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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
ホルツレイン王家の人々

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新領の扱い

「謝っておかねばならんだろう、王太子よ。そなたをクナップバーデンに行かせた時、大きな期待はしていなかった」

 それまでは臣たちの議論に耳をそばだてていたクラインは、いきなり話題の中心に据えられて戸惑う。

「それまでは余の補佐はさせていたが、責任は持たせていなかった。そのそなたを一人で動かせ大きな負荷を掛けてみた時、どのような反応をするものか見てみたかっただけなのだ。ところが見事な働きを見せての地の乱れを見事に纏めてくれた。そして帰還したそなたは見違えるように逞しく頼れる者に成長しておるではないか。余は息子を大事に育て身を退くその()までに玉座に相応しき者に成ってくれれば良いと思っていたが、それは間違いだったと痛感した」

 環境や状況が人を育てるのだとアルバートは思い知ったのだ。

「だから此度の戦でもそなたを司令官とし、更なる成長を願った。確かに勝利に貢献したかと言えば疑問符であろう。だが能力ある者を十全に用い、その判断に責を負う姿勢は余を満足させるに十分である」

「ありがたきお言葉。私はこれからも陛下の御期待に沿えるべく努力したく存じます」

「うむ。ゆえに余は考えた。旧トレバ皇国の新たな領地、その全てをクラインに託したいと思う」


 現状、仮の措置ではあるが、新領は王国直轄地となっている。いずれは褒賞などの用途で臣下に賜れるのであろうと誰もが思っていた。ところがアルバートはその全てを王太子に渡すと言う。


「陛下! それは!」

 さすがに静聴していたグラウドも驚愕の声を上げた。

「御英断であろうかとは思います。しかしの地の統治には多大なる労力が必要であれば、王太子殿下お一人の身にはあまりに重すぎるかと?」

「それは皆が盛り立ててくれることと余は願う。知恵を合わせれば越えられぬ困難は無かろう。それが統治の在り方であろうと思うておる」

 そう言われれば臣下に否やは無い。転じて臣の存在意義に関わるからだ。

「それでは詳細に関しては改めて議題に上げさせていただいてよろしいでしょうか? 恥ずかしながら私にも準備が必要と思える案件でありますれば」


 纏めに掛かった政務卿の発言に皆もホッと胸を撫で下ろす。アルバートの意見に反対したいわけではない。

 新領は今はまだ安定はしていないが、安定したその時には新たな供給地になり新たな消費地に変わるのだ。その地の領主への配慮や貢献で、自領に欠けている資源や物品を優先して回してもらえたり産出品を大量に仕入れてもらえたりする可能性が高い。謂わば巨大な市場に変わるであろう地だ。

 現状、クラインに対してどれだけの投資ができるかを計らねばならない。それにはまず家令や代官など、自領の頭脳になり取り計らっている者の意見を聞かねば話にならないのである。その時間がどうしても必要なのだ。


「あの……、陛下、議題はゼインのことでありますれば、その……」

「無論だ。その前段として余の決意を表明したに過ぎぬ。ここからはそなたに問おう。王太子領となる新領を、領主の初仕事として巡察する気概はあるか? これまではゼインのこととして協議してきたが、そなたが自ら出向くのであれば家族の同行も許そう。そうなれば護衛を配するにも近衛に無理を言うこともできる」


 カイの提案でゼインを新領に向かわす。それに護衛を付けるとなると、それは結果的に臣下でもない者の要請で国務に携わる者を動かすことになってしまう。

 ゼインのために近衛を動かすのは問題は無いのだが、それを主導するのがカイだというのが問題になる。しかしそれが新領主の領地視察が目的となるならば、主導するのはクラインになり、当然国務の範疇に入るのだ。


「私としては願っても無いことでありますが、家族に相談するお時間をいただいても宜しいでしょうか? ゼインは前向きに考えている様子ではあるのですが、未だ妃には了承を得ておりませんので。早急に相談しお答えしたいと考えております」

「よく考えるが良かろう。重ね重ね言うが、の地が危険であることに変わりはない。そなたが向かうというのであれば無論近衛も付けるし、冒険者ギルドを通してカイのパーティーに護衛の指名依頼を出そう」

