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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
釣り人の幸福

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釣り日和

 河原にある岩を一つ持ってきて、長さ350メック(4.2m)150メック(1.8m)の平坦な石板を作り上げる。カーボン製黒粘土をその上でかなり薄めに広げた。

 次に、型になる金属棒の形成だ。手元で太さ1.5メック(18mm)でそこから平均的に細くなっていく、針のような形にする。その芯棒を黒粘土の上に置くと、数回転分ほど巻き付け余分を切り取る。芯棒に巻き付けたまま脇にずらすと、フィノの魔法で焼成してもらう。焼成硬化を終えたら、中の金属芯棒をグッと捻って抜き取った。


 これで一応釣り竿の形にはなった。竿尻を変形させて蓋をすると、取り上げて軽く振ってみる。完成品は優美にしなり、ヒュンヒュンと風切り音を立てる。こうなると黙っていられない人が一名。


「振らせて! お願い?」

「良いけど、これは試作品だから僕の分だよ」

「ええー」

「だから二本目からのほうが出来が良いんだってば」

 長さ250メック(3m)の竿はチャムの手を以っても軽々と扱え、美しい風切り音を響かせた。

「軽い…」

「そこがカーボン製の一番の利点かな」


 前回の、中身の詰まった木製竿より軽くできた。

 250メック(3m)というのはルアーロッドとしてはかなり長い方になると思うが、リールの性能が低く投げ込み方法に難がある以上スイングリーチで距離を稼ぐためと、何より一昨陽(おとつい)捕り込んだような巨魚の存在が要因になっている。

 釣り具(タックル)の性能不足で捕り逃がして辛酸を嘗めるくらいなら、初めから準備しておいたほうがいい。カイの基本スタイルだ。


 釣り竿本体は形になったので部品の取り付けに入る。

 まず、竿尻から25メック(30cm)の位置に、T字状のリールの脚を焼成しておいてもらったカーボン帯で巻き付け、融着させる。更に釣り糸を通す輪(ラインガイド)を一定間隔で、竿先に行くほど短い間隔にして取り付けていく。手元には幅の狭い革帯を滑り止めに巻いていき軽く融着させておく。


「完成!」

 見た目からして異世界には違和感有り有りの代物になってしまったが、まあ事前の調べ物が十分検討できていて成功した結果なのだろう。

「凄いわ。もうこれでいいから頂戴」

「いや、これは僕の分だって。よく考えて、チャム。この見当で作った試作品と、これから作る君専用に調整した製品とどっちがいい?」

「う、…専用がいい」

「じゃあ、今から作るからね」

「うん!」


 釣り竿本体は同じ芯棒で作成するが、リールの取り付け位置を微調整してガイドの位置も少し短めに合わせた専用品をそれぞれに作り上げていく。

 そしていよいよ皆が巻き取った蜘蛛糸の出番だ。地面に立てたY字の棒の上に巻き取った糸を設置し、ガイドを通してリールのスプールに結び付けたらハンドルを回してカリカリと巻き取っていく。手本としてカイが大体25ルステン(300m)分ほど巻き付けたら交代し、チャムから順に巻き取り作業をする。


 彼女の顔がニヤニヤしまくっているのは御愛嬌で。


   ◇      ◇      ◇


 皆が完成した釣り竿を思い思いに眺めながらお茶休憩を取ったところで、カイが伝える。

「ここまで結構苦労して釣り道具を作ってきたわけなんだけど、実はこれが本格的に仕事をするのは魚を掛けてからなんだよね」

「「「!」」」

「釣果の良し悪しはむしろ疑似餌ルアーのほうに依存するんだ」

「そ、それはそうよね」

 魚と直に接するのは疑似餌ルアーなのは道理である。

「それは皆が工夫して作ってみようか?」

「やってやるわ!」

「フィノも楽しみですぅ」

「俺は別に…、いや自分でやらないとな」

 非難の目が集中するとトゥリオは簡単に前言を翻した。


 基本の形はカイが作るが、微妙な変形や彩色に関してはお任せにしてみた。一般的には目玉模様に加えていくのが普通だが、異世界人ならではの発想が出てくるのが楽しみである。

