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魔王は海岸の殺戮マシーンです

それから数日後 セイン

 

 始まりの町、北門付近のレンタル館。その一部屋を借りて、攻略組主要メンバーによるボス討伐作戦会議が行われていた。

 

「皆さん、報告書の内容を確認戴けましたでしょうか?」

 

攻略組 報告書 

 デスゲーム開始以前にエリアボスと戦闘した者達により、βテスト時よりも各エリアボスが強化されている事が既に判明している。その情報により、デスゲーム開始後、プレイヤーは誰一人としてボスへ挑戦していない。最初のボス討伐は攻略組が十分に余裕を持って戦うことになるだろう。 

現在、新たに判明した情報を此処に記載する。

 

 判明事項1 

 デスゲームによる死者は現在32名。この事実は多くのプレイヤーが慎重にプレイしている結果と推測される。累計死亡者数は、始まりの街北部に出現した神殿にて確認可能である。他にも表示内容として死亡したプレイヤー名、死因などの情報が存在する。

 

 判明事項2

 一部のプレイヤーが数週間後、若しくは一ヶ月後に食糧問題に直面すると予測された。尚、SSSの空腹感システムによるHPスリップ。空腹継続によるHPスリップ速度上昇。以上が示唆する所から、食糧非摂取状態が72時間経過時点から生命消失の危険性が急激に上昇する事が判明している。 

 上記の問題は各エリアボス討伐後に出現するステージボスの討伐。南門「始まりの草原」、東門「平和の森」、西門「始まりの海岸」、北門「碧き山岳」への熟練のプレイヤーを配置。以上によるエリア進出プレイヤーの増加が食糧供給量を増加させる事で対応する予定である。

 

 判明事項3

 先日、システム<称号>の導入が確認された。称号の効果及び目的の詳細は不明である。所謂職業の様なものではないかとの声もあるが、攻略組による検証は未だ行われていない。 

 現在、報告が挙げられている称号は4つ「勇気ある者」「窮地を救う者」「商いをする者」「採取する者」である。更なる称号の存在が予測されるが、現在、称号自体希少なことを理由に、秘匿者も多数存在すると考える。 

 上記の二つ、「勇気ある者」「窮地を救う者」は始まりの街レストランにて大声で喋る男女の目撃者情報より記載。情報の正誤は情報不十分により確認不能。

 今後、後略組は称号の取得条件については秘匿するよう促す方針を取る。条件の判明が称号持ちプレイヤーの安否に一定の影響を及ぼすと判断し、決定事項とする。

 

 後述

 6日後の正午12時00分に、始まりの草原のエリアボス討伐を行う。攻略組ボス討伐メンバーは、11時30分迄に始まりの街南門に集合とする。――――――以上。SSS攻略組 <聖剣> ギルドマスター セイン

 

「うむ、この報告書の通りであるなら当面の問題はエリアボス、ステージボスの討伐だな。β版より強いとはいえこの攻略組なら問題無いだろう。第一こんな雑魚など我が<SSS正規軍>のみで討伐しても良いのだ。」

 堅い口調で偉そう喋るのはギルド<SSS正規軍>のマスター「ガルド」である。

 ガルドの年齢は恐らく30付近で、現実でも軍人であるのか厳つい体格に綺麗に刈られた坊主頭の男だ。

 ギルド<SSS軍>の特徴もまた、軍隊の様に規律厳しく全員が武闘派の集団である。

 わざわざゲームでまでその様な厳しい上下関係を作るなんて正直俺個人としては理解出来ない。

 それにガルドを始めとしてその構成員には少し攻撃的というか危うい所がある。

 

「ガルドさん、せっかくこうして攻略組を組織したのですから皆で歩調を合わせてボス攻略に望むべきですわ。それに強化されてると云う事ですから、無闇に戦うのは控えるべきですわよ」

