表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

魔王はスキルを覚えます

これは翌日の魔王。


 リリン♪ リリン♪...リリン♪ リリン♪ 

眠る魔王の頭の中に優しい鈴の音が鳴る。

 リリリン! リリリリン! リリリリリリン!! リリリリリリリリリリリ!!!!

そしてそれは徐々に激しく鳴り響き、仕舞いにはただの騒音へと変貌するのだった。


「むにょむ、むはっ!!? なぬんだーっ!!!」

 魔王は厚みのあるマットが敷かれた寝床から跳ね起きると驚き叫んだ。

「ちょっと!! まだ寝てるのっ!? 今日は技能の神殿に行くって約束でしょ!!?」

 少女の劈く様な高い声が魔王の頭に木霊する。

――――そう、魔王は朝に弱かったのだ。所謂低血圧というやつである。


「む、わわかったから...もう少し声を抑えてくれ...我は朝に弱...グー...グガー......」

 再び眠りに着く魔王。そこに不意に階段を勢い良く登る音が鳴り、部屋の扉がブチ開けられる。

「ってまた寝るなーっ!!!!!!」

 先程の少女の大声が狭い木造の部屋に反響するのだった。

「ぬわー!! ユユユユリではないか!!?? 何が!? 一体何が起こったというのだ!!」

「あんたねぇ? 人と約束しておいてお昼近くになるまで寝てるってどういう了見よ?」

 魔王は驚きユリは凄む。そうして魔王の一日は今日も始まる。


 我はそんな風にユリに起こされ、遅めの朝食を食べながらガミガミと怒られたのだった。

 なんか凄い怖い顔で怒られたのだ。それはもうちびりそうになるぐらいの怖さであった。

 そうして我は漸くユリにランチとデザートを奢ることで許してもらえた。

...とりあえず、ユリを待たせてはならぬ。


 そして今、我は技能の神殿のスキル付与部屋に居る。確かに巨大な神殿では有るのだが、それでも通常では考えられない程に中には無数の部屋が存在していたのだ。恐らく有に千は超えているだろう。

 我がその内の一部屋に入ると、其処には更に見紛うばかりの異様に広い空間が存在していおったのだ。

 まあ色々と驚いたのはいつもの事なので省略する。

 ただスキルとは...スキルとはなんと壮大なのだー!!

 一応ユリに大体の目星をつけてもらったのだが、それを実際の効果と共に順に確認したそれだけで由に二時間は掛かってしまっのだ。

 因みに技能の神殿には貸し出し用のアイテムボックスなる物がある。中には武器や防具、回復薬などのアイテムが入っており、色んなスキルをその場で試せるという仕組みになっている様なのだ。


 それとスキルは技能の神殿で何時でも自由に組み替えることができるらしい。一瞬にして欲しい能力が得られ、いつでも付け替え可能とは全く持って驚愕千万である!!

 だがユリ曰く、あまりスキルを換えてばかりいると器用貧乏になるし、スキルレベルが低すぎて後で役に立たなくなるわよ!という事であった。

 ある程度スキルを決めたら、それを鍛え上げ進化させていった方が強くなるのだそうだ。まあ我の世界でも何事にも手を出す者は、一つを極めし者に敵わないと良く云われておったからな。そういう事なのであろう。


「それにしてもスキルとは実に数多いのだな...全てを確認するのに一体どれ程の時間がかかるのだ」

 余りのスキルとそれを説明する文字の多さに、我はまさに頭痛が痛い状態である。

「それはそうよ。βテスターの時だってその期間の大半がスキルの効果や組み合わせの研究に使われてたんだから。一日二日で終わる訳ないじゃない」

 ユリはえへんっと胸を張り語っておった。

 と言っても張る胸...いや、これを言ったら...それ以前に思っただけでも殺されそうなので止めておこう。女にとってそれはベヒモスの尾を踏むと同義であるからな。


「うむむ、この数を前にしては納得だな。こんな膨大なスキルからたった10個しか選べないなど、これから一生一つの食べ物しか食べれないと言われるぐらい悩むぞ!!」

 まあ我ならば、竜の尾の火山焼きを推すが!!...いや、やっぱり此処はあのゼウス山脈で取れる怪鳥ガルーダの卵であるか!! いやでも毎日となれば主食の魔界産麦を使ったパンも捨てがたい。だがレストランで食べたナポリタンとやらも格別に美味であった...むむむ。如何したものか。

