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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
獣人郷の未来

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獣人生活

 元々レレムは長ではなかった。彼女の連れ合いが長に就いていたのだ。

 ヤマシマネコ連で最も狩りが上手く誠実な彼だったが、或る時突然、ごうの女性を魔獣から庇って逝ってしまった。

 臨時に郷の遣り繰りを任されたレレムだったが、郷の中では高い知性の持ち主だった彼女が狩場のローテーションやサイトへの購入物の決定を行うようになると郷は非常に効率良く回るようになり、なりゆきで正式な長への就任が決まった。

 そんな異色な長が率いるデデンテ郷に冒険者の旅人がやってきたのだ。


 彼ら全ての自己紹介を受けた後にレレムは切り出してきた。

「それでどのような御用であなた方はデデンテ郷にいらしたのですか? この辺りでは依頼も出てはいないはずですし、わざわざ狩りに来るほどの魔獣は居ないはずですけれど」


 レレムの言は間違いではないのだが、魔獣の濃さで言えばこの辺りの密林は平野部では類を見ないほどになる。それこそ獣人の身体能力なしでは暮らせないほどなのだ。

 だからと言って冒険者が密林まで狩りに来ることは無い。危険過ぎて得られるポイントに見合わないからだ。

 それならば平野部でコツコツ稼いだ方が確実性が高い。獣人居留地とはそういう土地だ。


 レレム宅でお茶をいただきながら、そんな話になる。

「こう言っては怒られてしまうかもしれませんが、正直に言って物見遊山です。獣人の方々がどんな暮らしをしていらっしゃるのか知りたかったんです」

「それはまた酔狂なのですね。何もない、危ないだけの地にそんな理由でいらっしゃるとは」

 その理由はレレムには苦笑いの原因にしかならない。

「変なことは何もないにゃ。マルテが、人族がどんな奴か気になるみたいに人族だって気にしてるかもしれないにゃ」

「人族の街にも我ら獣人の仲間はいっぱい居ます。彼らに話を聞くだけでもレレムたちがどんなに質素な暮らしをしているかはすぐに分かるものですよ? それがどんなに興味をそそられないものかを」

「そんなの分からないにゃ。レレムが何でも知ってると思ったら大間違いにゃ。これだから説教ババアは」

「黙らっしゃい! 語尾も抜けない子供の出番ではありません!」

 マルテの語尾の「にゃ」はどうやら子供の習慣らしい。

「まあまあ、レレムさん。マルテの言うことは一理あるのですよ。聞くと見るとではずいぶん違うものなんです。僕達が酔狂だというのは決して否めないのですが」

「もう、お客様に気を遣わせてしまって。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました。どうかレレムのことはただレレムとお呼びください」

 聡明な彼女にも逆鱗は存在するらしい。それを可笑しく感じると共に、自分のことも呼び捨てで構わないと伝える。


 カイは興味の中心である彼らの暮らしに言及していく。

「基本的に狩猟採集生活なのは解るのですが、それだけでは人間の食生活は成り立たないと僕は思っています。栄養源はどうなさっているのでしょう?」

「肉類は魔獣の肉、菜類は採集で賄われていますが、もう一つ必要なのは確かです」

「炭水化物ですね?」


 レレムはそれがどういう風に呼ばれているかは知らない。チャムたちでさえ、それを穀類としてしか知らない。精々は植物学を生業とする人種が栄養素としてそれを認識している程度だ。なので一応「炭水化物」に該当する単語も存在した。

 獣人の郷では森に自生する僅かな豆類も採集している。しかし、それは郷の人間の全てを賄うにはあまりにも少ない量だ。なので彼らは「ツレ芋」と呼ばれる芋を、郷の外れで栽培しているのだそうだ。