 トゥリオは実際の魚に寄せていく方向みたいだが、女性陣は赤や黄色といった鮮やかな色を大胆に用いているのが目立つ。実はこれが悪くないのがルアーというものだ。そんな魚なんか居るわけないという物に食い付いてくる不思議な傾向がある。


 例えば日本には、ミミズのような管形生物を模したワームという疑似餌ルアーが有るが、その種類には蛍光色の物まである。実際に蛍光色のミミズなんて居たら気色悪いことこの上ない。

 なのに魚には美味しそうに見えるらしい。研究者が居れば何らかの見解があるのかもしれないが、あいにくカイにはそんなものは無い。


 結局、その()は昼食も挟んでワイワイキャイキャイと疑似餌ルアー作りをして過ごした。


   ◇      ◇      ◇


 昨陽(きのう)の夕方には雨が止んでいたので、朝には増水も収まっている。今陽(きょう)は釣り日和だ。


 川に入ろうとするとセネル鳥(せねるちょう)たちが騎乗をせがんでくる。食べさせてもらう以上、多少は役に立ちたいらしく、足場になるつもりらしい。

 それぞれに作成した疑似餌ルアーを川に投げ入れていく。意外にも最初に魚を掛けたのはフィノだった。捕り込んだ25メック(30cm)強の魚を嬉しそうに魚籠びくに入れる。これも昨夜の内にカイが作っておいたものだ。

 皆が一様に釣り上げていくが、テクニックではカイが一歩リードしている。竿を操作してルアーにアクションを加えて獲物を誘う。それを見たチャムは真似をして順調に釣果を上げていく。


 程良く釣果が集まったところでカイだけは竿を納めて干物作りに移る。軽く塩をしただけで干物にするセネル鳥のおやつ用の物と、普通に塩をした自分達用、実験的に魚醤を塗り付けて干す物を作っていく。以前、作った生干し魚は良い感じに出来上がっている。半身ずつリドと分けて齧りながら魚を捌いていく。


「ちゅーい!」

「美味しい?」

「ちゅちゅーい!」

 日中での作業だ。こうして塩分を補給しつつ作業しなければ問題が出てきてしまう。後で三人にも配っておかなければならないだろう。


「きたー!」


 チャムに大物が掛かったらしい。朝のうちに操作法は説明してあるので手伝いは不要だろう。手元の分の糸を繰り出すと、今度はスプールに手を添えてブレーキを掛けたらリールの板バネツマミを引いて糸を出していき泳がせる。魚が横移動をすると竿を寝かせて対応し、更にブルーが合わせて移動することで出る糸は最小限にできている。


「いいわー、これ。全然楽だし、竿を伝わって魚の動きが手に取るように解るわー」

「チャムの背中に熟練者の風格を感じるんだけど気の所為かな?」

「ちゅちゅ?」

「キュウ?」


 安定した竿捌きとリールの操作で引き寄せていく。カイが捕り込みを手伝いに行った頃には、魚はかなりお疲れ(グロッキー)な様子だった。簡単に鰓に手を入れて持ち上げると、彼女は左手を差し上げた後に竿にキスしている。獲物は70メック(84cm)ほどの良型。先陽(せんじつ)の巨魚ほどではないが、十分な戦果だろう。


「どう? 今夜のおかずには十分でしょう?」

「もちろんだよ。他の魚を捌きながら調理法を考えておくね」

「期待してるわ」

 とりあえず血抜きだけして『倉庫』行きにする。


 後はトゥリオの竿にも大物が掛かったのだが、強引に引き寄せようとしてバラしてしまった。チャムにせせら笑われて、かなり悔しそうにしている。それでも皆が40メック(50cm)クラスの魚は捕り込んで満足気に釣りを終えることができた。

 魚の確保は十分にできたし皆も楽しんだようなので、掛けた手間も報われようというものだ。


 こうした、のんびりとした陽々(日々)も旅の醍醐味だ。

釣り竿完成の話です。これにて釣り人の幸福(アングラーハッピー)編は終了しました。ネタばらしと少々の伏線は含みますが、完全に偏った内容のエピソード。これでPV数がガタ落ちしたら大失敗な訳ですが、それを今後のストーリーに反映するかは決めてません。そして獣人居留地編も完全終了し、次話からはトレバ編に入ります。

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