向日葵
三題噺もどき―はっぴゃくにじゅう。
重苦しい空が広がっている。
風は比較的おとなしいが、曇っている以上温かくはない。
その上、ぽたぽたと雨まで降りだして、寒さに拍車をかけている。
暦の上では春を迎えたはずなのに、空気は真冬のように冷たい。
「……」
まぁ、教室内に居る限り、寒くはないのだけど。
バカみたいに換気だなんだと窓を開ける人が、昼休みの時間には居ないので。
雨のせいで外に出られない分、いつもよりも騒がしい昼休みのような気がする。大抵外で走り回っている人たちが、今日は廊下を走っている。……毎日バカ騒ぎをして、楽しそうなものだ。ここは小学校だったか?
「……」
教室内の隅の方に固まっているので、その影響は1ミリも受けていないが、騒がしいのはあまり好きではないし、普通にうるさい。
もう少しおしとやかにとまでは言わないが、年相応の行動をしてほしいものだ。
「―ね、聞いてる?」
「―ん?」
あまりに外がうるさすぎて、聞いていなかった。
昼食を終え、いつも通りのメンバーでお菓子を食べたり、スマホをいじったり、会話をしたりとしている時間だった。
隣には机を挟んで座る、あの子。
なぜか机の上に白地図を広げて何かをしている。世界ではなく、日本地図。県境に線が引かれている。そのうちの何か所かが黒く塗りつぶされていた。
「なんだった?」
「だからー」
私は、椅子に横向きに座り、この子が、何かをしている様子を眺めていた。
喧騒にひっぱられて、顔まで横を向いてしまったが、怒られたので身体ごと向き合うことにしよう。少々お行儀が悪いが、まぁいいだろう。別に困ることもない。……あとから気付いたが、椅子ごと向けばよかったな。
「――ってどのへんだっけ」
「ここでしょ」
「あーそうだ」
なぜかいつも持ち歩いていると言う、えんぴつで丁寧に塗りつぶしていた。
どうやら、何かを基準に塗りつぶしているらしい。……自分たちの住んでいる県と、ここは確かこの子の祖父母がいる県だと言っていた。
あとは、この辺は私も修学旅行でなら行ったことがある。
「……行ったことがある所ぬってるの?」
「だから、そういったじゃん」
ホントに話聞いてなかったやつじゃん―とまで言われたが、まぁ、それは申し訳ない。
突然机に広げたから何事かと思って眺めていただけなもので。
あぁ、先程から広げたと言っているが、そんな大きなものではなく。手帳の後ろについているような感じの……半分に折ってしまえばA5サイズくらいに収まるようなサイズの、小さなものだ。というか、よく見たら、スケジュール帳そのものだな。
「……これ何の手帳?」
「ん?予定入れたり、好きなこと書いたりしてる」
「へぇ……」
邪魔にならないように、めくって表紙を見てみると、向日葵のステッカーが貼ってあった。
表紙の半分ほどが埋まるくらいの大きな向日葵だ。
この子の、好きな花、だ。
「……」
「なんかあった?」
「いや、向日葵可愛いなと思って」
「!!でしょー!たまたま見つけてー」
つい先ほどまで、一生懸命集中していたのに、一気にパッと楽しそうに話し始める。
夏空の下に咲く向日葵みたいだなんて、ベタなことを言うけれど。
この子は、やっぱり笑っている顔が可愛くて、よく似合う。
向日葵のステッカーの話から、どこかの県に見に行った向日葵畑の話をしてくれた。
「――でさ、」
「へぇー」
「なになに、何の話してるの」
「あのね、」
「……」
回りに、人が居たのを忘れていた。
―ことはないのだけど、思わず声が詰まる。
「えーすごいきれー!」
「でしょー!」
スマホを取り出し、その時に撮ったのであろう写真を見せていた。
私は、何度か見せてもらったことがある。
大きな向日葵の下で、ポニーテールに白いワンピースを着たあの子が、楽しそうに笑っている写真。
「……」
そろそろ、昼休みが終わる。
楽しい時間はあっという間だな。
お題:白地図・えんぴつ・向日葵




