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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
ホルツレイン王家の人々

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212/892

セイナの素質

 魔法構成というのは少なからず個人差がある。数学と違って結果さえ同じならば過程など関係ないからだ。

 もちろん構成の編み方によって使用する演算領域に差が出てきてしまうため、脳に掛かる負担に差は出る。だがそれは気になるほどの大きな差異にはなり得ない。普通の魔法士は脳への負担で問題が出てくる前に魔力のほうに限界が来てしまう。

 脳への負担を考えねばならないような魔法士は独自に負担を軽減するよう工夫をする。それは魔力の成長過程で行われるもので、他人に教わるようなものではないと考えられている。


 魔力が高く魔法士を志す者は、魔法士あるいは魔法講師に師事する。師に当る者は魔法の考え方やイメージのし方を教え、実践を見守り誤りを修正しつつ導く。脳内では法則性のある文章というよりは、個々のイメージで構成されて表現されている所為とも言える。

 魔法構成は文字や文章で表せるものでありながら、その変換に素質を必要とする。例えるならば世界に訴えかけられるほどの文章力が必要になってくるのである。だが魔法士を志す者皆にその教養や素質があるわけではない現実は、その伝承を口伝や抽象的なイメージの伝達に限らせている。


 もう一つ接触伝達という方法があることはある。身体を接触させた状態で魔法を使用し、その構成を相手に読み取らせる方法だ。だがこの方法は伝承に不向きだとされている。イメージには個人差があり、同じ構成を編んでいるつもりでもイメージの差が影響して変質する場合が多々ある所為だろう。

 これを多用したりすると個人のイメージ力を壊してしまい、最悪魔力は十分あるのに魔法が使用できなくなったりしてしまう可能性さえある。


「じゃあやってみようか?」


 地面にペタリと座っているフィノの懐にセイナは深く腰掛けて身体を接触させている。一般に危険だとされる接触伝達を試みようとしているように見える。

 普通と違うところと云えば、むしろセイナの差し出した手にフィノが触れている点であろう。


「では土を」

 目を閉じたセイナは大地をイメージしてそれを形にしようとする。フィノはその拙いながらも編まれようとする構成を読み取る。

「ダメですね。イメージがきちんと構成に変換されていません」

「素質はありませんか?」

「残念ながら」

 続いて水・火・風・雷を試していく。

「セイナ様は水の魔法士になれそうですぅ。イメージもハッキリしていましたし、構成も発現したとしてもおかしくないほどでしたぁ」

「本当ですか!? 良かった」


 まだ杖も持っていないし、魔力の注ぎ方も覚束ない彼女では、魔法という形にまではならない。

 不安感からくるイメージ力不足を確認するように水以外の属性をもう一度確かめるが大きな向上は見られず断念する。そして更に光・闇と確認していく。


「光も大丈夫そうですぅ。フィノもあまり得意でないので断言できませんが」

「やった! 二属性ありました!」

「うん、仕事にできるくらいの素養があるみたいだね」


 魔法士としての素質と適性属性の確認作業を終えると、二人は次の段階に移る。

「はい、これは僕からの贈り物だよ」

「嬉しいです! これからは肌身離さず持ち歩くようにしますね」

 カイから初心者向けのロッドを渡されると、セイナはそれをギュッと抱き締め満面の笑みで応える。

「それは初心者用に作ったものだから、早く卒業するようにしてね」

「あ……、はい」


 彼女は自分の勘違いを恥じて赤くなって俯く。

 確かにそのロッドは初心者用の短い物だが、かなり高純度のミスリル製で先端の魔石は選りすぐりの高品位の物が取り付けられている。もちろんカイのお手製だ。


「ではイメージ合わせをしてみましょう?」

「はい!」


 セイナは促されるままに杖を持たない左手をフィノの右手に指を絡めて繋ぐ。より密着させてお互いを読みやすくするためだ。

 セイナはフィノの中の水のイメージを感じる。それは複雑でそして具体的で自分の中のイメージがどれだけ稚拙であったか恥ずかしくなるほどのものだった。圧倒されそうになる自分を奮起させて、追いつこうと手を伸ばすようにイメージを高めていく。


「そう、そんな感じです」

「もう少し…」

 セイナは自分の中に確固たるものができつつあるように感じる。それを固めて忘れないように刻み付けるように強く意識する。


「まずは視てください」

 フィノの中でイメージに補強された魔法構成が編み上がっていき、その構成を魔力が伝っていくのが解る。

水球(スフィア)

