第陸章
俺が目覚めたら隣に見慣れた顔がいた
「なんでお前が………」
伊達が横のベットで眠っていた
「………」
伊達は意識を失っているようだ
全く反応がない
「一体なにが…」
伊達が呟く
扉が開いた
一人の男が入ってきた
「あ、あなたは…吉田参事官」
男の名は吉田松陰
能力名: 一君万民論
防衛省の参事官だという話だがどうも胡散臭い
なぜなら国内でも屈指の強力な偉能者であるからだ
普通そんな強力な偉能者が防衛省の背広組な訳がない
だから偉能犯罪対策課内では政府、もしくは自衛隊の秘密組織の人間なのではと言われている
吉田が俺に近づいて、椅子に座った
「具合はどうですか?」
吉田が問うてきた
「問題ないです、吉田さん」
俺は答えた
「伊達に何があったかご存じ無いですか?」
俺は吉田に聞いた
「彼はコシュマールとマリンギャングの幹部を一人で相手取ったのだよ」
俺は衝撃を受けた
伊達はそんな無茶をするやつだとは思っていなかったからだ
「こちらのSATもほぼ全員が重傷だ…死者が出なかったのが奇跡だよ…
敵の幹部には逃げられたがね」
吉田は答える
「そんな重要人物が居るなら自衛隊が出動してもおかしくないのでは?
あなたの権限なら動かせますよね?」
俺が皮肉を込めて吉田に言う
吉田は微笑みながら答えた
「君は本気で私が防衛省の人間だとでも?」
「………いえ」
「だろうね
防衛省にしてはあまりにも警察の内部情報に精通してると思ったはずだ」
俺は密かに興奮し始めた
「私は政府の独立機関の人間だ
詳細は明かせないが超凶悪偉能者の監視を任務としている」
予想通りだった
しかしなぜ今明かすのか俺には分からない
「なぜ私に独立機関の人間だと明かしたのですか?」
俺が吉田に問う
「単純な話だ
今後の情勢を考えると我々も君たちに姿を現さなければならぬかもしれないからな」
吉田は答える
突如携帯が鳴る
「失礼」
吉田が病室から出ていった
俺は独立機関の存在に衝撃を受けるしかなかった
吉田が戻ってきた
「東京で銃撃戦が起こったようだ
しかも偉能者同士の戦闘も起こってるようだ」
旧東京湾警備庁本部庁舎前
闇の新撰組とマリンギャングとの間で戦闘が起こってる
互いに一歩も引かない
旧庁舎とは言え、港湾警備局の所有物であるために港湾警備官が鎮圧に駆けつけたが陸上での制圧経験が乏しい港湾警備官の部隊などものの数分で打ち破られた
そして二人の偉能者による戦闘が起こっている
一人は闇の新撰組東部攻撃隊司令
土方歳三
偉能名:魂は東の君や守らん
もう一人はマリンギャング幹部
正岡子規
偉能名:今年ばかりの春行かんとす
お互いが一歩も引かない
「いい加減くたばれ!」
土方の刀が容赦なく正岡に襲いかかる
「無駄だ」
正岡はそれを不可視の力で防御する
正岡の偉能は攻撃回避系の偉能のようだ
態勢を崩したところで正岡の鉄拳が土方の腹に入る
「く………」
土方の腹に正岡の鉄拳が入ったが土方は喰らっている様子がない
「ぐはっ!」
マリンギャングの戦闘員の一人が倒れる
「これが我が偉能の力よ」
土方が勝ち誇る
「なんだと………」
正岡は絶句した
土方の偉能はダメージを自分以外の第三者に移すことが出来る偉能のようだ
二人が距離をとる
この調子では相手にダメージを与えられないからだ
「く………」
正岡が拳を握る
「ふ………」
土方が剣を構え直す
二人の緊張状態が極限に達する
そこに突如剣を携えた男とトレンチコートを羽織った男の二人が現れた
「ふぅ!いい感じのとこではないかぁ」
剣を携えた男が言う
「相変わらず不謹慎な男だな」
トレンチコートを羽織った男がため息混じりに言う
「お前らは何者だ…」
土方が挑戦的に言う
正岡は静かに二人を睨んでいる
「我々は偉能犯罪対策課だ」
トレンチコートを羽織った男が言う
「俺の名は杉田玄白だ」
剣を携えた男、杉田が言う
「私の名は堀辰雄、以後お見知りおきを」
トレンチコートを羽織った男、堀が言う
二人の幹部の関心はすでに新手の偉能犯罪対策課の二人の捜査官に向けられている
「全員逮捕します」
堀が言う
「逮捕出来るものならやってみるがいいわ」
土方が言う
正岡は既に戦闘態勢に入っている
「………馬鹿者が」
「兄貴は手を出さないでくださいよ
俺が奴等を捕まえてやる」
杉田が不適な笑みと共に言う
二人が一気に襲い掛かる
杉田が剣を抜刀する
そして剣で空を横に斬った
その途端二人の身体が真っ二つに切れた
これこそが杉田の偉能:解体新書
自分の視界に入っているものを何であろうと斬る偉能だ
二人の幹部は攻撃を回避することすら叶わなかった
「弱いねぇ」
杉田が言う
「もうちょっと大人しく静かに捕まえれんかいなぁ」
堀が飽きれ気味に杉田に言った
「まあ、いいじゃないすか、捕まえれたんだし」
「全くこの男は………」
そこに警視庁の警官が到着した
警官に命じて幹部二人を接合させて警察に身柄を送った
霞ヶ関 警察庁
長官執務室で警察庁長官伊藤博文が一人の男との会談に望もうとしていた
相手はまだ現れていない
伊藤は窓を眺めている
内線が入る
伊藤が受話器を取った
「長官、お客様です」
「うむ、執務室までご案内しなさい」
「はい」
受話器を置いて、ソファに座った
しばらくして長官補佐官に連れられて一人の男が入ってきた
「お待ちしておりました」
伊藤が立って、相手に一礼する
「いやいや、そんなに固くなるな、楽に、楽に」
男が伊藤に促す
「いえ、そうはいきませんよ先生」
「先生と呼ぶな」
「申し訳ございません、本居長官」
伊藤の会談相手は政府秘密機関「特殊公安局」長官、本居宣長だ
「まあ、今回は私の方から会談のアポを入れたんだ
君がかしこまる必要など全くない」
「いや、しかし」
本居は各省庁に対して一定の影響力を持っている
ゆえに各省庁では本居との面会と言うときには最大限の配慮を行う
「まあ、今日伺ったのは例の件についです」
伊藤の顔が強ばった
「プロジェクトαについてです」
本居は言った
伊藤は静かに相手の話を聞いていた
ついにこのときが来たと思いながら