「もう。そんなに悩んで全くしょうがないなーっ、先ずは絶対入れた方が良いスキル教えるからそれで試してみなさいっ」

 ユリは魔王が食べ物の事で悩んでいるとは露も知らず、まるで自身の事の様に楽しげに話すのだった。そうして二人は会話を続ける。


「むっなんだそんなものが有るなら早...いや、なんでもないです」

「よろしい。先ずは戦闘において目指すスタイルね! 魔王がどういう戦い方をしたいかによって取るべきスキルは変わってくるわ!」

「我の戦い方か...そうだな基本的には膨大な魔力によって大軍を殲滅するか、魔剣と魔眼を使った個々との戦闘が主であったな」

「ったく魔王キャラはもういいから...例えば私のスキルだったら」


<片手剣熟練度強化>

<片手剣剣技>

<右腕強化>

<瞬発性強化>

<俊敏性強化>

<魔法>

<炎魔法強化>

<治癒魔法強化>

<スウェイ>

<ダッシュ>


「こんな感じよ。剣によるヒットアンドアウェイと魔法による遠距攻撃で常に攻撃する攻撃バランス型ね。普通はスキルを人には教えないものなんだけど、ただの基本スキルだし一般的な組み合わせだから特別に教えてあげるわ!! だから魔王もバカなこと言ってないで真面目に考えなさいよねっ」

 ユリは自身のメニュー画面を開き、他のプレイヤーにも見える様に許可する。すると魔王の視界に馴染みの文字群が映った。

「な、バカなことだと!? 我は本当に魔王だぞっ!! うぐぐっ...そうだ!この角を見てみよ! これこそ我が魔王ディザスターである証だ!!」

 ふはは、どうだっ!! この我の荘厳なる角を見てもまだ信じぬと謂うつもりかー!!

 そうして魔王は自慢げに頭を突き出し、鮮やかな黄金色の捻れた二本の角を見せつける。ただその姿が、幼い少女に対し頭を下げ謝っていた様だった事を魔王は知らない。


(...そう言えばなんで魔王の頭には角が生えてるんだろ? もし頭に角を着けてもヘッドギアを被れない筈だし、それにSSSではそんなの実装されてないわよね...あ、でもβ版でも猫耳や犬耳、兎耳なんか有ったしきっと課金して始めに手に入れたおいたのね!!)

「へへーん駄まされないわよっ! どうせゲーム開始前に特設サイトで課金して買ったんでしょ!? はー第一本当に魔王だったとしてもその魔王がスライムになんかに負ける訳ないじゃない」


 魔王がスライムなんかに負ける訳ないじゃない、魔王がスライムなんかに負ける、魔王がスライムなんかに、魔王がスライム...魔王の頭の中にユリの言葉が響き反芻する。

「な、なんだと...」

 魔王がスライム、違っ我がスライムに負けるだと! だが確かに...魔王が負けたとあっては我が部下に顔向けできん...ぐぬぬ冷静に考えると今の所は本当に魔王というのは黙っておいた方が...

 むーくそう、絶対にいつか我の力を取り戻しユリに見せてやるわ! クククッ我の尊厳ある姿に平伏すユリが見てとれる...そう今は、偽物の振りで欺くのだっ!!


