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人形
****むかしむかしあるところに、おにんぎょうがいました****
クレイドール、と呼ばれる番人を、国で知らない人間はいない。
兵士ではなく、騎士でもなく、ましてや貴族王族とはかけ離れている。かといって、街人でもない。
それはいわば、人形だった。
黒い身体は、闇にまぎれるためのもの。
強く固い四肢は、闇を切り払い、薙ぎ払うためのもの。
誰にもそのいわれも生まれも知られず、ひっそりと国のどこかに息づいている。噂は常に国中にあった。
姿かたちは、明らかにヒトではない。
人々は時折、その姿を垣間見ることがあった。
夜の街で。または、昼間の路地裏で。大通りに、黒い風のように走る影もまた、クレイドールかも知れなかった。
けれど、恐れる必要はなかった……心に、疾しさがなければ。
真っ当に生き、法を守り、その手を罪に穢していなければ。
番人は、無縁で無関係な人間を巻き込まない。
ただひっそりと、そこにいるだけだ。