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魔王はボスと戦います

「た、助けてえええ! ボ、ボスだ!!」


 その冒険者は完全に戦意を喪失していた。

 目の前にいる巨大な蟹はそれを気にする様子もなく、ただ無慈悲にその巨大な鋏を振り下ろす。

 迫る巨大な塊に、男は声すら出せずにただそれを見上げる。そしてそれは激しい風圧と共に男の目の前へと、男を覆う様に紅い壁となる。男の視界が赤に染まり、陰り黒くなる。

 そして遂に、男は潰れた――――


 (拙い脆に喰らいおった)

「っユリ!!奴の回復を頼む!!」

 魔王はそう謂うと巨大な蟹へと跳ぶ様に急ぎ駆ける。

 ユリも魔王に続き吹き飛び倒れる冒険者を回復するため魔法を詠唱しつつ走る。

 恐らく男は瀕死、いやあの一撃で絶命しているかも知れない...そんな事を二人は思う。だがそれでも僅かな可能性に賭け懸命に走る。


「喰らえ我が新たなる剣技を!!」

 魔王の体が薄く光ると同時に二本の大剣を右に構え蟹の足へと更に駆け寄る。

「ダブルテイルクラッシュ!!」

 魔王は体を斜めにクルリと回転させながら跳び、その腕から弧を描き巨大な剣が振られる。大剣は矢なる尾の様に呻り、目にも止まらぬ早さで蟹の厚い甲殻に覆われた足へと減り込む。

 尋常成らざる早さで振られる大剣の切っ先には、最大の重力がこれ以上無いと云う程に掛かる。

 そして様々なスキルによって何重にも強化されたその威力たるや、同レベルの剣士が放つ最大威力の攻撃10発分にも相当していた。

 そしてそれは、人の身体ぐらい有ろうかという蟹の足を尽く吹き飛ばした。



「グチュギチチグチャ!!!」

 蟹は突然の衝撃に身体を激しく震わせのたうち回る。

 激しく暴れるそれは、周りの全てを破壊する程の威力と衝撃を撒き散らす。

「くっ!!」

 魔王はその不規則な攻撃を次々と躱すが流石に次の一手を繰り出せずにいた。

 如何せんこう暴れ回られては迂闊に剣を構える訳にはいかなかったのだ。

不利な体制は回避の妨げにしかならない。


(...<精霊の加護>!!)

 突如魔王の身体に光り輝く結晶の様な、半透明の結界が張られる。

「大丈夫魔王っ!?」

 魔王が後ろを確認すると光り輝く透明な結晶に包まれたユリが剣を構え立っていた。

 恐らくユリが<精霊の加護>を発動してくれたのだろう。身体が軽くなり力が漲るのがわかる。

「助かるっ...うおらぁぁぁ!!」

 魔王は上から堕ちてくる蟹の攻撃を避けると同時に、その足に向け剣を振る。

 切り飛ばす事は出来なかったが甲殻を抉ることは出来た様だ。

 しかし巨大な蟹はさらに怒ったのか切りつけられた足を即座にヴンッと伸ばし、魔王へ打ち付ける。


「ぐふっ!!」

 魔王の肩にその一撃が当たる!!

 だが寸前で<魔眼赤>を発動し後ろへと飛ぶことで直撃は避けていた。

しかしそれでも魔王のHPゲージは一割程減っていたのだった。

 <精霊の加護>がなければ回避が遅れ更に深く攻撃を受けていただろう。威力が殺されること無く直撃した一撃のダメージはもっと大きかった筈だ、と魔王は思い、そして愚痴る。

「我もまだまだだな...」


「大丈夫っ!? ッサンダーボルトッ!!」

 ユリが敵の追撃を防ぐために魔法を放つ。その時、魔王の後方から稲妻が走る。

 突如空から雷光が走り、その一筋の青光りする光が巨大な蟹へと繋がる。

「グガチャギギブブ!!!!!」

 巨大な蟹が蠢き、一瞬その体躯が雷光に覆われる。 

 そして魔王を更に攻撃しようと動作に入りかけていた蟹は、突然身体に走る電撃によって一瞬身震いする。

「済まない!!少し掠ったが問題ないっ。我の攻撃後の隙を突いて魔法を頼む!!!」

「分かったわ!!無理はしないでねっ!!」

 魔王とユリはその後も巨大な蟹へと攻撃を放ち、着々とそのHPを削っていった。


――――この巨大な蟹の名は、「アーマークラブ」。体高4m程で、その身には如何なる攻撃も退ける頑丈な甲羅を背負い、6本の足と二本の巨大な鋏を操る蟹のエリアボスである。また、この「アーマークラブ」は足に一定ダメージが溜まると破壊される仕様となっている。その為、上手く攻撃すると足を全て失った異様な姿の蟹を拝むことが出来るのだ。但しその状態の動きの気持ち悪さと残った殻の硬さから、一部のβテスターはアーマークラブの事を「ゴキ蟹」と呼んでいた。