 此方はギルド<虹>のマスターアイシスだ。

青い髪のストレートヘアに、モデルの様な背格好の女性である。少々癖のある人物だがなんとかこうして攻略組に参加してくれている。

 ギルド<虹>の特徴は鮮やかな髪色をしたメンバーが多くそれを取って虹という名前が付けられたようだ。戦闘スタイルも虹の如く様々だ。 

 それから、この会議には他に<紅蓮騎士団>のグレン、<鷹の目>のロジャー、<獣耳>のネコなど有力ギルドのトップが集まってくれている。

 

「もちろんです。それに<SSS軍>の方のみでも討伐は当然可能でしょうが今回はこうして攻略組を結成したことですし、互いのギルドの連携も兼ねて皆さんで協力していきましょう」

 その後は大した悶着もなく、攻略組の細かな細則や今後の方針なんかを話し無事会議を終了した。これから長い事攻略していくには不安もあるが、現状ではどうしようもないだろう。

 

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 セイン達が会議を行っている頃、魔王はユリと共にパーティを組んで始まりの海岸でレベル上げをしていた。

「フハハハハ!! フハハ脆い脆いぞ!! 見ろ蟹がゴミの様だ!!」 

 魔王は海岸に大量発生している「木バサミ」や「スカイフィッシュ」、「岩ロブスター」を嗤いながら次々と両手の大剣で粉砕していた。海岸に居た周りのプレイヤーはその凄まじさに目を点にしている。 

「...なんだあれ」「マジかよ」「大剣二本使いとか絶対スキルカツカツだろ」 

 その姿たるや、ヌンチャクを巨大にしてみたブルー◯リーか、工業様の粉砕機といった仕草であった。

 

 これは魔王が特訓の中で編み出した連続攻撃方法である。大剣を縦に回転させることで無限に次の攻撃を繰り出す技だ。

 振り下ろす時には重く、その勢いで軽くした大剣を上へと持ち上げまた振り下ろす。<重化>と<軽化>をタイミング良く交互に使うことで速度を上げながら回転させる。その大剣が空気を切り裂き唸る音たるや凄まじい。


 そのせいで此の後。それを見ていたプレイヤーを発端に、海岸で美女を襲う魔獣を見た! 角の生えた悪魔が大量の魔物を嗤いながら次々と殺していた! 海岸には鬼の魔物が出る! 海岸マジ危険! などという噂が広がったのを今の二人は知る由もない。 

 因みに「木バサミ」は蟹で、「スカイフィッシュ」はUMAじゃないただの空飛ぶ魚である。レベルで言うと3~5、スライムより若干強い程度だ。もちろんドロップアイテムは魚介系。

 

 ズドドドドドドドッ

「ってちょっと...魔王! 砂利が飛んでくるんだけど!!」

 むっ、砂が飛んでおったか。

 ユリは魔法や片手剣の技スキルで我が打ち損じ逃した魔物を着実に攻撃しているのだ。その所為で我が飛ばした砂利が目に入ってしまった様ではあるが。ただその硬い甲羅や鱗に対しても隙間を突き的確にダメージを与えている。 

 何故我がユリとレベル上げなるものをしているかと言うと、ユリが強くなって単独でボスぐらい倒せるぐらいになりたいと言うのが理由である。

 攻略組に参加しなくても勝手に攻略すればいいや。現実世界に帰る為に私が自分で自分を救うんだと考え、そのついでに困った人が居て私にその人を助ける力があれば助ければいいと。ユリはそう考えておる様だ。

 勿論我はユリの『ボディガード!』である! ユリの世界で護衛の事をそう謂うのだそうだ! 

 ふははは!! 何やら強そうな響きで我に相応しいぞ!!


