雪降る夜に
9階に駆け上がって行くとメインフロアの真ん中に一人の男が立っている事に気がついた。
「やぁ、いらっしゃい。ここに来ると思ってたよ。Trike。」
立っていたのは桐生だった。装備はアサルトライフルのみ。しかし、このメインフロアはパーティー用に設計されており障害物が多い。敵を発見するのに苦労するだろう。
「(どうする!?)」
「天翔は先に行って。桐生の相手は私がする。」
「だけど、桐生は!・・・沙紀を殺したんだぞ!!」
「ダメだよ、天翔。天翔は上に行って核を止めて?それは天翔にしかできないことなんだから。」
「・・・・・わかった。結衣、死ぬなよ。」
「うんっ、絶対天翔の所に帰るからねっ。」
俺は桐生を睨みながら横を通り抜ける。攻撃は受けなかった。階段を上り始めると銃撃戦の音が後ろから聞こえてくる。それをシャットアウトし、ひたすら階段を上がる。
// 結衣 SIDE START
「彼、先に行かせてよかったのかい?」
「ええ、天翔には天翔にしかできないことがあるから。」
「だけど、どうかな。彼、結局苦しむ事になると思うけどね。」
「私は死なない!」
「そうじゃないよ。・・・・真実はいつの時代も残酷ってことさ。」
「どういう意味?」
「さぁ・・・ね!!」
(パパパパンッ!)
鋭い破裂音がホールに響きわたる。お互いに物陰にかくれ銃弾の応酬になる。
「(手強い!?)」
徐々に焦りを感じ私は横にあった大きな丸テーブルを倒しその影に隠れる。弾倉を変えて反対側に倒れているテーブルの向こう側にグレネードを投げる。爆発音と爆風をまき散らせた方向へと走り、ライフルを向ける。
「い、いないっ?!」
そこに桐生がいなかったのだ。あのグレネードから逃げるにはこのルートを通るしか無いはずだ。しかし現にそこにいない、つまりどこかへ逃げたと言う事だ。
「どこだ!」
「ここさ。・・・さよなら、楽しかったよ。」
声が聞こえた方向を見るとライフルを向けた桐生が立っていた。
「(まずいッ)」
直感的に感じた私はすぐに横のテーブルに飛び込む。飛んだ瞬間に銃撃音が鳴り響く。しかし予想した痛みは体を襲っていない。気になった私はテーブルの横から顔を出してみるとそこにはまさに予想外の状況が広がっていた。
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なぜか胸騒ぎがした俺は階段にいた敵を倒してから結衣のところへと戻った。するとグレネードが爆発したのか爆風がフロアから階段に流れ込んでいた。俺はそれを壁に隠れてやり過ごしてから壁越しにフロアを除いた。そこには結衣がグレネードの爆心地に飛び込んだ所だった。しかし、そこに桐生はいない。桐生はそこからさらに回り込んで逆に結衣の後ろを取ったのだ。だが桐生が立った場所は俺がいる数メートル行った場所だった。その瞬間俺はフロアに飛び込んだ。
「残念、BAD ENDだ。」
(パァン!)
「グッ!」
俺は桐生の持っているライフルを撃ち落とした。桐生は右手を押さえながら後ろに下がる。だがそこには結衣がいるのだ。
「桐生、終わりだ。」
「ふぅ、そうみたいだね。・・・まさかこっちに戻ってくるとはね。監視カメラから見てたのかい?」
そう言って桐生は顎でフロアの端に設置してある監視カメラを指した。
「いや、たまにはアナログ的カンにも頼ってみようかと思ってね。」
「フッ、たいしたやつだよ。・・・まぁ、最後にしては面白かったよ。」
「じゃあな。・・・お前は一生恨んでやるよ。」
(ドパァン!)
俺はライフルで桐生の心臓を撃抜いた。
沙紀がそうされたように。
「・・・・・」
「天翔」
「ッ!」
結衣が肩を叩いた瞬間俺はとっさに振り払っていた。
「あっ、・・・・ごめん。」
「ううん、気にしないで。・・・大丈夫だから、私はずっといるからね?」
「ありがとう。・・・・・進むもう。上へ。」
「うん、そうだね。」
俺達は階段を駆け上がり最上階まできた。
「結衣、まて。」
「どうしたの?ここまできたらこの壁を超えれば・・・」
「この壁の向こうに赤外線センサーがある。引っかかれば秒間30発の銃弾が飛んでくるぞ。」
「それなら別ルートを・・・」
「いや、それじゃ間に合わない。今の時間は・・・11時30分か。10分でこの階のセキュリティを掌握する。」
「分かった。」
「行くぜっ、Assualt!」
流れて行く文字列を頭に叩き込みサーバの穴を探して行く。ハッキングツールを起動しコマンドを打ち込みそれを多重起動し、さらに外部のネットワークを利用し処理領域を増幅してパスワードの解読する。プログラムが適当な数字を当てはめていく状態なので時間がかかるのが盲点だ。だが、今回は時間がない。なので外部のパソコンや企業のスパコンをハッキングし処理領域をカバーする。
「よし、パスワード発見!・・・最上位セキュリティサーバに侵入完了!パスワードを書き換えて管理者権限をゲット。赤外線並びに最上階セキュリティをすべて解除!よしっ、行けるぞ!」
「うん、さっすが天才ハッカーだねッ!」
長い廊下を走り大広間のような場所にでる。おそらくここは都庁最上階にあるカフェテリアだ。
———そこにたたずんでいた人間は、天翔たちの予想を遥かに超える人物だった。———
「木屋野・・・・・会長?」
そこに立っていたのは木屋野元会長だった。天翔が通っていた学校の元会長。それがなぜ、こんなテロの中心地に。。。決まっている。この人が、この人が、首謀者だからだ
