息子はサギ!?
職場の”家に帰りたくない”が口癖の上司と、町内会の掲示板を見て何となく思い付いた話。
頭を空っぽにしてお楽しみ下さい。
すっかり陽が沈んだ夜8時。
中年の男性が歩いている。
歳は40〜50歳あたりか。
車通りの多い道では無い。
むしろ、一本奥まった小路である。
バス代を浮かせるために駅から歩いて来たと言う所だろう。
その姿は見るからに人生に疲れたサラリーマンである。
ふと男性は、それまでふらふらと動かしていた視線をある一点に固定させた。
その視線の先には町内会の掲示板がある。
所狭しと、いくつものポスターやお知らせが貼られていた。
男性の視線は、その中の一点で止まったままだ。
『息子はサギ!?』
それは“オレオレ詐欺”や“振り込め詐欺”に対する注意喚起のポスターだった。
黒地に『息子はサギ!?』と白抜きの文字が書かれただけの小さなポスター。
そのポスターの何が男性の琴線に触れたのか。
男性はしばらくポスターを眺めていたが、やがて家路に就いた。
その胸に大いなる野望を秘めて。
男性が帰宅すると家では妻と長女と長男が夕飯を食べていた。
その食事も、もう終わりそうだ。
「ミサエ、帰るって連絡したんだから、待っていてくれてもいいじゃないか」
「お腹が空いて待ちきれなかったのよ。 もう少し早く帰って来てくれればいいのに」
――また一人で食べるのか…
諦めて着替えを済ますと男性は食卓に着いた。
そして食事をしていたが、思い出したように息子に声を掛けた。
「おいケンタ。 お前は鷺なのか?」
テレビを見ていた息子が男性を振り向いて言った。
「何で俺がシュウなんだよ。 俺はシュウよりレイが好きなんだ」
――何だと!? あのシュウの生き様が判らないとは、まだまだ子供だな
そう思ったが口には出さない男性。
すると娘が会話に加わった。
「ケンタが白鷺なら私は白鳥ね」
「だから何で俺がシュウなんだよ! レイは俺だって言っただろう!」
思っていたのとは違う展開だが、男性が考えていた通り、家族に会話を作る事には成功したようだ。
「あらあら、なら私はアヒルってこと? 酷いわね〜」
母親がそこへ加わった。
話題は何故か世紀末から童話へと変わってしまったが、まあ問題は無い。
そして、これは男性が会話に加わるチャンスだった。
「じゃあ俺もアヒルかあ?」
上手く会話に乗った!
だが、そう思ったのは男性だけらしい。
家族三人は白けた目で男性を見ると、母親が代表して言った。
「何バカな事言ってるの? あなたは飼育員のおじさんに決まってるでしょ!」
嗚呼、世の父親たちよ。
その努力が報われんことを切に願う。




