最低同士
太地 (20)最近振られた男の子。元カノを忘れることができないまま、まきと付き合う。
まき (27)太地を支えてきた。太地の兄と婚約している。
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役表
太地(♂)
まき(♀)
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太地「ごめん、助けて欲しいんです」
まき「太地?どうしたのよ。まだ仕事だから、ちょっと待ってて!」
太地「ごめんなさい」
まき「気にしなくていいの。また、何かあったから電話してきたんでしょ?」
太地「はい」
まき「太地とのやりとりはいつだって相談。だから、この時も嫌な予感しかなかった」
太地宅にたどり着き、息を整えるまき。深呼吸してからインターホンを押す。
太地「まきさん」
まき「お待たせ……な、どうしたの?この部屋……散らかってるっていうか
暴れでもしたわけ?」
太地「あの、混乱しちゃって」
まき「はぁ……慣れてる私にしか連絡してないんだよね?」
太地「はい」
まき「わかった。掃除しよっか。ほら、入れて?」
太地「まきさん!」
まき「わっ!ちょ、ここ玄関って……!!」
太地「まきさん、お願い」
まき「太地?」
太地「兄さんの婚約者だってわかってる……でも、お願い……」
まき「太地……」
太地「抱かせて」
まき「太地は私の婚約者の弟。将来義弟になる子。だから私も甘くて。
断るべきだったんだと思う。それが正解なんだから」
太地「でも、まきさんは断らず受け入れてくれた。僕なんかのために。
嬉しかったけど、同時に悲しくて辛くて」
まき「だって、私は……太地の恋人にはなれないんだから」
乱れた服を直しながらまきは口に出す。
まき「あの人に内緒で付き合う?」
太地「え……」
まき「これは大人としてどうかなって思われても仕方ないけど……。
太地を突き放せない。放っておけない。だから、傍にいてあげる」
太地「わかってた。まきさんは優しいから、きっとこう言うって。
でも、ダメだよ。甘すぎだよ。僕をこれ以上甘やかしたら駄目だ」
まき「だよねー。でも、もうこうなっちゃったし?」
太地「まきさん…」
まき「大丈夫、バレないようにするから」
太地「バレないようになんて難しいのは目に見えていた
いつも、まきさんは僕のために会いに来てくれる
そんなことしていたら兄さんにバレるに決まってる」
まき「太地…どうしたの?」
太地「まきさん、あまり気を使い過ぎないで…兄さんにバレる」
まき「あぁ、彼も弟のこと心配してるから」
太地「目をそらしていうってことは、バレたんですか」
まき「違う、きっと仕事に疲れてるのよ」
太地「僕から話す」
まき「太地!やめて…もっと話がこじれちゃうから」
太地「だって、まきさんはただの被害者で。僕が、無理やり…」
まき「受け入れてる時点で不倫よ…」
太地「そんな…」
まき「だから、大丈夫。任せて」
太地の部屋から出る間際、まきは太地に掠めるようにキスをする。
まき「じゃね」
太地「うん」
まきM「時々雨が降る、時々くもりになる。風が冷たくなっていく。
夏が終わった。そう感じる…今日この頃」
太地M「君が僕を支えてくれて、僕は甘えてきた夏。過ぎた夏」
まきM「わからないまま付き合ったのが、間違いだったのかな」
太地「わからない…?ううん、僕は確実にまきさんのことを…」
まきが太地の部屋に帰る。
太地「まきさん、大事なこと話したい」
まき「私も」
太地「まきさんからどうぞ」
まき「ううん、太地から。私のことでしょ?」
太地「まきさん、僕は…まきさんが好きです」
まき「やっぱりね…(苦笑い)」
太地「まきさん?」
まき「ごめんね。それには答えられない」
太地「なんで、なんでですか!!」
まき「これ…」
まきがカバンから婚姻届を出した。
太地「そん、な」
太地M「わかっていたことじゃないか。まきさんは兄さんの…」
まき「だから、ごめんね?もう、助けてあげられないの」
太地「まきさん!!」
まき「勝手で、ごめんなさい」
太地「甘えたからですか!?僕が、貴方に甘えたから!!」
まき「違うの。彼は全部お見通しだったのよ。それでも許してくれたの」
太地「僕の気持ちは…どうなるんですか」
まき「太地…」
太地「最初から期待させないでくださいよ…抵抗すればよかったんだ
貴方は本当に最低ですね!!」
まき「……ごめんね」
太地「あ、僕…違う、こんなこと言いたかったんじゃ…」
まき「いいの。私も浅はかだったから」
太地「まきさん…」
まき「……もう、行くね」
太地「……はい」
まき「太地」
太地「……なんですか?」
まき「こんな出会い方じゃなかったら…良かったね」
太地「ずるいですよ、まきさん」
まき「だね、じゃあね」
太地「あの人は本当にずるい。けれど、失恋の時より胸がスッキリした。
元カノより酷い仕打ちをされたのに、恨みなんてなかった。
僕は、彼女を、ずっと愛してもいい……そんな気がして……」