参の段 占拠
俺と伊達はいそいで神奈川県庁へ向かった
伊達は本部へ行くと言ったが俺が県庁に行くべきだと強行に主張したので県庁へと来たのだ
県庁へつくと既に周囲は警察官とパトカーで囲まれていた
武装した警官も見られる
俺達二人に気づいた現場指揮官とおぼしき警官が来た
「これは、伊達さんに織田さん!あなた方が来たら百人力だ!」
「状況は」
「はっ!立て籠り犯は小銃で武装したテロリスト6名です」
「なんだ、武装したテロリストだけか」
伊達が言う
「それなら俺一人で片付けれるわ」
「現在立て籠り制圧訓練を受けた武装警官12名がテロリスト逮捕に向かっております」
「出番はないね」
俺が言う
その時だ
窓から武装警官が落ちてきた
27階から落ちているのだ
地面に激突で即死だろう
「アブねぇ」
伊達が鞭で落ちてくる警官を拾う
「なんだ一体。おい、武装したテロリストだけなんだろ」
「いそいで警官から話を」
指揮官はたどたどしく言う
「おい、大丈夫か」
俺が警官に言う
「え、ええ」
「上で何があった?」
指揮官が問う
「気を付けて下さい…敵は…武器を無効化出来る偉能を持っているようです…敵からの音声データが私の胸ポケットに」
俺がICレコーダーを取り出す
スイッチを入れた
「警察諸君。私は豊臣秀吉である。その警官から既に聞いているだろうが私は偉能「刀狩り」を扱う。お前らの使う武器ならびに偉能犯罪対策課の偉能捜査官達の偉能力をも無効化させることが出来る。君たちは私に敵わない。我々が求めることはただ一つ現在逮捕されている松尾芭蕉さんの解放を求める」
そこで音声は終わった
「そんなこと出来るわけないだろ」
指揮官が歯軋りをして言う
俺と伊達は黙っていたが気持ちは同じだ
松尾芭蕉は5年前の関東鮮血抗争を引き起こした張本人である
当時関東最大級の偉能犯罪組織「和竜会」会長として関東の偉能犯罪組織攻撃を命じたのが抗争の引き金と見られている
この抗争は半年も続き多くの犯罪組織構成員が死んだ
当然民間人にも被害が出たために警察が介入したが手に負えず元凶と見られていた松尾逮捕のために偉能犯罪対策課と自衛隊の対偉能戦闘部隊が合同作戦を展開した
この際合同部隊、和竜会双方に多数の死者が出た
死闘の末、合同部隊は松尾を逮捕し抗争も収束した
余談だがこの抗争は「ローマの近衛兵」も問題視し制圧の為に諜報員を送っていたという
松尾逮捕の際も「ローマの近衛兵」諜報員が関わっていたと言われているが真相は闇だ
ともかく松尾を世間に出せばまたおびただしい死者が出かねない
「やつらは和竜会の残党か…」
伊達が言う
「我々の諜報活動でもそんな話は得ていなかったぞ…不覚だ」
「密かに同士を集めていたのかな」
俺は何気なく言ったあとで後悔した
この発言は捉え方によっては警察や伊達ら情報班は無能だと言っているようなものだからだ
「いや、伊達や警察がどうこうとは思っていない」
俺は念のため釈明しといた
「だが、我々の諜報能力もまだまだだと気付かされた」
伊達が悔しがる
「多門警部、連絡が入っています」
「すいません、席を外します」
指揮官多門が呼びに来た警官とともに指揮所へと戻っていく
「さて、どうやって倒していくかな」
伊達が言う
「多方面からの攻撃しかないな」
俺が答える
「もうちょっと偉能捜査官が欲しいな」
「応援要請を出すか」
そういうと俺は携帯で課長に電話をかけた
「課長、頼みが…」
「応援だろ。行かせたいところだがそんな人数は出せない」
「何かあったんですか?」