「そ、そうであった! そういえば、この角はそういうものだったなー。我が本当に魔王などと信じるとはユリもなかなか素直ではないか~フーヒュッヒュヒュー♪」

 魔王は口笛を吹き誤魔化す。というか誤魔化す以前に始めから信じられていないのだが...どちらにしても魔王は嘘が下手だった。

「いや元から信じてないしっ!! まあ名前はもう魔王で登録されてるからなぁ...しょうがないけど魔王って呼んであげるわ。で、魔王はどんな戦い方が良いの?」


――――それから魔王は小一時間の更なる思考を重ねた...


 うむ、やはり近接で戦うのも面白い、我は普段魔法での殲滅が多かったからな...ここは心気一転戦士タイプでいいだろう。となると、<スウェイ>か<ダッシュ>はあった方が良いのだろうな。

 武器についてだが、やはり手に馴染んでいる片手剣と言ったところであろうか。先程試しに<片手剣熟練度強化>を付けてみたが感覚的には逆に腕が落ちた様だ...なのでこれは不要であるな。

 次に<片手剣剣技>か...実に面白い。発動した瞬間に身体に何かが乗り移った様に普段より強力な斬撃を繰り出したのだ。


 我が魔王であった時の威力よりは格段に劣るが、元の攻撃力に上乗せされるタイプの様だから入れておこうぞ。たしかこれらは重ね掛けで双剣剣技になると書いてあったな...

ふむふむ、後はコレとコレそれにこの辺りが合うかもしれん。

 うんうん...我ながら実に良い組み合わせではないかっ!! ん?待てよ!! そうか...これが使えるか!! ならば始めから組み直して...何々...よしよし、これで完成だ。


「フッフッフ...クーハッハッハッハー!! 出来たぞ!! 遂に我だけのオリジナルスキルが!! クククやばいな...これはひょっとするとやばいぞ!! いや、これはひょっとひょっとしなくてもやばい!! いやいや、ひょっとひょっとひょっとしなくてもやばいかもしれない!! いやいやいや『ってしつこいわーっ!!!!』ひょぶぐはー!!」

 ゴブふ...ユリの鉄拳が飛んできた。痛みはないが吹っ飛ぶものは吹っ飛ぶのだ。

「でっどんなスキルにしたの?」

 ふはは!! 我の言葉に案外ユリも目を光らせ期待している様だな。くっくっく...

「さあ見るが良い!! これが我のスキルだー!!!!」


<大剣剣技>

<大剣剣技>

<斬撃系技スキル強化>

<斬撃系技スキル強化>

<筋力強化>

<スウェイ>

<瞬発性強化>

<軽化>

<重化>

<魔眼赤>


「...え?酷すぎっ」

「フハハハハ!! どうだ我が...ん?」

「ちょっと何このスキル!! 大剣剣技二つって...てか熟練度強化付けてないし。しかも斬撃系技強化も二つだし。筋力強化だけで大剣二本なんてちゃんと扱える訳ないじゃない。あと魔眼とか0.01秒よ!? たしかにレベル上げて最後までスキル進化させれば0.1秒ぐらいにはなるかもだけど、それでも他に入れるべきスキルあるでしょ!? それに大剣二本で双剣って、実際にやる人始めてみたわ...それに――だし!! それに――――で、一体どういうつもり!?」

 ユリが怒濤のラッシュを掛けてきた。

 なんか凄い怖かったから我は敬語になってしまったのである。


「...はい...あ、はい.....いえ、あ! いえその通りです。.....はい、.....あ、はい...でも、そこはですね、軽化と重化で......熟練度の方は......えっと、はい..........自力でなんとか出来るかと......いえ! 舐めてません!!.....はい、そうです。それからコレはですね.....」 

 なんとか分かって貰えました。

 いや、別に敬語も使えない訳ではないのですよはい。因みに我は魔王子専属家庭教師に教えて貰っておったから一通りの武道や戦闘知識、一般教養は身に付けているのだ。えっへん。ふはは。


