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三題噺もどき5

向日葵

作者: 狐彪
掲載日:2026/02/07

三題噺もどき―はっぴゃくにじゅう。

 




 重苦しい空が広がっている。

 風は比較的おとなしいが、曇っている以上温かくはない。

 その上、ぽたぽたと雨まで降りだして、寒さに拍車をかけている。

 暦の上では春を迎えたはずなのに、空気は真冬のように冷たい。

「……」

 まぁ、教室内に居る限り、寒くはないのだけど。

 バカみたいに換気だなんだと窓を開ける人が、昼休みの時間には居ないので。

 雨のせいで外に出られない分、いつもよりも騒がしい昼休みのような気がする。大抵外で走り回っている人たちが、今日は廊下を走っている。……毎日バカ騒ぎをして、楽しそうなものだ。ここは小学校だったか?

「……」

 教室内の隅の方に固まっているので、その影響は1ミリも受けていないが、騒がしいのはあまり好きではないし、普通にうるさい。

 もう少しおしとやかにとまでは言わないが、年相応の行動をしてほしいものだ。

「―ね、聞いてる?」

「―ん?」

 あまりに外がうるさすぎて、聞いていなかった。

 昼食を終え、いつも通りのメンバーでお菓子を食べたり、スマホをいじったり、会話をしたりとしている時間だった。

 隣には机を挟んで座る、あの子。

 なぜか机の上に白地図を広げて何かをしている。世界ではなく、日本地図。県境に線が引かれている。そのうちの何か所かが黒く塗りつぶされていた。

「なんだった?」

「だからー」

 私は、椅子に横向きに座り、この子が、何かをしている様子を眺めていた。

 喧騒にひっぱられて、顔まで横を向いてしまったが、怒られたので身体ごと向き合うことにしよう。少々お行儀が悪いが、まぁいいだろう。別に困ることもない。……あとから気付いたが、椅子ごと向けばよかったな。

「――ってどのへんだっけ」

「ここでしょ」

「あーそうだ」

 なぜかいつも持ち歩いていると言う、えんぴつで丁寧に塗りつぶしていた。

 どうやら、何かを基準に塗りつぶしているらしい。……自分たちの住んでいる県と、ここは確かこの子の祖父母がいる県だと言っていた。

 あとは、この辺は私も修学旅行でなら行ったことがある。

「……行ったことがある所ぬってるの?」

「だから、そういったじゃん」

 ホントに話聞いてなかったやつじゃん―とまで言われたが、まぁ、それは申し訳ない。

 突然机に広げたから何事かと思って眺めていただけなもので。

 あぁ、先程から広げたと言っているが、そんな大きなものではなく。手帳の後ろについているような感じの……半分に折ってしまえばA5サイズくらいに収まるようなサイズの、小さなものだ。というか、よく見たら、スケジュール帳そのものだな。

「……これ何の手帳?」

「ん?予定入れたり、好きなこと書いたりしてる」

「へぇ……」

 邪魔にならないように、めくって表紙を見てみると、向日葵のステッカーが貼ってあった。

 表紙の半分ほどが埋まるくらいの大きな向日葵だ。

 この子の、好きな花、だ。

「……」

「なんかあった?」

「いや、向日葵可愛いなと思って」

「!!でしょー!たまたま見つけてー」

 つい先ほどまで、一生懸命集中していたのに、一気にパッと楽しそうに話し始める。

 夏空の下に咲く向日葵みたいだなんて、ベタなことを言うけれど。

 この子は、やっぱり笑っている顔が可愛くて、よく似合う。

 向日葵のステッカーの話から、どこかの県に見に行った向日葵畑の話をしてくれた。

「――でさ、」

「へぇー」

「なになに、何の話してるの」

「あのね、」

「……」

 回りに、人が居たのを忘れていた。

 ―ことはないのだけど、思わず声が詰まる。

「えーすごいきれー!」

「でしょー!」

 スマホを取り出し、その時に撮ったのであろう写真を見せていた。

 私は、何度か見せてもらったことがある。

 大きな向日葵の下で、ポニーテールに白いワンピースを着たあの子が、楽しそうに笑っている写真。

「……」

 そろそろ、昼休みが終わる。

 楽しい時間はあっという間だな。












 お題:白地図・えんぴつ・向日葵


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