 ゼインの派遣に端を発した議論は予想外の展開を見せ、新たな方向に進むのだった。


 そしてクラインの戦いはここからである。


 彼にはセイナという強敵が待ち受けているのだ。


   ◇      ◇      ◇


(長いなぁ)

 フィノは思っていた。


 胡坐をかいたカイが両脇を抱えると後脚が何とか浮き、垂れ下がった尻尾が彼の足首に巻きついている。腹側の柔らかそうな白毛を見せているのはもちろんリドである。


「さあ、そろそろ観念しようか?」

「ぢっ!」

 ビクンと揺れた彼女の尻尾は内側に巻かれて動揺を表している。

「気付いてないとは思ってないよね? どうするつもりかと思ってずっと見逃してきたんだけど、あんな事もあったし限界かな。君はもう大人なはずだよ?」

「ちーうー……」

「あっ! リドさんってお幾つなんですか?」

「出会った時は本当に子供だったんだろうけど、あれからもう一輪半(一年半)以上は経っているからね」

 成獣になるには十分な期間である。

「それはどう考えても大人ですねぇ。フィノは風鼬ウインドフェレットさんの大人の姿を見たこと無いんですけど、小さいんですねぇ?」

「そんなこと無いよ。リドのお母さんは250メック(3m)はあったし、雄の成獣だと330メック(4m)くらいあったりするよ」

「……大きいですね」

「リドが突然変異じゃないって言い切れはしないけど、ちょっと考え難いよね? さて、どんな詐術トリックを使っているのかな?」

 カイが視線を合わせようと手を少し下げると、リドはプイと横を向いた。

「往生際が悪いね……」


「いっでぇー!」

 そんな遣り取りをしている横で大声を上げたのはトゥリオだ。

「ほら、ちゃんと正面に構えてくれないと当たっちゃうわよ?」

「嘘だろ、それ! 隙間狙って撃ってるだろうが!」


 ダインとの夜陰の戦いからチャムは、自身が動きながらのプレスガンの射撃の訓練を熱心にしている。走りながらでもある程度命中させられるよう慣らしているのだ。訓練の相手がカイになった時は動き回ってもらって偏差射撃の命中率も上がるよう努力している。


 今のようにトゥリオの時には大盾を構えさせて的にしているのだが、弾が時々すり抜けて彼の身体に達するのだ。

 もちろん使用しているのは木弾であるし、更に訓練用に強度を下げてある。使う糊の量を減らして衝撃に弱くしてあるのだ。

 だから当たっても痛い程度なのだが、それでもやっぱり相当痛い。チャムも頭部やその他の筋肉に覆われていない所は狙っていない。だが隙間が有れば狙っていっている。トゥリオにとっても弓矢に対した時に備えた訓練にしているのだ。


「だからちゃんと守るか避けるかしなさいって言ってるじゃないの」

「避けられるか! そんな矢の倍以上の速度で飛んでくる物!」

「カイは避けてるじゃないの?」

 確かに彼は訓練中も避けてみせる。

「そっちが異常なんだ、そっちが!」

「酷い言われようだなぁ」

「フィノたち後衛から見るととんでもない速度なのは確かなんですよぉ。本当に見て動いているのかいつも不思議に思ってますもん」

 後衛仲間から一応のフォローが入る。

「そのくらいにしといたら? それ以上、痣が増えると要らぬ誤解を受けそうだし」

「そうね。もう訓練弾も尽きそうだわ」

「あ、そう。これが済んだら作っておくから」

 青年には片手間の仕事だ。

「何やっていたの?」

「今からリドの秘密を暴くんだよ」

「あら、それは訓練どころじゃなかったわね」

「ちゅー……」


 退路を失って観念の鳴きが入るリドだった。

転じて新領の話です。平定まではまだ些少の時が必要なその地にもドラマがあるであろうと、クラインに再臨願おうかと思う次第であります。何より彼に動いてもらわねばセイナが動けず、僕が彼女に恨まれてしまいそうなんですよね(笑)。

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