「大伴が逃げた」
俺は絶句した
「こちらの捜査官が刑務所特殊守衛に引き渡して去ったあとその守衛を殺して逃げたとのことだ。偉能課の総力を挙げて追跡しなければならん」
太子が言う
「そちらには送れて1,2人だ」
「構いません。是非西郷を送ってください」
「了解した。西郷を派遣する」
太子との電話はこれで終わった
「何かありましたか」
伊達が問う
「大伴が逃げた」
「なんだと。課長に撃たれてもなお反撃する力残してやがってたのか」
「刑務所の守衛に引き渡されたあと一暴れしたらしい」
「厄介ごとが増えたな」
「こちらには西郷を送るよう頼んだ」
「織田さんの愛弟子投入ですか」
「ここを制圧し、大伴を逮捕する」
そこに多門が戻ってきた
「さきほどみなと刑務所から大伴が…」
「逃げたんだろ。こちらも連絡を受けた」
「横浜はてんやわんやですよ」
「大伴は多分一般市民は襲わない。今はこっちに集中だ」
「はいっ!」
三人は犯人グループが立て籠る27階を見上げ、指揮所へと戻っていった
「ぐふっ!」
横浜郊外
戦闘が行われている
一方的な展開になっている
「貴君にはなぜ我が刀が効かぬか」
大伴が言う
「お前の偉能など恐るるに足らん」
男はそういうと大伴に銃を向けた
そして放った
「そんなものぐはっ!」
大伴は防御していたにも関わらず銃の弾丸を喰らった
「な、なぜだ…銃にすら我が偉能負けるとは…」
「言ったろ。お前は私の偉能に敵わないと」
「き、貴様の名はなんと申すか」
「我が名か…」
男は笑い始めた
「な、何がおかしい」
「いやね、言うと同時にお前を殺そうと思ってね」
大伴は恐怖の表情を浮かべた
「お前の存在は世界にとって危険だからな。排除させてもらうよ」
男は再び大伴に銃を向けた
「ふざけるな」
大伴が「万葉の刀」で斬りかかる
しかし男には命中しなかった
そして男の銃から鋼鉄の弾丸が一気に5発、心臓付近に撃ち込まれる
「我が名はナポレオン・ボナパルト!」
大伴は何も言わずその場に倒れた
男はそれから何も言うことなく立ち去っていった
太子が執務室の窓の外を眺めて黄昏ていると補佐官がやってきた
「課長、面会したいという人が来ておりますが」
「通せ」
外部からの誰かなら普通面会予約を入れるだろうと思いながら面会者を待つ
するとドアが開き、面会者が入ってきた
「あなたが何故ここに」
太子の目の前にはジャンヌ・ダルクが立っていた
「突然のご来訪申し訳ございません」
「なぜ事前の予約もなしにここに入れたのかという疑問は置いておこう」
太子が皮肉っぽく言う
「私はあくまでローマの近衛兵が作戦を行うのでその通達に来たのみです。最も作戦は思ったより早く終了しましたが」
「何をしていたんですか」
「偉能犯罪者の暗殺です」
太子は顔をしかめた
法治国家たる日本で事前の連絡もなしに暗殺を行われては困るだ
「それは穏やかな話ではないですね。せめて我々に執行する前に連絡いただきたかった」
「ターゲットを捕らえていたのがあなた方であれば通達してました」
悪びれもせずにダルクは言う
「で、ターゲットとは」
「大伴家持です」
「彼なら我々が逮捕した。そして逃げた」
太子はばつが悪そうに付け加える
「えぇ、知ってます。そして先ほどもう一人の戦闘員が暗殺しました」
「えっ、二人で来日ですか」
太子は驚いたのと同時にまだ隠していることがあると悟った
「その通りです。もう一人います。名はナポレオン」
「しかし、我々に言われても彼の死体が出てきた場合捜査をするのは警察だ」
