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プロローグ



むかしむかしあるところに、お人形がいました。

お人形は、魔法使いがつくりました。

お人形は固い手足と強い力を持っていました。

お人形を作った魔法使いは、つよいお人形に悪いまものを退治させることにしました。

まものを退治するため、お人形は旅をしました。

道は、魔法使いが教えます。

いつも一人で旅をしました。





ある日、小さな子ねずみに会いました。

お人形の歩く道の上にいました。

子ねずみは生まれて間もないようでした。

動けない子ねずみのまえには、悪いまものがいました。

お人形は子ねずみを助けました。

「助けてくれてありがとう、お人形さん。おけがはありませんか?」

「いいえありません」

そう答えると、子ねずみはうれしそうに笑いました。

「つよいつよいお人形さん。お名前は?」

お人形はこまってしまいました。名前がないからです。口を開けたり閉じたりしてから、ふう、息を吐き出しました。

「……ロア、さん?」

いっしょうけんめい耳をすましてた子ねずみには、ちいさな息の音がそう聞こえました。

こまったままのお人形は、しばらくしてからこっくりとうなづきました。

「ロアさん。私をいっしょにつれて行ってください」

「だめです。あなたはとても小さいから」

「それでは、大きくなったらつれて行ってくださいね」

お人形は子ねずみと別れました。




ある日、小さな子うさぎに会いました。

まいごになってしまい、まわりには悪いまものがいっぱいでした。

泣きそうな顔をしていた子うさぎは、お人形のところへ逃げてきました。

「こんにちは。ロアさん」

「こんにちは。子うさぎさん」

にっこり子うさぎは笑いました。

くう、となったお腹の音がなりました。子うさぎはお腹を空かせていました。

こんどはほっぺを真っ赤にしながら、子うさぎはなみだを浮かべました。

お人形は、子うさぎを食べ物のあるところへ案内しました。

おいしいごはんを食べ終わった子うさぎは、こう言いました。

「ロアさん、私をいっしょにつれて行ってください」

「だめです。あなたはとても怖がりだから」

そのとき、子うさぎを呼ぶ声がしました。子うさぎを探して、歩く音もしました。

「行きなさい、子うさぎさん」

「それでは、ゆうかんになったらつれて行ってくださいね」

お人形は子うさぎと別れました。




ある日、小さな子ねこに会いました。

そのとき、お人形はどこまでもまっすぐな道を歩いていました。

魔法使いから、教えてもらった道です。

後ろから、かわいい声がしても、歩き続けてました。

「ロアさん! ロアさん!」

ぱっと走ってお人形を追い越した小さな子ねこは、ぷうっとかおをふくらませました。

「ロアさん。呼んだのに行っちゃうなんてひどいですよ」

「子猫さん。ごめんなさい。私にごようですか?」

「はい。今日はこれからどこへ行くのですか?」

「これから、森へ行きます」

「ロアさん、私をいっしょにつれて行ってください。もう、ひとりでごはんは食べられるし、ちゃんと歩けます」

子ねこは小さなつめで押さえた鳥を、自慢しながらロアに見せました。

「だめです。とても危ないから」

お人形は、たくさんのまものをたいじしに行くところでした。

子ねこはしゅん、とうなだれました。かわいそうになったお人形は、こう続けました。

「今度、行っても大丈夫なところなら」

「つれて行ってくれるんですか?」

ばあっと明るくなった子ねこがお人形に聞きました。お人形が、ゆっくりとうなづきます。

「わかりました。今度、つれて行ってくださいね。森へは、この道を右に曲がるとすぐに着きますよ」

お人形は子ねこと別れました。

ただ、まっすぐ進みました。




お人形は夢を見ます。

美しい馬車にのったお人形に、魔法使いが言います。

止まってはいけない、と。

歩いて行かなければ。

歩いても歩いても、ちっとも到着しません。

どこに行っても、いくら退治しても、悪い魔物はいなくなりませんでした。




ある日、きれいな子ぎつねに会いました。

「ロアさん」

声が響きました。

お人形の前には、魔法使いが立っていましたが、声がすると魔法で消えました。

「誰かいませんでしたか、ロアさん」

お人形は首を振りました。

そうですか、と子ぎつねは言うと、お人形にゆっくり近づきました。

「ロアさん」

「なんですか、子ぎつねさん」

「わたしを、いっしょに、つれて行ってください」

途切れながら、子ぎつねはお人形に言いました。病気のせいで、子ぎつねはとても苦しい思いをしていました。

からだに力が入らず、とうとうその場にたおれてしまいます。

お人形は、子ぎつねをやわらかい草の上まで運びました。

「ロアさん」

「だめです。あなたは病気だから」

「ロアさん」

子ぎつねは手を伸ばしました。お人形の黒くて長い手に、そっとさわりました。

「ロアさん」

お人形は子ぎつねの手を外しました。

「子ぎつねさん。行かなければ、いけないのです」

「それでは、元気になったら、つれて行ってくださいね」

お人形は子ぎつねと別れました。



ある日、美しい子うまに会いました。

そのとき、お人形は助けを呼ぶ声を聞きました。

いそいでこえのする方へ走りました。

ほんとうは道をまっすぐに行かなければならないのです。

それでも、お人形は走りました。かどを曲がり、道をはずれます。

たどりつくと、美しい子馬がまものに囲まれていました。

お人形は腕をふるいました。まものが一匹たおれました。

お人形は足をふりあげました。まものが二匹たおれました。

つよいお人形は、あっという間に魔物をけ散らしました。

「ありがとう、ロアさん」

子うまが立ち上がりながら、お礼を言いました。目にはなみだを浮かべていました。

「子うまさん、怪我はありませんか」

「ありません」

「それはよかった」

お人形はぎこちなく、笑いました。つられて、子うまも少し笑いました。

歩いて帰る子うまを、お人形は初めてみおくりました。




お人形は魔法使いの教えた道をはずれてしまいました。

魔法使いは、言うことをきかなくなったお人形を、捨てることにしました。

つよい手足を、とても弱くしました。

つよい身体から、元気をうばってしまいました。

すぐに、お人形は倒れてしまいました。

それっとばかりに、いままでお人形にやられてきた、まものたちが一斉に飛びかかり、お人形をぐるぐる巻きにして、土をかけて埋めてしまいました。

もう、少しもお人形は動けません。

もう、少しもお人形は進めません。

両目もふさがれ、なにも見えません。

がっくりと、お人形の体から力がぬけてしまいました。


その時です。


ロアさん、あきらめないで。あきらめないで。

必死に叫ぶ声がしました。

あの、小さな子ネズミです。

小さな歯を立てて、目隠しをかじってほどきました。

となりに、ちいさな子うさぎがいました。

小さな穴をたくさん掘っていきました。

子ぎつねもいました。

子うさぎの掘った穴を、さらに大きくしました。

子うまがすっくと立っていました。

お人形の体を、引っ張って持ち上げました。

からだの縄も、子ねずみがかじってはずします。

最後に、子ねこがお人形の足元にすり寄りました。

「さあ、ロアさん。一緒にいきましょう」

お人形にこう言って、手を差し出します。

お人形は、悩みました。

けれど、子猫たちの後ろには、魔法使いがいました。お人形と目が合った後、ゆっくりと暗闇の中へ解けていきました。ずっとお人形と一緒だった、魔法使いはもういません。

ロアは、差し出された手をしっかりとつかみました。

「はい。一緒にいきましょう」

そうして、夜目の効く子ねこを先頭に、ロアと子ねずみと子うさぎと子ねこと子ぎつねと子うまは出発しました。



そうしてずっと楽しく旅をしながら暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。










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