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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
獣人郷の未来

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商人選定

 キルティス・クラビットは驚嘆した。いきなり何かと思えば、目の前の冒険者らしい青年がナーフスを商えと言うのだ。

 彼も商人の端くれである。ナーフスの名前くらいは聞いたことがあった。ただ、それがどういう物であって、現在レンギアでどういう扱いになっているかまでは明るくない。それを正直に伝えると、彼は心得たとばかりに話を進めようとする。

「それに関してはここで話すよりは実物を見てもらった方が早いと考えています。ただ、取引相手は僕ではなくごうの人になるので、まず彼と話してみてもらえませんか?」

 そう言ってカイはトリマイを示した。


「どうもそういう話らしいのですが、それは私で構わないんでしょうか? 我々はあなた方の信頼を失ったばかりだと思うのですが」

 カイやチャムは、キルティスがあまりにも真正直過ぎて商人としてやっていけてるのかどうかが不安になる。だが、この場合、必要なのはこういう人材だ。獣人とでも誠実に付き合ってくれる者でなければ任せられない。それはトリマイにも十分に伝わったようで、彼の顔には笑顔が浮かんできた。

「お気遣いありがとうございます。よろしければトリマイは貴方との商談を進めたいと思います。デデンテ郷に招待したいのですが、ご都合はよろしいでしょうか?」

「私は今、小麦粉しか扱っていません。現状、必需品の金属器以外は捌けないような気がしますので問題無いかと思います」

 留まって商売にしがみ付いたところで、儲けは期待薄なのも事実だろう。

「では、今手持ちの小麦粉は僕が買い取らせてもらいます。少なくなってきていますし、今後も必要な物なので幾らあっても構いませんし」

「そうよね。こんなに獣人居留地ここに長居するとは思ってなかったものね」

 キルティスは結構な量がまだあることを伝えてきたが、カイは問題無いと返した。


 トゥリオに、先にデデンテ郷に戻ることを伝えると、彼は(あっ!)という顔をする。その可能性を失念していたらしい。それでもフィノに「お願いしますね」と言われると、気を取り直して胸を張る。その単純さが彼の救いなのかどうかは解らないが、精神こころの健常さに貢献しているのは間違いないだろう。

「いやいや、小麦粉全部持ってくのは勘弁してくれよ。買えなくて困る奴が出てきたらどうすんだよ?」

「そう言ってもクラビット氏に損をさせるのは忍びないじゃないか」


 商品の小麦粉が無くなるのは困ると言ってくる。なぜこういうとこだけ細かいのかは不思議に思う。おそらく前のパーティーでの経験が所帯臭さを出しているのだろう。

 放っておけば食事が出てきたりと、何くれとなく面倒を見てくれる者が居る暮らしなど市井には無いと気付くまでそれなりに恥を掻いてきたと予想できる。


「じゃ、半分だけ残していくよ」

「その分は王国に持たせる。俺が立て替えとくぜ」

 最後にブラックは放しておかないと彼女が勝手に狩りに行けないことを伝えて別れる。


 デデンテ郷での再会を約して。


   ◇      ◇      ◇


「つまんないにゃー! 全然買い物できなかったにゃー!」

「こらこら、あまり駄々こねないの」


 あの状態の隊商用地(サイト)で買い物したって何も面白いことは無かっただろうが、楽しみを奪われたように感じられて仕方ないのだろう。チャムに注意されたらまた噛み付いてくるかと思ったが、ただぶすっとしているところを見ると理解はできているはずだ。


「今回は本当に巡り合わせが悪かったので、また隊商用地(サイト)に行けるようにレレムに言っておいてあげますから」

「ほんとかにゃ!?」

 トリマイの執り成しを受けて少しは機嫌が直ったようだが何か考えてやらねばいけないとカイは心に留めておく。


 今の計画だと、郷に直接隊商が来るようになれば、皆が気楽に買い物を楽しめるようになるはずだが、それはもうちょっと先になってしまう。獣人たちが「買い物」というものに慣れるには更に時間が掛かるだろう。