――――因みにそんな事を考えている魔王のレベルは9、ユリは10である。SSSは基本的にレベルが上がりにくく、さらには適性レベルより低い敵では経験値が入りにくい仕様なのだ。そのせいも有って魔王達が手に入れた素材はそれぞれ有に100を超えていた。一方攻略組の面々は各6人程度のパーティを組み、北の山岳エリアで適正レベル程度の敵に対し戦い効率的にレベル上げをしている。

 

「そういえば、魔王は称号に何か変化あった?」

 ユリはふと疑問に思った事を聞く。

 何故なら称号を取ったは良いが一向に何とも起こらないからだ。しかし魔王からはユリの予想とは異なる言葉が帰ってきた。 

「む、そういえば気付いたら名前が変わっておったな。たしか、前にユリと街で出くわした日であったぞ」

 如何にも当然といった様子で魔王が答える。 

「な、なんで言ってくれないのよっ! それで何か効果はあったの?」

「う、うむ、それはユリも当然変わっておると思っていたからな。何やら称号の方にもスキルが加わっておったぞ。それに、称号にはステータスボーナスの効果もあるらしい。STポイントを振り分けようと思ってみたら数値が上がっておった。」 

「まーおーうっ...ちょっとそれ、全部詳しく話しなさいっ」

 ほ、微笑みながらも目が笑っていないぞユリよ...

「わわわかった!あの日ユリと公園で話した後、夜に日課となった草原での特訓をしておった。で、魔物を普通に倒した時に「勇ましき者」に変わったのだ。」

「スキルの方は<オーバードライブ>といスキルであったぞ。MPとSPを消費しながら全能力を強化するものだ。ただ使ってみたが消費スピードが早いので30秒がやっとだったぞ。」


――――<オーバードライブ>とは、MP、SPを毎秒2づつ消費しプレイヤーの身体能力、ステータス、技効果を大幅に引き上げる技である。

 

「え、なに!?称号からもスキル使えるの!...凄いわね。それ半分ぐらいチートじゃない。でもそんな効果があるのなら本当にソロプレイヤー攻略も不可能じゃないわ。」 

(うんそうね...てことはその日草原で戦った時と今の違いね...やっぱりソロ戦闘が関係してるのかな? 取得条件もそうだったし...てことは私の場合もソロで戦うか...それか誰かを助けるってこと?) 

「決めたっ。魔王一旦パーティ解散して戦うわよ。」

 

――――聞いたユリの説明によるとやることは変わらない様だ。

 ソロとして我をサポートしながら戦うそうである。称号が変わった条件を考えてのことだろう。因みにパーティ解散で変わった点と言えば経験値と素材が倒した方にしか入らない事だけだそうだ。

 

「うむ、わかった。ユリに任せよう。」 

 それから小一時間、我らが戦闘を繰り返した結果ユリの称号が変わった。

 恐らく称号の名は初期状態のみすぐ変化する仕様なのであろう。何故なら我の称号には一向に変化の兆しが見えぬからだ。

 そしてユリの称号は「慈愛の救者」へと名が変わり、さらにスキル<精霊の加護>を会得しておった。


――――<精霊の加護>とは、MPとSPを消費して術者と対象に防御結界を張る魔法である。防御結界は物理攻撃、魔法攻撃を半減し、全状態異常耐性を強化、及びプレイヤーの身体能力を強化するという技である。

  

「えへへーやった!なんかズルいけど得した気分。」そのユリはというと、満面の笑みではしゃいでいる。こうやっていると、本当に可愛いらしい少女といった感じであった。 

「良かったな。腹も減ったし既に良い時間だ、今日はそろそろもどるか?」 

「うん、そうねっ。折角食材もいっぱい手に入ったことだし、レストランに行って料理を作ってもらいましょ」 

 いつの間にかだいぶ先へと進んでいたらしく始まりの街が霞んで見える。

我らは海外沿いの岬まで来てしまっていた様である。

――――その時だった。


「うわああああああ!!!!」何処からか悲鳴が聞こえる。

 声のする方に目を遣ると、其処には一人の冒険者が大きな蟹の魔物に睨まれ立ち竦んでいた――――――

 

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