 そして我のスキルについてだが――――

 我は一通りの武具を遜色無く扱えるので、大剣の二刀流に於いても<武器熟練度強化>は不要であった。これはスキル枠を二つ増やしたのと同義なので我にとって大きなアドバンテージと云えるだろう。

 そして次に我は<大剣剣技>を二つ付けることで<双大剣剣技>を使える様にしたのだ。因みにメニュー画面のスキル欄には<片手剣剣技>が二つ表示されるだけであった。

 ただ感覚的にと言うか、初めからそれを知っていたかの如く我の頭に双大剣剣技の知識が入って来たのである。全く以って理解不能というか摩訶不思議というか、真にこのSSSなるものは珍なる世界である。

 我は更に<筋力強化>を身に付け、大剣を難なく自在に振るう事が可能となった。因みにユリはそれに対して驚愕しておったぞ。普通大剣を扱うには、最低でも<腕力強化>が必要と云うのが常識だからだそうだ。


――――ここでSSSの情報を補足する。魔王が何故<筋力強化>のみで二本の大剣を扱う事が可能だったかと言うと、ステータスとは別に個人本来の身体能力や筋力、瞬発力、俊敏性などが、隠しステータスとしてSSS内の能力に加算されるからだ。ただある程度の補正が加えられ、低年齢や高齢者、女性の方がその加減が大きい。これらは脳内イメージからアバターが作られる故である。――――


 そして<軽化>と<重化>は、その効果によって大剣の重量を操作する事が可能であった。なので我は移動速度、斬撃威力、大剣の操作性を更に高められるのだ。

 この二つのスキルは説明によると自身の重量を操作するそうだが、装備した武器も自身に含まれる様であった。因みに、試してみたところ<軽化 Lv1 >で体重を大体二分の一に、<重化 Lv1>では体重を凡そ二倍にまで変化させる事が可能であった。

 <斬撃系技スキル強化>の重ね掛けは、双大剣の技スキルの威力を倍以上に高める。火力を高めたその技スキルは我の必殺技となるだろう。ただ二刀流は盾を持てぬので回避能力が重要な要素となる。一応大剣での防御も可能なのだがダメージ効率が悪くなるのだ。

 そこで我は、<スウェイ><軽化><俊敏性強化>を使い、そうして敵から付かず離れずで常に大火力の攻撃を叩き込むという作戦を思い付いたのである。


 最後の<魔眼赤>は、説明によると0.01秒と云う発動時間なのだそうだが、そうは言えどもその一瞬の価値は絶大なのだ。我の経験が云うのだから間違いない。

 因みに我が1秒とはどのくらいの間だ? 

 と聞くとユリは――――「パン!...パン! の間が1秒ね。その十分の一がパンパンッ! で0.1秒。その更に十分の一がパパンッ! で0.01秒ぐらいよっ!! なんでそんな事も知らないのよ!? ガミガミガミガミ!!」と云う事であった。

 因みにだがユリよ0.01秒の手拍子は絶対合っていなかったぞ! 我の目を誤魔化せると思うてか! ふーっはっはっはっはー!! ...と謂ったら殴られた。

 なので先程の説明のガミガミと煩い後半は省略である。ふはは、ユリよざまあ見るがよぐふあ!! と思ったらまた殴られたのである。

 だ、だが何故我の思考がわかったのだっ!? もしやユリの奴読心術を心得ておるのか!


 ぶおほん! と話は逸れたが、我のスキル構成はこうして編み出されたのだ!! ふーはっはっはっはー!! こうなれば早速我の大剣を手に入れに行くとしようぞ!! 


――――――――――――――――――――――――――――


始まりの街 とある鍛冶屋


 そして我はユリと共にこの前の武器防具屋を訪ね大剣を二本買った。因みに買った大剣は「木の大剣」の2ランク上「鉄の大剣」1000ゴールドである。

 ワーウルフやスライムからのゴールドに、ドロップアイテムを売ることで資金はギリギリ調達できた。因みに魔物からのドロップアイテムは鍛治職人や料理人などに渡し、武具や料理にしてもらうことも可能だそうだ。

 その後、我等は街を巡りユリに店や施設を説明してもらっった。その道中ユリは他の人間から声を掛けられておったがなんともβテスター時の知り合いだそうだ。時折我の方をチラチラと見てくるのは大剣を二本も背負って歩いているからであろうか?