 それはもちろんフィノも知ってはいたが、そこまで深く食生活に関して話していなかったのでカイたちは知らなかったのだ。


「残り物で申し訳ないのですが、これがそうです」

 煮物のような芋料理をレレムは出してくれた。

「これは…! 全然美味しくないですね」

「やはりそう思われますよね?」


 レレムにとってもそれは懸案事項だったようだ。

 長という立場であれば、できる限りの範囲で郷の人にはせめて食くらいは豊かな物を提供したい。そのための努力は惜しまず様々な試みをしてみたのだが、上手くいかなかったと言う。

 

 この大陸北部では、()に一度は短時間豪雨が降る。いわゆるスコールと呼ばれる雨だ。それは農作物には恵みの雨に思われるかもしれないが、実は逆効果になってしまっている。

 そこが密林ならば、根が張り巡らされ程よく耕されており、更にその根が水分を吸収し、吸い上げられて樹木の葉から放散される。

 ところが耕した畑では話が変わってくる。一時的な大量の水は土に溜り作物の根を腐らせる。一般的な農作物にはある程度の乾燥も必要なのだ。

 水捌けの良い土地柄ならばそんな雨にも耐えられたかもしれないが、この北部の肥沃であっても粘土質の大地は受け入れてくれなかった。


「これまでも試みてこられたと思いながらも、様々な種を隊商用地サイトを通して購入して植えてみました。でも、やはりツレ芋以外の作物は育ってくれませんでした。悔しくもありましたが、我々はツレ芋に頼って生きていくしかないようです」

「それは困りものですね」


 この問題を技術的に解決する方法はあるとは思う。しかし、それには当然かなりの労働力を要求するものであるだろうし、狩猟採集と農業を分ける分業制を導入していないこの地には向かない。

 ただでさえ時間を要するであろう狩猟採集を農業が圧迫するようでは意味が無いのだ。そんな農業は獣人には向かない。


 レレムに様々な生活のことを聞いた後、一軒の空き家を借り受けてカイたちはそこに落ち着いた。

「確かに見ると聞くとでは大違いだったわねえ」

「うーん、こんなに大変な生活だとは思わなかったよ。この辺りくらい魔獣が濃いと牧畜なんて夢のまた夢だろうし」

「フィノたち獣人の暮らしなんてどこもこんなものなのですよぅ?」

 説明を受けるが、それは逆効果も生む。

「助け合わなきゃ生きるのも大変な土地でもフィノは差別を受けたんだな」

「あ…、それはその、獣人の本能みたいなものなので…」

「それでも郷を庇うのかよ。人が好過ぎるんじゃねえか?」

「フリギアの貴族様では解らないかもしれませんが、厳しい土地ほど同族意識と連帯感は強くなってくるものなんですぅ」


 ここまでの旅路でトゥリオはフィノにデクトラント公爵家の人間であると告げていた。

 その時のトゥリオは自分の正体を明かすことで誠意を見せようと思ったのだが、フィノには逆に壁を感じさせてしまったようだ。

 一度話してしまっては引っ込みもつかず、折に触れて気にしないよう言い聞かせてはいるが、あまり成功していない。


   ◇      ◇      ◇


 翌朝、郷から少し離れて鍛錬を行った後は、それぞれが自由に郷を見て回るようにした。

 各人で興味が分かれるところではあるし、話し合ってそうしたのだ。トゥリオはフィノを熱心に掻き口説いて案内代わりに同行してくれるように段取りしたようだ。

 とは言え、その()は郷の者は狩りに出ていたので、残った住人たちの生活を見るに限られていたが。


 カイが通りがかった、その小屋に毛が生えた程度の家屋からはずっとそれが聞こえてくる。

 表現するならば、「にー」とか「みー」とかそれらが入り混じった大量の鳴き声のようなものが。そんな状況で彼が我慢することなどできるわけもなく、そっと扉を開く。


 そこには他では想像だにできない光景が広がっていた。

獣人食事情の話です。今回に関してはそんなに調べ物をせずに書き上げたので、専門家の方から見ると何言ってんだ的な内容かもしれませんが、そういうものだと思ってご寛恕くださいませ。何せ「品種改良?なにそれ美味しいの?」な世界ですので。

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