「あなた方が先に発見すればよいのです」
「どちらにしても我々がどうこう出来ることは少ないです」
「とりあえず協定通り通告に来たまでです」
ダルクはそう言って帰りかけたところで足を止めた
外に武装したSAT隊員が二人いたからだ
「どういうことですか」
「悪いが協定には事前通告無き場合はいかなる任務であろうとも犯罪になるという項目がある」
ダルクは驚きの表情を浮かべた
「国内法に基づいて君ともう一人の諜報員を逮捕しなければならない」
「捕まえられるとでも」
ダルクが腰の剣に手をかける
「戦うのはいいがここには偉能者が10人以上はいるし戦闘になれば自衛隊の特殊部隊が周りを固めてあんたを殺すだろうな」
涼しい顔で太子は話す
「では、やりますか」
ダルクが抜刀する
外のSAT隊員が銃を構える
「今回に限り、この件は見逃すがこれ以上何かするならば今度は容赦しない。そのつもりで」
その言葉を合図にSAT隊員は去っていった
「お引き取りください」
太子が言う
「…いいでしょう、去ります」
ダルクはそうとだけ言って部屋を出ていった
入れ替わりに捜査官が入ってきた
「いいのですか、そのまま行かせて」
「いい。ここで彼らと戦闘を起こしたらどうなるか…考えたくもない」
「で、ご用件とは」
捜査官が問う
「君には神奈川県庁立てこもり事件の制圧の応援に言ったほしい」
捜査官西郷隆盛に太子が言った
「了解しました。暴れてきていいんですね」
「その通りだ。行け」
太子は強い口調で命じた
西郷はそのまま部屋を出ていった
太子はそのまま席に座り、思案にふけていた
「一体、どうやってあの偉能を掻い潜って犯人を逮捕するか」
指揮官が言う
「とりあえず、こちらの応援がつくまで待とう」
俺は指揮所の警官に呼び掛けた
しかし、空気は冷たい
それもそうだ
偉能犯罪対策課の捜査官が2名もいるのだ
普通は再び突入命令をだし、自分達が先頭をきっていくものだからだ
だが、やつの偉能に対する対抗措置を考えなければまたしても警官を失う
それだけは避けねばならない
「上にいるのは闇の新撰組ではありません」
伊達が言った
「どうしてわかったのですか」
指揮官が伊達に尋ねた
「我々の諜報活動能力を甘く見ないで欲しいね。闇の新撰組の偉能力者ぐらい把握している。それにだ落ちてきた警官の話を聞く限り兵の訓練がかなり行き届いている。闇の新撰組は偉能力者を中心とした組織だから一般戦闘員の訓練はないがしろにされている」
「だからと言って闇の新撰組ではないと決めつけれないだろう」
指揮官が反論する
「いや、豊臣は関東連合の構成員だった男だ。やつは表だって犯罪も犯しておらず、警察及び自衛隊情報部のデータベースにも乗っていない」
関東連合は和竜会と敵対していた組織だ
抗争の際も最も激しい戦闘を幾度も行っている
「だか、関東連合は警察の家宅捜索を受け、構成員は全てリストアップされたはず」
俺が言う
「そうなんだ。だからなんでデータベースに存在しないのか謎なんだ」
「そこからは私が答えるよ」
突然男が現れた
「何者だ」
俺が反射的に護身用の銃を向ける
伊達も鞭を構える
周りの警官も銃に手をかける
「おいおい、織田ちゃん俺を忘れたかい?」
男が陽気な口調で言う
「お前は…ナポレオン・ボナパルト!」
「やっと思い出してくれたか!いやー、久しいな」
「なんで日本にいるんだ」
「答えたいけどその前にこの包囲状態を解いてくれ。ゆっくり話も出来ない」
「あー、そうか。みんな武器をしまえ。この人はこう見えても「ローマの近衛兵」諜報員だ」