 確かに街を見たところ大剣を持っている者自体少ないのだ。機動性を備えた片手武器や太刀などが多く目に付くのは、デスゲームによる所が大きいのだろう。それもあってか如何せん我の大剣二刀流は目立って仕方がなかった。

 ユリの知り合いと云うβテスターの話しによると、ゲームクリアを目指す攻略組という団体を組織する為、多くのβ版経験者と共に奔走しているらしい。それでユリも協力してくれと声を掛けられたと言う訳だ。

ユリは明日顔を出しますと言っておったな。


そうして我は街を巡る中一軒の鍛冶屋へと足を運んでいる。

「いらっしゃ~い!! ってユリちゃんっ♪ 今日は武器の新調?...それとも後ろのボーイフレンドを紹介してくれるのかい?」

 店主はユリと顔馴染みらしい。人間にして二十歳ぐらいの女性で人懐っこさが顔に良く出ている。身長はユリよりも低く小柄だ。髪はウェーブがかかった黄緑色で、何となく雰囲気が猫っぽい。

「お久しぶりですマチさんっ! βテストの時以来ですね♪あと彼は只の友人ですからっ!! 出会い頭に変なこと言わないで下さい」

 いつもよりユリも楽しそうである。久しぶりに気の知れた友人に会えて嬉しいのだろう。マキさんなる人は我を見てあららと言った顔をしておる。我が何かしたのであろうか?


「あらあら凄い格好してるわね...旅人の服に鉄の大剣二本、それに頭に生えた角、なんともチグハグねー。そうだっ!! ユリちゃんのボーイフレンドってことで今回はお姉さんが防具をプレゼントしてあげるっ! こっち来て! 名前はなんて言うの? 可愛い顔してるわねっ」

 なんとも勢い良く語る人間である。しかもまた可愛いなどと言われてしまった....全く持って無礼だ。

「むっ我は魔王だ!」

 とりあえず名前は名乗っておいた。その後は、何が何だか分からぬ間に体を測られ、質問を受け、何とも大変であったがな。


「はーマキさんとやらはなんとも慌ただしい人間だな。」

「んーそうねっ。でも凄く好い人だよっ! 私が初めて会った時もあんな感じで、気が付いたら装備全部一新されちゃってたもん。ただ腕は確かだから、これから魔王も良い素材が手に入ったら此処に来ると良いよ」

 あのユリでさえも勢いに丸め込まれたと謂うならば我にはどうしようもない。ただ確かに良き者であるしユリが馴染みになるのも分からぬではなかった。

 そんなことを考えてると、瞬く間に新しい防具を持ってマチさんが奥の部屋から出てきた。だが何という早さだ! 鍛冶スキルと謂う奴であろうか? 全くこの世界のスキルには驚かされる。


「じゃじゃーん! 魔王くんのイメージに合わせて作ってみましたーはいコレ!! ふふーさあ早く着て着てっ!!」

「う、うむ...」(メニューオープン、装備....コレを着るっと)

「おおー!! 良いね良いねー流石私っ、似合ってるよっ魔王くん!! ユリちゃんもそう思うでしょ?」

「あ、はい! そうですね流石マキさんですっ」

「このこのー褒めたって何も出ないよーっ!? 魔王くん着心地はどうっ?」

「うむ。軽くて身に馴染むな! 本当に良い腕前だ」

 新たに着た服は真に着心地が良かった。身体を軽く動かしてみたのだが、何処にも引っかかることなくスムーズに動く。それでいて、しっかりとした厚い素材が防御力を上げてくれるのだ。