 そして30分は経とうかと云う間魔王達は攻撃を続け、アーマークラブのHPは漸く残り1割を切ろうとしていた。


「ダブルスラッシュ!!」「ファイアーボール!!」

 魔王が両手の剣を叩き付け、ユリが火球を放つ。

 アーマークラブがその攻撃を受けた直後、変化は起こった。

――――――突如その身体が、その全てが、まるで身体の底から放たれる様に赤く紅く光りだす。


「ぬっ!! なんだっ!!?」「な、なによこれ...!?」

 二人が巨大な蟹に起こった変化に驚き一瞬怯んだ直後、その蟹は先程とは比べものにならない速度でユリに向け突進する!! 瞬きをする間にその蟹はより近くにより巨大となって目に映る。

(え!!?....ヤバいく、来るっ!!!!)

 しかし自身に向け、まるで地面を跳ね、その足の先に爆薬でも付いているかの如くその巨体は爆進する。それに竦み、ユリは一歩たりとも、一挙即すらも動くことができない。ついにユリは、避けられぬ直撃を覚悟し目を瞑る!!

――――――――ズガァァァアアアアン!!!


「ッ!!!!.....? え...?」

 だがユリのその身に襲い来る筈の衝撃は何時になっても来なかった...疑問に思いユリがそっと、びくびくと目を開けると、其処には衝撃の光景が存在するのだった。

 目の前には....先程の巨大な蟹と同様......いや、それ以上に黄金色に強く輝く魔王が存在していた。そしてその魔王の先には、何者にも傷つける事が出来ないと思われたあの甲羅が、アーマークラブがその背に背負う堅牢な甲冑が、大きく裂かれていた。

 そして其処には、その巨大な紅い鎧の息が絶え光と成り消えゆくアーマークラブの姿があった。


<始まりの海岸エリアボス「アーマークラブ」Lv18を倒した>

<経験値: 656 取得>

テレレテッテレー♪テレレテッテレー♪テレレテッテレー♪

<魔王のレベルが3上昇しました>


<STボーナス:HP+28 / MP+6 / SP+8 >

<STボーナス:HP+31 / MP+7 / SP+7 >

<STボーナス:HP+33 / MP+6 / SP+9 >


<STポイント: 7 取得>

<STポイント: 9 取得>

<STポイント: 8 取得>


<ボス級モンスター初討伐ボーナス授与 貢献度第一位>

<貢献度第一位ボーナスアイテム 「スキル枠増加薬」を取得しました >

<ボス級モンスター初ソロ討伐ボーナス授与 >

<ボーナスアイテム 「スキル昇華薬」を取得しました>


<称号:<大物を喰らう者>を習得しました>

<現在称号「勇ましき者」を所持しています>

<称号「勇ましき者」を破棄して、称号「大物を喰らう者」を新たに取得しますか? >


<YES>(はい) or <NO>(いいえ)


(ぬうっ!? な、なんだいきなり多すぎて解らんぞ!!?...)

「な、なにボーナスアイテム授与!? 何か貰えるのか?? それにまた称号か!! そんなのいらん、もう持っておるわ! 断じてNOだ!!」

 魔王は突然現れた大量の情報に戸惑う。しかし何故か称号に関しては即断であった。


――――因みに初討伐&初ソロ討伐ボーナスはSSS内で最初にボスを討伐したものに与えられる。これは、デスゲーム開始後に追加された要素である。これらのシステムは、称号同様、最初に条件を達成したものに与えられる。これは逸早く討伐した事を評価しているのだ。