 それでも彼らが経済を理解できるようにならなければ、豊かさを正しく享受するのは難しいと思う。改革の波が押し寄せるだろう獣人郷に思いを馳せれば、試行錯誤の陽々(ひび)になってしまうのは否めない。その先に彼らの幸せな未来があるのを信じるしかない。


 馬車に同乗しているキルティスが同じ思いを抱いてくれれば、その未来は確実に近付いてきてくれるのだが。


   ◇      ◇      ◇


 デデンテ郷の遠景はなかなかに凄まじいものに変化している。


 以前は獣道が続く先に柵に囲まれた集落があっただけなのだが、今はもう南側の一部を除いて周囲をナーフスの林に囲まれて、ひと口齧ったドーナツみたいになっていた。北側の簡易門を開けて中に入るとその姿を認めていたのか、わっと仔猫たちが駆け寄ってきた。


「お帰りにゃー!」

「マルテ、帰ってきたにゃー!」

「知らない人族もいるにゃー!」

「カイー!」


 途端にわらわらとたかってきたのでパープルは動けなくなってしまう。仕方なくカイはパープルから降りて彼らに自由にさせる。彼の身体によじ登る者、そのままパープルの背に登頂成功する者などでやっと落ち着いた感じだ。


「お客さんが居るから郷に戻るからね?」

「にゃー!」

 一斉に返事をしてくる仔猫たちの様子を見て、キルティスも目を和ませている。

「これが全部ナーフスの木なんですよ。これの果実を買い取ってほしいのです。ほら、あそこに生っているのなんか結構育ってますよ。今はまだ未熟で緑色をしていますが、熟したら黄色くなります」

「ああ、あれですか」

 カイが指差して示すとキルティスもやっとナーフスというものが理解できてきたらしい。

 現状はその価値を正しく理解しているのはフリギア貴族くらいのものだろうが、纏まった量を流通させることができるようになれば十分に利益は見込めると伝える。

「見ただけでは解らないでしょうから、後ほど実際に味わっていただきたいと思っています」

「そうさせていただけると助かります。知らないことにはどうにも売るのは難しいもので」

「それは理解しているつもりですので」


 後を継いでトリマイが現実的な話をしていく。彼らの仲も徐々に縮まってきている。そのためにキルティスは隊商馬車は随伴させて自身は獣人たちの馬車に同乗し、会話を続けてきたのだろうから。

 その配慮で彼は信頼を勝ち得てきたのだろう。それは彼の商人としての基本方針なのかもしれない。


「レレムは帰ってる?」

「まだにゃー!」

「帰ってきてないにゃー!」

 口々に返ってくる返事に苦笑しながら、カイはトリマイに首を振って示す。

「クラビットさん。我らが長レレムは長の集会で外しているのですが、トリマイの権限で商品の確認はしてもらおうとは思っています。ただ、最終決定はレレムに委ねますので、長が戻ってくるまでご滞在くださいますようお願いいたします」

「それは郷の負担になりませんか? 何でしたら改めてお伺いしますが」

「おそらく数陽(すうじつ)のことですので構いません。歓迎いたします」

 そんな会話の後に彼らは郷に入っていく。仔猫たちはカイとマルテに追い立てられて、「にゃー!!」「みゃー!!」と歓声を上げながら郷の中に散っていった。それを笑顔で迎えるデデンテ郷の住人たち。


 予想通り三陽(みっか)の後にレレムは帰ってきた。


 連れてきた人々の中に、カイたちには予想外の人物が混ざっていたのだったが。

デデンテ郷への帰途の話です。この辺りのエピソードも気持ちよく膨らんできてくれてますね。話が進まない進まない。でも信頼関係も大事なんで、サラッと流しちゃうのもなんだしなぁと思って書き込んでました。退屈な話だったら申し訳ないです。

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