「へへーありがとっ!! それじゃお代の代わりとしてこれからもこの鍛冶屋<ミーアキャット>を宜しく頼むよっ!」

「うむ了解した。こちらこそ宜しく頼む」

「マキさん今日は突然来たのに色々とありがとうございましたっ。今度良い素材持って来ますね!」

「はいよーっ!! 期待して待ってるよー♪ それに暇な時遊びに来てねっ! 魔王くんも連れてで良いからねっ」


 そんなこんなで我がマキさんの店から出た頃には日が沈んでいた。

「どう? マキさんって変わってるけど凄い好い人でしょっ?」

「ふむ....ああ、そうだな....」 

 そして時も遅くなったので今日はこれでユリと別れた。ユリは明日、攻略組の結成準備を手伝ってくるらしい。しかし人と言うのは不思議なものである。一体何故見も知らぬ、ましてや人間でもない我に見返りもなく何故親切をするのだろうか。全く以って信じがたい。


「さてと....宿に行くにも早いし折角だ、スキルを試してみるか。」

 魔王は一人、門へと歩き夜の草原へと向かったのだった。

........そうして草原の入口へと着いた魔王は、早速門の近くに居たゴブリンに目を遣る。


(そういえばゴブリンは我の世界にも居たな。少し見た目は違うが似ている。小鬼は知能が低いが故に命令も効かずその繁殖力の強さから人間からも魔族からも邪魔者扱いされると云う、今思えば可哀想な魔物であった。我もまた人間からしてみればそんな存在であったのだろうか?.....我のしてきた事は間違っていたのかも知れん...今更どうすることも出来ぬが...。)

 何故だかふとそんなことを考えてしまった、この世界に我が来たことにも意味が在るかも知れんな。


「ふっ全く我らしくも無い...今はただあの人間の少女へ。ユリへの恩義を果たすだけだ。遅くなったな...小鬼よ。恨みはないが悪く思うな。いざ参るっ!!」


 魔王は自身の体重と大剣を軽くしながら素早く近付く。そのスピードは普段より、何も装備していない時よりも素早い。そしてゴブリンが気付き攻撃に移るよりも早く背に携えた大剣を背から抜く。

 魔王は両腕にそれぞれ剣を持ち、振り上げ撃ち落とす動作と共にその重量が急激に増す。

 軽く素早く振られた剣は重力によって重みを増し速度を増し更に加速する。大剣の切先は尋常ではない速度となる。

 その速度が最大になるタイミングで、愈々大剣がゴブリンの体に減り込む。

 なんとその一撃でゴブリンの体は四つに分解され、光と還ったのだった。だがしかし、

 ドズン!!

 鈍い音と共に魔ゴブリンを斬った大剣はそのまま地面へと減り込む。

 二本の大剣が深く地面に突き刺さり、手をクロスした状態で魔王は硬直する。重化した大剣を抜くには、この体制では力が入らなかったのだ。


(...一撃の威力は重いがこれでは使い物にならんな。我としたことが全く情けない......先ずは目先の事に集中するとしよう。)

 恐らく重量を増した大剣が必要以上に速度を出し過ぎた結果、振り抜くスピードが殺され切れず地面を抉ったのだ。

(...振り抜く途中で重量を軽くし勢いを殺さねばならんか。次はあのタイミングで軽くして...ブンッフッザシュッ!...いや違うな、ブンザフッ...うむ、ブンザフフン!と云った感じで切ってみるか。)


 魔王は振り抜くイメージを頭の中に描き、最高の一撃を意識する。

魔王は辺りを見渡し次の標的を見つけるとまた走る。


 だが今度は、軽くする速度が早過ぎゴブリンの体の途中で大剣が止まる。

 辛うじで意識の残るゴブリンは鋭く尖った爪を魔王目掛けて振る。

 魔王はそれを深くしゃがみ避け、更に地面に手を着くと水面蹴りを放った。だがそれは完全で無く、ゴブリンの攻撃が魔王の頬を掠めていた。

 しかし魔王はそれを気にすることなく賺さず立ち上がると、ゴブリンの体に刺さった剣を抜き再度突き刺す。またしても、ゴブリンは光となり消えていった。


(反撃を喰らってしまったか。勢いを殺すのが早かったな。それに攻撃が深過ぎると抵抗が大きく...逆に浅いと勢い余ってまた地面に刺さってしまうか、剣に体を引っ張られてしまう...大剣がまだ体に馴染んでいないせいか。よし、次だ!!)