「こう見えてもとか余計」
笑いながらナポレオンが答える
「ナ、ナポレオン…なんでここに」
伊達が狼狽しながら言う
「まあ、仕事だ」
ナポレオンがさらっと言う
「で、何を教えてくれるんだい」
俺が問う
「あー、そうだった。」
ナポレオンは笑いをひっこめ、真面目な顔になった
「豊臣はね、抗争中期に連合を離脱してコシュマールに合流してたんだよ、部下の戦闘員と共に」
「なんだと」
俺は驚いた
「俺たちもコシュマールに日本人偉能戦闘員がいるっていうことに驚いたよ。なにせ日本の密出入国の取り締まりは世界屈指の上偉能力者となればさらに監視が厳しいからさ」
「で、やつはコシュマールで戦闘訓練を受けて帰国したと」
「そういうことだ。俺がここにいるのもやつの逮捕または暗殺というミッションのためにいる」
ナポレオンがさらっと言う
「まあ、色々言いたいことはあるがお前は偉能力者だったよな。だが、あいつの偉能の突破は難しいぞ」
俺は警告する
「ふははははは」
突然ナポレオンが笑いだした
「何がおかしい」
俺が冷たく言い返す
「お前、俺の偉能忘れたのか?」
「あー、そうか…」
「私の辞書に不可能という言葉は存在しない」
かっこつけてナポレオンは言う
「ま、あんたらの面子もあるし正式な協力要請くるまで私は静観者だよ。そいじゃ失敬」
ナポレオンは去っていった
「あのナポレオンの偉能って…」
遠慮がちに伊達が俺に聞いてきた
「あー、あいつの偉能はな「余の辞書に不可能という文字なき」という長い名前だ」
「どんな偉能なんですか」
「やつは己が攻撃を決めると決めたらどんなに不可能な状態であっても攻撃を決める。例え、相手の偉能がいかなる物による攻撃も防御する偉能であろうがね。そして己が絶対に死なない、ダメージを受けないと心に念じたら例え相手を一睨みで殺すという偉能を用いてもやつを殺せない」
「それって…」
伊達が当惑したように聞いてくる
「やつは自分が出来ると思ったことを実現させることが出来る、そんな偉能を持っている。まさに「余の辞書に不可能という文字はない」だな」
「よくわからないですね」
伊達はなおも混乱している
「まあ、戦闘見たらどういうことか分かるだろうな」
俺はそう言って締めくくった
そこに携帯がなった
「もしもし」
「すいません、織田さん…そちらに行けません」
相手は西郷だ
「何があった?」
俺が問う
「闇の新撰組の戦闘部隊に襲われて、こちらのSAT隊員5名は全員殺された。俺もなんとか逃げ出したがいつ見つかるかわからん」
なんでこうも次々問題が起こるのやら
「隠れ続けとけ。すぐに応援を行かせるよう伝える」
「すいません」
西郷との電話はここで終わった
「西郷が来れないとのことだ」
俺が全員に言う
「ただちに西郷のもとへ応援を行かせるよう本庁へ伝えてくれ」
俺はそう言ったあと、天を仰ぎ、
「苦渋の決断だが」
と俺は言ってナポレオンの方を向いた
「お前に協力を頼む、ナポレオンさん」
俺は頭を下げた
「ま、どのみち彼には死んでもらう予定だったからね」
ナポレオンは不気味な笑みを浮かべる
「ほいじゃ、私と織田ちゃんとそこの彼の三人だけで行こう」
「伊達いいか」
「もちろんです」
伊達は答える
「我々の武装警官隊も共に。万が一の時を考えなければ」
「必要ないよ。勝つから」
ナポレオンは言った
「それじゃ、いくか」
ナポレオンはビルへと歩いていった
俺と伊達が続く
包囲している全警官が敬礼をしている
俺たち三人はそれに敬礼を返し、中へと入っていった