 驚いたことにフィノはロッド無しで児戯であるかのように直径12メック(15cm)ほどの水の球を生み出した。

「視えましたか?」

「はい」

「では転写するのではなく真似するように構成を編んでみてください」

 自分のイメージに合うように水を生み出す構成をゆっくりと編み上げた。

「そうです。それを杖に注ぎ込むように意識するのです」

 魔法構成は腕を伝ってロッドに吸い込まれると、そこからは一瞬で魔石の魔力回路に転写されたのが体感できた。

「では魔力を流し込んだら発声トリガーアクションで発現します。流し込む魔力量に注意して発現させてみてください」

 セイナは湧き上がる興奮を必死で抑えて集中する。子供の頃から慣れ親しんだ魔力を、量を調整しつつロッドに注ぎ、魔石の魔法構成を伝わっていくのを認識しながら発声した。

水球(スフィア)!」

 するとロッドの延長上に直径25メック(30cm)はある水球が浮かび上がった。

「あ!」

「あんなに魔力を注げばこうなりますぅ。ご自分の魔力量を過小評価されているみたいですねぇ? 次から調整しやすくなるでしょう」

 フィノはその水球を向こうに飛ばすように風で押した。


 カイが危険だと言われる接触伝達に踏み切ったのは理由がある。それはリドに学習させて成功しているのもある。だが感覚的に理解する魔獣と人間は違う。問題になるのはイメージの違いだ。それはチャムに『倉庫』の構成を読ませて成功しているのが参考になった。

 お互いに確固たるイメージがあり共有できればコピーも可能だということだ。ならば事前にイメージ合わせをすれば要領を読み取らせるのも難しくないはず。

 もちろんこの方法はフィノのようなほとんどの属性を扱える達人の存在が在ってこそ取れる手段でもある。普通の魔法士や魔法講師には少々難しいだろう。


氷塊(アイスロック)!」

 ロッドの先には小粒の氷が出来上がった。

「はい、そんな感じでイメージを膨らませていけば色んな魔法が使えるようになりますから」

「ありがとうございます、先生!」

「ひゃっ! そんなぁ……、先生なんてぇ……」

「フィノ様はわたくしの魔法の先生だから先生です」

 フィノはくすぐったそうに頭を抱え込んで頬を染めている。


「じゃあ、光属性は僕の担当かな?」

「カイ兄様が? お願いします!」

 喜色満面で駆け寄ろうとするセイナを押し留めるようとする者が居る。

「気をしっかり持つのよ、セイナ」

「自分を失わないようにしてくださいね、セイナ様」

「?」

 『倉庫』の合わせをして飲まれかけた二人が徒党を組んで注意する。

「心配性だなぁ」

「あなたにそんなこと言う権利は無いわ」


「ひゃああっ!」

 フィノの時と同じ体勢を取ったセイナは、カイの腕に触れて光のイメージを読もうとしたのだが、押し寄せる情報量に押し流されそうになってしまう。


(そんな! うそ! 光って明るいってことじゃないの? なにこれっ! 光が存在してる! こんなこと!)


「ああぅ…」

 カイの膝の上でクタッとなって頭をフラフラさせる。

「だから加減なさいって!」

「やると思いました!」

 両サイドから後頭部をはたかれて涙目になるカイ。

「だって僕が思う光ってこれ以外に無いんだし…」


光輝(グレア)!」


 チャムとフィノの二人はカイを半目で睨む。普通の光輝(グレア)は暖かな黄色味がかった光を放つものだ。だがロッドの先に浮かび上がる光球は冴えわたる青白い光で周囲を照らしている。

 カイの知識量に影響されてしまったセイナの光のイメージは変質してしまった。こうなるともう取り返しは付かない。


「ちゃんと機能しているんだから知識は邪魔しないんじゃないかな?」

「これを見てそう言えるあなたの度胸は買うわ」

「カイ兄様は異常です!」


 基本的に肯定してくれるセイナにまで非難されてちょっと傷付くカイなのだった。

セイナの魔法習得の話です。やっぱりセイナの話で一話が目いっぱいでした。結構端折っていた説明をきちんと語ろうとするとどうしてもこうなっちゃいますな。途中から「ヤバいかな?」と思ったけど一話に収まったので次話はゼインの話です。

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