 一回一回、反省点を確認しながら魔王はそれを改善していく。驚異的なセンスと云って良いだろう。そうこうしてゴブリン達を次々と屠っていくと、自然と魔王のスキルレベルも上がっていた。


(よし...だいぶ感覚は掴めたな。次は新しい技スキルも使ってみるか。)

(さて、技スキルの特徴は掴めた。次はスウェイあたりを混ぜてみるか)

(うむ大体こんな感じか。双剣を生かした手数の多い攻撃をどうするかだな...)

 こうして試行錯誤していく内に夜は明け、東の空には太陽が顔を出し、更に上へと登ろうとしていたのだった。


「ふう...最後に一通り繋げてみて帰るとするか。と、その前に貯まったSTポイントを振っておこう。ATK多めにと..ポチポチ...うむうむ、スキルLvも順調に上がっておる様だな。」


 ----------------------------------------------------------


 魔王Lv6 <勇気ある者>


 HP : 121/221

 MP : 34/58

 PP : 8/67


 ATK: 82 (+140)

 DEF: 42 (+40)

 MIND:54 (+20)


<SKILL>

<大剣剣技 Lv8> <大剣剣技 Lv8> <斬撃系技スキル強化 Lv6>

<斬撃系技スキル強化 Lv6> <筋力強化 Lv12> <スウェイ Lv4>

<瞬発性強化 Lv5> <軽化 Lv10> <重化 Lv9> <魔眼赤 Lv4>


 -----------------------------------------------------


(スキルについてはこんな感じか...)


<大剣剣技>が各々Lv8となりダブルスラッシュやダブルスタブ、回転斬り、大双破斬の四つを覚えた様だ。

<斬撃系技スキル強化>はLv6になったがどれも一撃なので効果は分からなかった。ただレベル上昇によりいきなり大きく変わりはしないだろう。

<筋力強化>はレベルアップで大剣が前よりちょっと軽くなった感じがする。スキルレベルが高いからか少しは実感できた様だ。

<スウェイ>や<瞬発性強化>は変化なし、<軽化>と<重化>はそれなり。

<魔眼>はMPを消費する様だ。ちょくちょく使ってはいるがまだまだ発動時間は短いままだ。進化によって時間が増加するのかも知れんな。

 スキルレベルは簡単に上がる分、効果は薄い様だ。それにレベルが高くなって上がりにくくなってきたのを感じる。

 大剣については、これからも特訓が必要だろう。我の毎日の日課とすることにした。


 それにしても今日もまた楽しい一日であった。ユリと居ると我が魔王というのを忘れてしまいそうになるのだ。もし我が魔王で無ければ一体どの様な人生を送っていたのだろうか...っなどと我は何を考えておるのだ。

 我は魔王、世界を統べる王であるぞっ...しかしそんな事...この世界では何の意味も持たないのだろうな。だが人間というのは、本当に不思議な心をしておる。寿命が短い分色々圧縮されて詰まっているのだろうか? 表情はコロコロ変わるし良く笑う。それに優しい。

ユリだけでなくマキさんとやらもそうであった。


 我の心が少し痛む....人を知ることでこれまでの自分が揺らぎそうになる。

 だが今はそれでも、人間達と触れ合っていかなければならない。そんな気がした。

まあよい。明日は一体どの様な一日になるのであろうか....


 我はそれでもこの世界をその明日を楽しみにしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