 恐らく死の恐怖により攻略が停滞することを防ぐ目的もあるのだろう。ただ、そのシステムが死神の思惑通りに機能しているかはどうかは別問題である。


 ストン「...は、はは、助かったの?......怖かった...怖かったよー」

 魔王が、はっ! と後ろを振り返ると、ユリは気の抜けた様な表情で砂浜に膝を立て座っていた。

 そして魔王は心配した様子で呆然とする少女に尋ねる。

「大丈夫だったか? ユリよ。危険な目に合わせて済まなかった...」

「う、うん大丈夫。でも本当に死んじゃうのかと一瞬思ったよ。人間死ぬ瞬間は走馬灯を見るって言うけどあれ嘘だね」

 ユリは惚けた顔で他人事の様に喋る。

 あまりの事態に理解が追いつかないといった様子なのだ。だが

「全く冗談を言えるぐらいなら大丈夫そうであるな。だが本当に間に合って良かった」

 魔王は安心して僅かに微笑む。

 ユリを守ることが出来て安心したのだろう。

「うん。ありがとう。また魔王に助けてもらっちゃったね。」

「ん?我がユリを助けたのは今回が初めてだぞ?? 夢でも見ていたのか?」

「んーんっ何でもないっ。でも本当に助けてくれてありがとう。でもどうやったの? なんか魔王光ってたし...」

「ああ、それはだな... 」

 

それから我はユリにその時の事を説明した。

 突然加速した蟹野郎がユリを攻撃しようとした事。間に合わないと思い一か八かスキルの<オーバードライブ>を発動した事。大剣を使ってダブルテイルクラッシュを使った事。

 そして、何やらボーナスを貰ったこと。新たな称号が表情された事。答えはもちろん『NO!!』だった事をだ。我の話しを聞いたユリは凄い驚いていた。スキル枠増加とかスキル昇華薬とか凄すぎとも言っておった。それにしてもチート? とはなんなのだ。


 それと残念な事実があった。最初に悲鳴を上げていた冒険者は助からなかった。ユリが回復をしようと思った時既に遅く、もう男は絶命し手遅れだったのだ。

 ユリには辛い思いをさせてしまった...ただ、ユリも悲しそうにしょうがないよねと言っておった。そしてただ、黙祷を捧げていたのだ。

 優しいユリならば気に病むかと思ったが、死と云うものと向き合い折り合いを付けれているようだ。

 戦いに身を置けば誰であろうと死ぬ時は死ぬ。当たり前のことだがそれを本当の意味で理解出来る者は少ない。それが強き者なら尚更だ。


 そうして我は今日、人間というのが命短く幼かろうともその身に宿る心には想像もつかない強さを持つのだと知った。ユリは強き心を持っている...幼きその身で他者を救いその痛みさえも自身で背負おうと謂うのだ。自身の力を見縊った様な驕りでは無く、自身の力を冷静に見つめ等身大の力を持ってして救おうと謂うのだ。

 それをたった一日で心に決め、努力し行動したのだ。そして自身の力が足りない事にも挫けず、ただ助け出せなかったその事実を認めた。たった一日でだ。その心の力は一体何処から来るのだろうか。恐らく人間と謂うのは、どの様な事に対しても率直にそして鋭く鮮やかに心で感じ、その脆い心を傷付けながら強く成長していくのだろうな...


――――エリアボスが何者かによって討伐された事実は、その日の内に町中に広がっていた。街の至る所で祭典の様に所構わず賑わい、多くの笑顔が溢れていたのだ。

 あの日以来街の雰囲気には少し陰りがあったが、この日はそれが幻だったかの様に皆が希望の光を持ち笑い話し合っていた。

 無駄では無かった。一人の命を救うことは出来なかったが、それでも今回の戦いは無駄では無かった。我もまたその光の中の一つとなり笑い合いながらそう思うことができた...

 

ボス討伐後の魔王とユリのステータス


----------------------------------------------------------


魔王Lv12 <勇ましき者>


 HP : 231/321

 MP : 14/86

 PP : 8/91


 ATK: 116 (+140)

 DEF: 63 (+40)

 MIND:58 (+20)


<SKILL>

<大剣剣技 Lv9> <大剣剣技 Lv9> <斬撃系技スキル強化 Lv7>

<斬撃系技スキル強化 Lv7> <筋力強化 Lv12> <スウェイ Lv4>

<瞬発性強化 Lv5> <軽化 Lv11> <重化 Lv10> <魔眼赤 Lv4>


固有追加スキル <オーバードライブ>


-------------------------


 

----------------------------------------------------------


ユリLv11 <慈愛の救者>


 HP : 242/289

 MP : 23/85

 PP : 56/83


 ATK: 72 (+60)

 DEF: 68 (+55)

 MIND:80 (+30)


<SKILL>

<片手剣熟練度強化 Lv19> <片手剣剣技 Lv17> <右腕強化 Lv14>

<瞬発性強化 Lv13> <俊敏性強化 Lv10> <魔法 Lv15>

<炎魔法強化 Lv14> <治癒魔法強化 Lv8> <スウェイ Lv14>

<ダッシュ Lv10>


固有追加スキル <精霊の加護>


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