「天翔くん、君はここにくると思っていたよ。」
「なんで・・・・あなたが。こんな。」
カフェテリアの中央に立った木屋野はクスクスと笑いながら大きな箱の上に座る。
「私は昔アメリカに住んでたんだけど、その時ね。家に強盗が入って家族全員皆殺し。私は家にいなくて助かったんだけど。小さな妹まで殺されちゃったの。・・・それで私は決意した。こんなくだらない世界なら最初から創造すればいいんだって。そうするにはまず破壊が必要。私はこの組織を作った。世界を破壊するためだけに!」
「そんなの、ただの自己中心的な考えじゃないですか!」
隣に立ち話を聞いていた結衣が突然声を荒げた。
「私も小さい頃にテロにあって父親を無くしました。だけど、私は愛する人を見つけた。だから生きる希望を持てたんです!」
そう言いながら結衣は俺の手を握ってくる。俺も強く握り返す。
「私にはそれがいなかったのよ。そして日本に来て、君を見つけた。・・・天才ハッカー『Trike』こと碓氷天翔。私はあなたを利用するためにあの学園に入り、生徒会にあなたを招いた。GHOSTがいたのは予想外だったけどね。」
そう言いながら自分の心臓を指差す。
「私を殺さないとこの核は止まらない。・・・そしてあなたはこのゲームに勝った。殺しなさいTrike、いや碓氷天翔!」
「木屋野先輩点・・・・・」
俺は静かに右手にあるライフルを持ち上げる。
「そう、それでいい。私は計画の末端でしかない。すべては今始まった!気をつけろ、Trike。あなたはここまで来てしまったのだ!」
「・・・・・・ッ!」
(ドパァァン!!)
銃声がカフェテリアの壁に反響する。そして木屋野がゆっくりと倒れる。そして結衣は静かに俺を抱きしめてくれた。
「結衣、ありがとう。」
「ううん、私こそ。ありがとう。本当に。」
しばらくすると、非常階段からP.J.F.Aの兵士が押し寄せてきた。先頭にいるのは霧島さんと吉野さんのようだ。霧島さんはこの状況を見てから目を見開いて俺達の方に駆け寄ってきた。
「天翔くん、大丈夫か!」
「はい、俺は大丈夫です。ですが、すみません。・・・殺しました。」
霧島さんは大きな箱の横に倒れている木屋野を見てから大丈夫だ。とつぶやいた。
「そっちの女の子は?まさか撃たれたのか?」
結衣は疲れて俺の膝枕で寝てしまっていたのだ。
「いえ、疲れて寝てしまったようです。それよりも核を。」
「あ、ああ。」
まもなう爆弾処理班がやってきて核の解体作業を行った。
「どういうことだ!?」
「どうしたんですか?」
急いで霧島さんがかけよる。そして霧島さんまでもが驚愕の表情を浮かべる。つられて俺も覗いてみるとそこに核は存在していなかった。
「核が、ない?」
呆然とするフロアに着信音が響きわたった。一斉に着信音の方を向く。メロディは天翔の携帯の物だった。
おそるおそるメールを開くとそこには件名にはAssualtとだけ記してあった。急いで本文を開く。
『Hello, Trike. 計画は始動した。核は僕が戴いていく。この組織はただの組織ではない。理念は継がれて行く。では、またいつの日か。ごきげんよう。』
「Assault・・・・ッ!クソ!!』
携帯を思いっきり地面に投げつける。全員が俺の言葉をまっている。
「敵のハッカーからでした。計画は始動した。核は自分が戴いていくと。」
全員が驚きと恐怖の表情を浮かせる。しかし、霧島さんと吉野さんは冷静だった。
「ぼさっとするな!まずは情報収拾だ。それが終わったら撤収するぞ!」
「「「はいっ!」」」
俺は結衣を抱き上げてその場を後にした。
都庁から少し行った所の公園に座り、結衣を膝枕で寝かせる。
「おつかれ、ありがとな。」
そう言って、頭をなでると目を薄く開けていた。
「天翔、くすぐったいよ。」
「ごめん、起こしちゃったか?」
「ううん、大丈夫だよ。核は?それにここは?」
「核はAssualtが持って逃亡したらしい。それとここは都庁を出て少し行った所の公園だよ。・・・P.J.F.Aの人たちが来てさ、騒がしくなってきたから逃げてきたんだ。」
そう言って俺は苦笑いを浮かべる。
「これからどうするの?」
「そうだなぁ、種子島に戻るのはどうだ?」
「それもいいな、Assaultのことも気になるし。それに結衣のお母さんに会いに行かないとな。それと、今はクリスマスだけどもう少しで正月だしな。それが終わったらもう3学期が始まっちゃうよ。」
「うん、じゃ種子島に戻ろうか。」
「ああ、そうしよう。だけど、少しここにいなきゃ行けないかもな。」
「なんで?」
「いろいろあるだろ、荷造りとかさ。P.J.F.Aのことも気になるし。」
「そっか。そうだね。」
「さ、とりあえず俺の家に帰ろうか。」
「うんっ!」
二人で立ち上がると目の間を白い物が舞い降りる。
「雪だ。」
「ワァ!ホントだ。・・・ホワイトクリスマスだね。」
「あぁ。そうだな。」
雪が東京の空を白く染めあげて、
クリスマスミュージックがなる都市の中心部から少し外れた公園ではわずかな音楽が聞こえてくる。
そんな、そんな。
果てしない時のような感覚の中で、
俺達は、長い長いキスをした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜第一部 Bullet of Justice編 END〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次にEpilogue入れます。




