨に曝されて侵食風化したと思われる構造物は、僅かに基礎だけが残っている。

 土魔法によって作り上げた構造物は風化に弱い。北部に見られる不朽大橋のように、特殊魔法による処理が無ければ十()単位での手入れ無しでは維持ができない。それはおそらく魔法によって強制された粒子間結合が時間経過と共に弱まっていく所為だろうと考えられる。

 しかし今、カイの前にある物はそれとは違う。彼が見慣れている物でありながら、この世界では(・・・・・・)見たことが無い物なのだから。


(これはコンクリート…、いや骨材が入っていないからモルタルって呼ぶやつか? しかも鉄筋まで入っているときてる)

 構造物の補強のために用いられていたと思われる、壁内に通されていた金属棒は、錆に侵されてくたりと折れ曲がった姿を晒している。

(どれほどの時間を掛ければこんな姿になる? 数百()か、千()単位か? 確かにセメント自体は僕の世界じゃ古代文明でも用いられていた技術だ。でも、この世界には必要の無い物のはず)


 形からしてこの構造物は、鉄筋を組んで型枠を起こして、その中にモルタルを流し込んで作られている。こんな技術系統はこの世界に存在しないと思っていた。触れるだけでサラサラと崩れてしまう基礎跡に手をやりつつ、そんなことを考えるカイ。


(僕の世界の転移者の産物か? でもこれは一人二人で何とかなるものじゃないぞ。あれ(・・)の影響か? ダッタンの前例もあるから、あり得ない話じゃない。しかし、この規模の構造物を作るほどの技術を伝えているのならば、文明圏にも痕跡が残っているはずだ。考え難い)


 転移者がこちらの人間を労働力として使ったのならば、確実に技術は流出する。それが簡易性と利便性で魔法に負けて駆逐されたとしても、その痕跡が物的にも情報的にも何らかの形で残っていると思える。

 確かにカイはこんな物が存在するとは知らなかったので調べたことが無い。それでも各地を巡る内に目や耳に入るはずだ。そのヒントは意外なところからもたらされた。


「これって、きっとゼプルの遺構ですぅ」

 側で同じく触れたり見回したりしていたフィノがそんな事を言う。

「え!? ゼプル? 遺構? 何それ? 教えて、フィノ!」

「え? ちょ? どうしたんですか、カイさん?」

 とんでもない食い付きにフィノは腰が引けている。

「ふぅ……、ごめんね。知っていることがあるなら教えてもらってもいい?」

「良いです、けど?」

 驚かせたのに気付き深呼吸してから尋ね直す。あまりに思索に耽っていたため、興奮がそのまま表に出てしまった。

「フィノも確信があるわけじゃないんですぅ」


 彼女はこれが各地に僅かに残る『ゼプルの遺構』と呼ばれる物ではないかと言う。

 フィノがそれのことを知ったのは単なる偶然で、市井の魔法講師の下で修業中の時、おとぎ話感覚で読んでいた古書の中に『ゼプルの遺構』を調査した資料を見つけ出したのだ。その内容の、あまりの荒唐無稽さに惹かれてしまい興味を持った。

 それから数回、フードを目深に被ってレンギアまで出向き、『ゼプルの遺構』の資料を探し回ったのだが、発見できたのはあまりに僅かな量だった。

 解ったのは、なぜそれが『ゼプルの遺構』と呼ばれるのかという理由だけ。とある遺構で埋もれていたボロボロの皮紙から読み取れた文字の内、それを作ったものの名が『ゼプル』だったからだということ。それ以外は資料ごとにあまりに見解が違い、どれも推測の域を出ない内容だと解る。


 フィノの語る内容は、その核心に迫るものではなかった。

発見の話です。まあ、こてこての伏線エピソードですね。「ゼプル}という単語を出したのも初めてだし、魔法の関係無い遺跡の存在に触れたのも初めてなので、頭の片隅に残しておいて今後を楽しみにしていただけると幸いです。次話でもうちょっとだけ触れますけど。

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